『beatmania IIDX』から新鋭のアプリ音ゲーまで 音ゲーライターが選ぶ2022年の「音楽ゲーム楽曲」10選とシーンの概況

2022年の「音楽ゲーム楽曲」10選とシーンの概況

 昨年に引き続き、2022年の音楽ゲーム楽曲群に注目し、個人的に惹かれた10曲をピックアップしながら、今年の音楽ゲームの概況を語ってみたい。

 選定基準は「2022年、新たに音楽ゲームに収録された」楽曲だ。前回記事のセレクトと同様、楽曲そのものとしては音楽ゲーム外で2021年以前にリリースされた作品も含む。

 またこれも昨年と同基準だが、『アイドルマスター』シリーズや『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』、『うたの☆プリンスさまっ♪ Shining Live』などのいわゆるアイドル系・キャラクター系の音楽ゲームは、単一の記事内でともに扱うには世界が広大過ぎるため、本稿では選定対象外とさせていただく。悪しからずご了承下さい。

アーケード音楽ゲーム

1. Summerblue
アーティスト:Toby Fox & Camellia
ゲームタイトル:beatmania IIDX
メーカー:コナミアミューズメント

「beatmania IIDX 30 RESIDENT」収録楽曲クロスフェード Part.2

※「Summerblue」試聴は2:55頃~

 1997年12月10日、近代AC音ゲー文化を拓いたKONAMI(現・コナミアミューズメント)『beatmania』リリースから四半世紀。事実上の後継作となった『beatmania IIDX』シリーズは、世界初の音楽ゲームのeスポーツリーグBEMANI PRO LEAGUEの開始とその成功により、『SOUND VOLTEX』『DanceDanceRevolution』への同リーグの展開をも導出。令和時代の今もなお、同社の展開する音楽ゲームブランドBEMANIの旗艦タイトルとして、またAC音楽ゲームの代表格として君臨している。

 2022年にはシリーズ30作目(substreamを除く)を飾る『beatmania IIDX 30 RESIDENT』がリリースされた。DJをテーマとした最新作の稼働初期曲目の中でも、今夏のロケーションテスト時点から界隈の話題を攫ったのが、インディーゲーム『UNDERTALE』で知られるToby Foxによる完全新曲のおひろめだ。

 タイトー『GROOVE COASTER』での2018年の事例を皮切りとして『UNDERTALE』『DELTARUNE』の既存楽曲の音楽ゲーム収録はいくらかの前例があるが、Tobyによる書き下ろし曲でのAC音ゲー参戦は今回が初。2分尺の音ゲー曲ならではの作法には不慣れとも憶測されたが、音ゲー楽曲制作のベテランにしてエキスパート・かめりあ(Camellia)とタッグを組んだことで、杞憂は完全に解消された。メロとコードをTobyが書き、これをかめりあが第一級の音楽ゲーム向けシンセフュージョンに昇華。公称音楽ジャンルに堂々の“Game Music”を掲げた、ゲーム音楽の矜持と歓喜に満ちた一曲だ。

 糸奇はな「Skies Forever Blue」の楽曲提供、ポカリスエットのタイアップ曲「Pale Rain」(imase with PUNPEE & Toby Fox)への参加、任天堂『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』のBGM仕事など、日本国内でもゲーム内外の音楽シーンに話題を振りまいた2022年のToby Fox。今後の各社音楽ゲームへのさらなる寄与も望みたい。

2. [ ]DENTITY
アーティスト:BEMANI Sound Team "HuΣeR"
ゲームタイトル:BEMANIシリーズ(SOUND VOLTEX, beatmania IIDX)
メーカー: コナミアミューズメント

 年次の恒例行事であるコナミアミューズメント社の機種間コラボレーションは、同社の音楽制作チームBEMANI Sound Team所属のコンポーザーが深く関与し、秀逸なオリジナル新曲が生まれる場として要注目の企画だ。2022年の企画は「いちかのごちゃまぜMix UP!」。

 当企画で公開された新曲のひとつが、BEMANI Sound Teamに所属し2016年に『beatmania IIDX』で名義デビュー、同作を中心にBEMANI各機種をプラットフォームとして著しい躍進を続けるコンポーザー・HuΣeRによる掲題曲だ。ポストチップチューン、シンセロック、ドラムンベース、アートコア……たった130秒足らずにいったい何曲ぶんの曲想を詰め込んだのかと、目眩を覚える濃密な作品である。

 それもそのはず、「いちかのごちゃまぜMix UP!」はその名の通り、BEMANIに収録された過去の楽曲同士を機種をまたいで混合した新曲を、BEMANI Sound Teams人員が制作する趣向。混合の解釈は各担当アーティストに委ねられているようで、原曲再現を重視したものもあれば新規要素を大量投入する試みもあり、ミックス原料と比較する楽しさもあいまってリスナーを渦に叩き込む。

 掲題曲の元となったのはiconoclasm「perditus†paradisus」と黒魔「I」。iconoclasmはいずれも20年以上にわたってBEMANIに寄与を続けるコナミアミューズメント社インハウスのベテランミュージシャンにしてサウンドディレクターであるdj TAKAとwacの合作名義。「I」は『SOUND VOLTEX』『SHOW BY ROCK!!』『GROOVE COASTER』『Arcaea』等への参加のほか傑盤『愛を喜ぶ街』でも知られるポストチップチューンアーティスト黒魔(Chroma)による、The 7th KACオリジナル楽曲コンテストの最優秀賞受賞作である。

3. Tricolor⁂circuS
アーティスト:ああ…翡翠茶漬け…
ゲームタイトル:maimaiでらっくす
メーカー:セガ

 2022年の完全新規タイトルであるコナミアミューズメント『DANCE aROUND』、タイトー『MUSIC DIVER』をはじめ、AC音楽ゲームは日本国内だけでもコナミアミューズメント、バンダイナムコ、セガ、タイトー、アンダミロの各社が入り乱れる百花繚乱。マーベラス『WACCA』のオンラインサービス終了など惜しまれるニュースこそ舞い込んだが、ラウンドワン社のアミューズメント部門が2022年11月発表の第二四半期決算で既に2019年同期比+51.9%の売上を達成するなど、市場自体もコロナ期の沈降分を取り戻すどころか、一部ではすでにコロナ禍以前を超えるほどの活況を見せている。

 なかでも2012年ローンチのセガ『maimai』は、2019年の『maimaiでらっくす』への大型リニューアルを経ての記念すべき稼働10周年を迎えた古株タイトル。今年9月には最新バージョン『maimaiでらっくす FESTiVAL』へのバージョンアップを果たした。本稿では当該作の収録曲目から、ああ…翡翠茶漬け…「Tricolor⁂circuS」に着目したい。

 展開が次々と移り変わる彩り豊かなアレンジが楽しい、おもちゃ箱ひっくり返し系のインストシンセポップ、中期CAPSULEやPlus-Tech Squeeze Box、YMCKらの血脈を想起させるネオ渋谷系フューチャーポップ……いや、ここはやはり音楽ゲームの伝統にならい、パニックポップと表現すべきだろうか。

 ああ…翡翠茶漬け…は、それぞれが『pop’n music』『オンゲキ』などの商業音ゲーでも活躍を見せる、ああああ/翡乃イスカ/梅干茶漬けの3人からなる楽曲制作集団。各種の競作イベントにユニットで参加するほか、近年はセガ『CHUNITHM』にも当該ユニット名義で楽曲を提供。音楽サークルとしても、ああああによる稀代の名盤『セーブデータとほうき星』をはじめとする20枚以上の作品をリリースしている。

番外. シューティングスター☆ラブ
アーティスト:TAG
ゲームタイトル:プリズムプリーズ
メーカー:???

 等身大のキャラクターを表示可能な大画面と物理デバイス操作が特徴の、新作AC音楽ゲーム『プリズムプリーズ』。曲ごとにキャラが割り振られ、譜面の一部がAIによりランダム生成される機能を持つ。あるプレイヤーが対面することになった初代作のボス曲「シューティングスター☆ラブ」は、アウトロに局所的な高難度パートをもつ、いわゆるラス殺し譜面が特徴で……。

 という筋書きの「プリズムガール・リズミックラブ」は、作家・クリエイターの矢澤豆太郎による創作短編集『Home.++』に収録された漫画作品(たいへん手前味噌ながら、同作品集には筆者もゲスト参加させて頂いている)。本作では、作中作にあたる架空の音ゲーの架空のボス曲が、実際にコンポーザーにより書き下ろされて、作品集に付録するという趣向が試みられた。楽曲制作を担当したのはコナミアミューズメントでコンポーザー・サウンドディレクターとして活躍したのち、2021年からフリーランスに転向したTAGだ。

 架空のゲームのサウンドトラックという題材はアーティストの意欲を扇動すると見えて、2022年にはIGN Japanでも特集(https://jp.ign.com/game-music/63799/feature/13)が組まれている。音楽ゲーム分野でも、架空のAC音ゲー『St:RiDE(ストライド)』をテーマとした「St:RiDE ORIGINAL SOUNTRACKS」、存在しないアプリ音ゲーの動作イメージや設定を公開し楽曲を公募する「Break:Beats」シリーズといった前例が同人音楽界隈で見られる。

 そんな中で2006年『GuitarFreaks V3 & DrumMania V3』に制作した「El Dorado」以来プロのインハウスミュージシャンとして実績を積み、独立後も『maimai』『CHUNITHM』『CHRONO CIRCLE』『東方ダンマクカグラ』『EZ2ON REBOOT : R』『Tokyo 7th シスターズ』への参加やNU-KO(佐伯伊織)のソロアルバム「Time to 10th」への楽曲提供など精力的な活動を続けるTAGが、架空のゲームのルールや操作方法、ターゲット層などをイメージして制作したという「シューティングスター☆ラブ」。

 Risk JunkやLucky Vacuumといった元同僚の特殊名義作を想起させつつ、高BPMのビートの中を十六分シンセの嵐が暴れまわり、目を閉じれば架空のラス殺しがまぶたの裏に映る。Ryu☆「starmine」以来、20年を超えていまなお研鑽の続く、音ゲー×ハッピーハードコア文脈の鋭利な先端を高精度に映し出す一曲だ。

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