音楽ゲームの「楽曲移植」論ーー『beatmania IIDX INFINITAS』と『pop’n music Lively』の楽曲パックから考える

 コナミアミューズメントの運営するPC向け音楽ゲーム(音ゲー)に2月17日、新たな2つのDLC(ダウンロードコンテンツ)が実装された。追加されたのは、『beatmania IIDX INFINITAS』に向けた『pop’n music』楽曲パックと、『pop’n music Lively』用の『beatmania IIDX』楽曲パックである。

 楽曲パックは、各ゲーム内でプレイできる追加の楽曲をまとめた、買い切り型のDLCだ。『beatmania IIDX INFINITAS』(以下、INFINITAS)と『pop’n music Lively』(以下、Lively)の両作品はそれぞれ、アーケード(AC)版『beatmania IIDX』『pop’n music』シリーズを元にした家庭用PC版ゲームである。今回の楽曲パックは、各々の原作となるAC版から、対応する互いのPC版への楽曲移植がDLC形式で為された最初の例だ。

 そもそも「楽曲移植」とは、一般的に「特定の音楽ゲームタイトルの為に制作された楽曲が、後に他タイトルに収録される概念」を指す。音楽ゲームプレイヤーの視点では各ゲームのアップデート内容における典型のひとつで、あまりに日常的な風景として受け取られており、しかしそれゆえにか、その概念の遍歴や意味合いについて総じて語られることは稀であった。

 そこで本稿では、音楽ゲームにおける「楽曲移植」なる慣習に注目し、簡単な歴史とその意義を整理して示す。その上で、今回の『INFINITAS』『Lively』の移植事例について、コナミ音ゲーの家庭用展開の現況も交えつつ紹介したい。

音ゲーにおける楽曲移植の歴史

 最初に楽曲移植が行われた事例は、初代AC版『pop’n music』(1998年)だ。当該作のプレイアブル曲は全14曲。うち2曲は隠し曲(プレイヤーが特定の条件を満たした場合のみプレイ可能となる楽曲)であり、その片方が近代AC音ゲーの始祖『beatmania』(1997年)シリーズからの移植となる、コナミ所属のコンポーザーe.o.sことOhta Tomomiによる80~90sレイヴミュージック「e-motion」であった。

 開発者はこの移植の意図について、当時の『pop’n music』公式サイトで「隠し曲のアイデアとして、安直に出てきたのが、『ビートマニア曲の使い回し』」であったと明け透けに語っている。ここで取りざたされたのが、収録される楽曲と作品コンセプトの整合性だ。移植元の『beatmania』はその第一作から、The Chemical Brothers「Leave Home」のオマージュと思しきビッグビート楽曲「greed eater」を竹安弘が制作収録するなど、楽曲面において本格派のクラブサウンドを志向。ゲーム内でもグラフィックデザインや演出により、アンダーグラウンドなクラブ文化の空気を醸し出していた。一方、派生作となる『pop’n music』は渋谷系ポップスをはじめとした流行のポップアイコンを取り入れ、明確にターゲット顧客の異なるプロダクトデザインが為されていた。

 かくもコンセプトの異なる作品間で楽曲を流用することについては開発者サイドにも逡巡があったようで、実際に前述のスタッフコメントでは「ポップンはポップンとして、ビートマニアのニオイはさせてはならない!という運動もあった」との証言も記されている。だがコメントで「諸事情により結局採用することに」と続けられている通り、限られた制作時間内での楽曲ラインナップの充実などを優先したものと推測される。

 以降、コナミは自社の音楽ゲーム間で継続的に楽曲移植を行ってきた。ここには楽曲リスト拡充以外の意図を見出すこともでき、例えば、『pop’n music』スピンオフ作品の『pop’n stage』や、TOMOSUKEが音楽性を主導しラテン音楽をフィーチャーした『MAMBO A GO GO』は、それぞれ終息と前後して楽曲の一部が『pop’n music』に移植されている。キーボード演奏を主体とした『KEYBOARDMANIA』シリーズは2001~2002年頃に展開を終了したが、2017年に稼働した“精神的継承作”である『ノスタルジア』には、当該作品の楽曲が散発的に実装されている。これらはゲーム終息後にもプレイヤーが楽曲に接触する機会を確保する、いわば一つの救済措置としても捉えることができる。

 ここまで、コナミの事例を語ったが、他社でも同様の慣習は取り入れられており、また自社タイトル間のみならず会社間の壁を越えて楽曲移植が為される事例もある。例えば2014~2018年度にはコナミ『SOUND VOLTEX』、バンダイナムコ『太鼓の達人』、タイトー『GROOVE COASTER』、セガ『maimai』『CHUNITHM』合同による競技大会「天下一音ゲ祭」が行われ、その連携企画として対象機種となった各社タイトル間での楽曲移植が行われた。またナムコ『パカパカパッション』の楽曲は、シリーズ終息から15年以上を経てセガ『CHUNITHM』にそのいくつかがピックアップ収録されている。

 ACゲームからスマホ音ゲー界隈に目を向ければ事例はさらに多く、一例として韓国Smilegate Megaport社は2015年にシンガポールでリリースした『Tap Tap Disco』の開発にあたり、同国Momo社『O2Jam』シリーズから楽曲提供を受けている。また近年はデベロッパーやパブリッシャーの壁どころか国境すら軽く飛び越えての会社間・ゲーム間コラボレーションが、楽曲移植という形態を取って展開される事例が多く見られる。例えば台湾Noxy Gamesの運営する『Lanota』は同国RNOVA Studioの『陽春白雪(Lyrica)』以外にも、本邦COLLESTAによる『STELLIGHTS』、英国lowiroの『Arcaea』、韓国Team ArcStarの『OverRapid』など多国籍なパブリッシャーによるタイトルとコラボし楽曲移植を実現している。これらスマホ向けタイトルはいずれも2010年代半ば~後半ローンチと、音ゲーとしてはいわば後発組である。既発のメジャー作品群に対する知名度と楽曲数の不利を作品間コラボレーションにより補い合う、一種の互恵関係の構築をそこに見て取ることができる。

 国内の音ゲーシーンを盛り上げる各社のAC作品もまた、2010年代に著しく発達したスマホ音ゲー隆盛の潮流とは無縁ではない。皮切りはタイトー『GROOVE COASTER』による2017年の事例で、コンポーザー・グラフィックデザイナーとしてもその多才を発揮する開発者Staによる国産スマホ音ゲー『Tone Sphere』とコラボし楽曲移植を実施した。直近でも2021年2月にはRayark『DEEMO』にバンダイナムコ『太鼓の達人』楽曲のDLCが、同3月にはマーベラス『WACCA』に前出『Lanota』の楽曲が、それぞれ実装されている。

 以上には商業作品間の楽曲移植を挙げたが、フリーの音楽ゲームフォーマットで発表された楽曲の商業作への移植を含めれば、AKITO「桜華月」の韓国NEOWIZ/PENTAVISION『DJMAX』への収録(2006年)、DM Ashura「ΔMAX」のコナミ『DanceDanceRevolution』への採用(2008年)、Nankumo「DRAGONLADY」のセガ『maimai』への採録(2014年)をはじめ枚挙にいとまがない。

 まとめよう。音楽ゲーム文化における楽曲移植はAC音ゲー黎明期から無数の事例が見られる慣習であり、とりわけ近年は2010年代以降のスマホアプリ音ゲーの台頭により活発化の傾向が見られる。楽曲移植の意義は大まかに、(1)既存リソースの流用による収録曲ラインナップの充実、(2)各タイトルファン層の相互流入によるタイトル知名度向上と新規プレイヤーの獲得(ひいては音楽ゲーム市場そのものの拡大への貢献)、(3)終息タイトルの楽曲への接触機会の獲得、と並べ立てることができる。一方で、タイトル間で収録曲リストが均質化され、各ゲームブランドの独自性やプロダクトデザインコンセプトの一貫性が失われることへの危惧もまた旧くから示されてきた。

 以上を踏まえて、今回の『INFINITAS』『Lively』の間で行われた楽曲移植について論じよう。

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