なぜ“ニトリの大型家電”は売れるのか? 家具の王者が躍進する理由

インテリアや家具のイメージが強い『ニトリ』で、いま“大型家電”が好調だ。ドラム式洗濯乾燥機を筆頭に、ファミリー向けの冷蔵庫やエアコンといった商品が売れ行きを伸ばしているという。
大型家電を購入するとなると、真っ先に思いつく場所は家電量販店だが、ニトリが後発ながら支持を集める背景にはどんな戦略があるのか。家電量販店とは異なる強み、そして大型家電に踏み切った背景を取材した。
家電開発の本来の目的
私が訪れたニトリの店舗では、入り口を入ってすぐの目立つ場所に、大型家電コーナーが設けられていた。売り場をのぞいてみると、新生活に向けて家電をそろえようとする若者や、買い物ついでに大型家電があることを知って物色している家族連れの姿が見られた。
ニトリが大型家電の販売に踏み切ったのには、会社全体の指針が「住まいの豊かさ」から「暮らしの豊かさ」を目指す方向に変わったからだという。ニトリホールディングス執行役員で家電商品部ゼネラルマネージャーの奥田哲也氏は、大型家電は「暮らしに直結していく存在であり、物事を変えていく力がある」と語り、そのポテンシャルがニトリの新たな指針に大きく影響してくると考えたようだ。
奥田氏は以前、家電メーカーに勤めていたそうで、そのときに感じた“違和感”が今回の取り組みのきっかけにもなっているという。
「いま家電量販店は非常に数が多く、家電メーカーも年々増えています。掃除機を作っているメーカーだけでも100社以上あるようです。結果として、選択肢が過剰になっていると感じました」
家電メーカーが増えると何が起こるのか。競争が起これば消費者にはメリットがありそうだが、奥田氏は決していいことばかりではないという。
「競争が激しくなる中で、差別化を図るためだけの余計な機能が次々とたくさん搭載されて、その結果コストが上がり、かえって売れなってしまう。次第に、いったいなんのために作っているのかがわからなくなってしまうのです。ひとつのお店のなかに同じようないろんな商品がたくさん並び、その中からお客さまが悩みながら選ばなければいけないところに、私はずっと疑問を感じていました」
確かに、家電を買いに行ったはいいもののどれがいいのか、何が違うのかがよくわからない……という経験は誰にもあるだろう。
「もちろん家電メーカーもお客さんのことを見て商品を作ろうとしています。そういったメーカー同士の競争があるからこそ、新しい技術が生まれているので、すべてを否定するわけではありません。でも、結局最後にどこを見てしまうかというと、横に並んでいる商品のスペックや価格になりがちなんですよね」と奥田氏は語る。
店員さんにおすすめされるがままに買った家電だが、その機能を使いこなせるのか、そもそもその機能は自身の生活に必要なものだったのか。選択肢が増えすぎたために、消費者側の判断がどんどん難しくなっているのかもしれない。そこで、消費者が求めている“ちょうどよさ”を実現するには、ニトリのビジネスモデルがぴったりだったようだ。
「ニトリは自分たちで作って自分たちで売ることができるから、お客さまが本当に欲しいものを買える体制を作ることができるんです」
本当に必要としているものは、消費者にしかわからない。だが、作り手と消費者の距離を短くすることで、世のなかがいま求めているものを作ることができるのだ。
時代に根付いた開発
ニトリでは以前から一人暮らし向けの単機能な小型家電は販売していたものの、本格的なファミリー向けの大型家電の製造は1からのスタートだった。まず始めに行ったのは、ノウハウを補うための“組織作り”だという。
「小型家電なら中国のサプライヤー(製品やサービスを供給する業者や企業)にもノウハウがあるので、彼らが持っているカタログのなかからアレンジをして製造を依頼することもできました。ただ、同じ方法で本格的な大型家電を開発することはできません」
なぜ小型家電にはできて、大型家電にはできないのだろうか。それは他国に比べた日本の家電市場の規模にあるようだ。
「中国のサプライヤーは世界を相手にしていますが、そのなかで日本の家電市場はそこまで大きくありません。でも大きなシェアを持っている中国やアメリカ向けの家電、特に生活に密着する大型家電は、住環境も違うので日本ではそのまま使えないことが多いです。冷蔵庫や洗濯機はびっくりするほど大きいですし、水を扱う洗濯機などは軟水と硬水の違いもあります。日本向けに大型家電を作ろうとすると一から日本の生活環境に合わせて開発しなければならない。だからなかなか実現できなかったんです」
ただ、実現できていないということは、逆にそこにはチャンスが眠っているということでもある。奥田氏は、家電メーカー出身のエンジニアを大阪本部に集め、“家電開発チーム”を結成したという。
「彼らも、出身元のメーカーでは作りたいものが作れないと悶々としていたようです。そこで、中国のサプライヤーと共同開発することで独自のものが作れないか挑戦しました。価格を抑えただけのプライベートブランド家電は、おそらく家電量販店やホームセンターでも作ることができます。一方、高性能・高品質の家電は家電メーカーなら作ることができるが価格は高い。製造から販売するまでにかかる経費を減らしながら、お客さまのことを考えた機能を厳選して搭載することで、価格と性能・品質を両立した商品が作ることができるのは、我々ならではと考えました」
開発する上で重きを置いたのは、本当に必要な機能だけを残して、価格を抑えること。奥田氏は、具体的にドラム式洗濯乾燥機を例に挙げて説明した。
「最近だと、Wi-Fi機能や、液晶ディスプレイを搭載したドラム式洗濯乾燥機がありますよね。Wi-Fi機能は、洗濯や乾燥をアプリと連携して遠隔操作ができるんです。液晶ディスプレイも細かい設定をするのであれば便利なのですが、多くの方は洗濯機を使うのに、電源を入れてスタートを押すだけでこと足ります。そうした機能を求めているお客さまが果たしてどのくらいいるのかを考え、うちでは割り切って搭載しないという決断をしました」
だが、切り捨てる機能だけではなく、“守る”機能もあるという。
「冷蔵庫でいうと、ふるさと納税が広がったこともあって、冷凍室の大型化ニーズが非常に高まっています。ただ、冷凍室のスペースを増やしたら増やしたで、どこにいったのかわからない冷凍食品が出てきてしまうんです」
冷凍食品は保存期間が長いこともあり、つい奥の方に食品をしまい込みがちだ。筆者も「これいつのだ……?」と、霜まみれの野菜を発掘した経験がある。
「そこで冷凍室の扉は“バタフライスタイル”という観音開きのタイプにし、さらに6つの部屋を作りました。これによって、冷凍庫の内部を小分けにでき、どこに何があるか見つけやすくしたんです」
家電は、生活で必ず使う存在だ。だからこそ、消費者からの要望も届きやすいという。ふるさと納税などの社会背景から、“冷凍庫迷子”といった日常的な悩みの声など、開発には生活に根付いた意見を積極的に取り入れている。
「新たに開発した大型冷蔵庫は海外モデルを参考にしていて、少し背が高いんです。そのぶん奥行きを少し浅くしているので、中身が見やすくて整理がしやすいんですよね。しかも、横幅も従来のタイプより少し広くなっています」
「冷蔵庫は、大抵のものが横幅60〜70センチで作られています。でも、今回開発した大型冷蔵庫は、横幅が75センチあるんです。買い替え需要を考えると『75センチなんてありえない』と、業界的には思われるかもしれないのですが、調べてみたら、冷蔵庫を隙間なくぴったり置いている家庭はそんなになかったんですよね。また横幅が大きいと搬入できないんじゃないかという声もあったのですが、社内の物流部門で検証したところ意外といけることがわかり、今回販売に踏み切りました」
製造も物流も自社で行っているからこそ、そういった社内テストもスムーズに行うことができ、挑戦的なモデルも開発できるようだ。一方で奥田氏は、製販一体のデメリットについても明かしてくれた。
「他社の情報が入ってきにくくなる、というのはあります。家電量販店だといろんなメーカーの製品があるため、全体のトレンドを拾いやすいのですが、製販一体だと自社の情報しか入ってこないので、そこは意識的に外に出て情報を拾いにいくようにしていますね」
移ろいゆく客層の変化
実際に大型家電の展開を始めたことで、想定していなかったニーズも見えてきたという。
「変温室を搭載した大型冷蔵庫を販売していますが、当初は、ライフスタイルの変化が大きい、小さなお子さまのいるご家庭を主なターゲットとして展開する予定でした。ところが、想定外にも子育てを卒業したシニア世代にも高い評価をいただいているんですよね」
シニア世代はまとめ買いや作り置きなどをする人も多いだろう。タイミング的にも最後の買い替えという意味で、生活の変化に強い家電の需要があったのかもしれない。こうした想定外の反響は、ほかの商品にも広がっているという。
「ドラム式洗濯乾燥機もファミリー層向けに提案していたのですが、コンパクトさが注目されて、社会人1年目で春から新生活をする方などにヒットしているんです」
買う側の広がりは、売り場の手応えにも変化をもたらしたようだ。
「ドラム式洗濯乾燥機や冷蔵庫を展開するようになってからは、家電が通年売れるようになってきました。これまでは小型家電が新生活シーズンに一気に売れる傾向でしたが、大型家電を展開することによってファミリー層のニーズが増え、新生活時期だけではなく、夏のボーナスや年末商戦でも大きく売れるようになってきましたね」
そして消費者の声のなかには、品質を心配する意見もあるという。
「やっぱりまだ『家具屋さんの家電って大丈夫?』という声も根強くあります。価格が他に比べて大幅に安いのも、品質を心配する要因のひとつかもしれません。ただ品質を信じてもらうには使ってもらわないことには始まらないので、そこは地道に続けていくしかないですね。4万9900円以上の大型家電(テレビ / 洗濯機 / 冷蔵庫 / エアコン)は5年保証が無料でついていますので、ぜひ安心して使っていただけたらと思います」
まだまだスタートを切ったばかりのニトリ家電。いまはとにかく、“ニトリで大型家電が売っている”ことを知ってもらう段階のようだ。
「いまは知ってもらうことを最優先にしているので、入り口の近くにコーナーを固めていますけど、ニトリには家電以上に強い商品がたくさんあるので、ゆくゆくはお客さまのシーンに合わせて家具やホームファッション用品と組み合わせた新提案の家電をご紹介できたらと思っています」
冷凍庫の奥で眠る食材も、使いこなせない機能も、実は私たちが生活のなかで感じている小さな“もやもや”だ。その一つひとつに向き合う姿勢こそが、いま支持を集める理由なのだろう。世のなかの“ちょうどよさ”に立ち返ったとき、家具屋発の家電という新しい選択肢が、静かに定着しようとしている。
































