「ドラクエ」の音楽は懐かしさ重視の路線に? 『ドラクエトレジャーズ』からうらなうシリーズ音楽の行方

「ドラクエ」シリーズの音楽は懐かしさ重視に?

 12月9日、「ドラゴンクエスト」(以下、「ドラクエ」)シリーズから最新スピンオフ『ドラゴンクエスト トレジャーズ 蒼き瞳と大空の羅針盤』(以下、『ドラクエトレジャーズ』)が発売となった。

 本稿では、同タイトルのプレイから受けたインプレッションを入り口に、「ドラクエ」の音楽について考える。シリーズにとって次作は、ターニングポイントかつ大きな試金石となっていきそうだ。

すぎやまこういちさんの紡ぐ音楽とともにあった、「ドラクエ」シリーズの35年

 「ドラクエ」シリーズの音楽といえば、ゲーム好きなら誰もが知る名前がある。それがすぎやまこういちさんだ。1931年、東京府東京市(現在の東京都台東区)で生まれた同氏は、幼い頃から両親の影響で音楽に親しみ、高校時代には自身が創立した音楽部で指揮と編曲を務めた。卒業後の進路には音楽大学を志したが、ピアノが弾けなかったことから断念。東京大学に進学し卒業したのち、音楽活動がきっかけで文化放送へと入社した。

 当初はラジオ・テレビ番組のディレクターとして働いていたすぎやまこういちさんだったが、1960年代ごろから本業のかたわら、作曲家としても精力的に活動を始める。1968年にフジテレビを退社して以降は、音楽活動に専念。CM楽曲や歌謡曲、アニメの劇伴を手がけるなど、多方面で活躍した。

 「ドラクエ」シリーズに携わったのは、初作『ドラゴンクエスト』が発売された1986年から。自身がゲーム好きだったこともあり、以後はほかの仕事を減らしながら、もっぱらゲーム音楽の作曲家として活動を続けた。

 それからの活躍は誰もが知るところ。同シリーズの飛躍とともに、すぎやまこういちさんの名前はゲームカルチャーの歴史に刻まれることとなった。年齢的には何世代も違う現在のプレイヤーが、作曲家の名前までは知らなくとも、なんとなく「ドラクエ」の音楽を口ずさむ。それを文化といわずして、何といえるだろうか。往年のファンはその音楽を聞くだけで、シリーズのどの作品か、そして自身がいつ、どんなときにその作品をプレイしていたのかを思い出せる。音楽によってそうした感覚を受け手へと与えられるのは、エンターテインメントをカルチャーへと昇華した作品/シリーズだからこそである。

 クラシックをルーツとする音楽家として、同ジャンルに馴染みのない層にも愛されたすぎやまこういちさんだったが、2021年9月に残念ながら生涯の幕を閉じた。繰り返しになるが、「ドラゴンクエスト」シリーズ、ひいてはゲーム音楽というカルチャーにすぎやまこういちさんが残した功績は、あまりにも大きい。

ゲームカルチャーの旗手であり続けるために、シリーズの音楽に求められること

 このようにすぎやまこういちさんと二人三脚で大きな足跡を残してきた「ドラクエ」シリーズだが、一方で近年の作品の音楽には、懸念点がないわけでもない。ナンバリングなどからの“使いまわし”が目立つためだ。

 今回発売となった『ドラクエトレジャーズ』も例外ではなく、過去作品から多くの楽曲が流用されている。もちろんそれによって、プレイヤーたちは自身が遊んでいた時期を懐かしむことができるため、一概に体験を悪くするものではない。しかし、元来「ドラクエ」シリーズがすぎやまこういちさんとともに切り拓いてきたのは、そうしたカルチャーだっただろうか。

 そこには高齢となっていた同氏の健康状態に対する配慮や、これまで二人三脚で歩んできたからこその、同氏に対する敬意のようなものもあったのかもしれない。それでも、シリーズがゲームカルチャーの旗手であり続けるためには、“遺産の切り崩し”ではない、挑戦的なアプローチが必要なのではないかと、私は考えてしまう。

 思い返すと、『ドラクエトレジャーズ』の起源ともされるスピンオフ『ドラゴンクエストモンスターズ テリーのワンダーランド』もまた、過去の作品からの音楽の流用が少なくなかった。それでもいまほど抵抗を感じなかったのは、当時はそれが新しいアプローチでプレイヤーにとって物珍しく、また同作の立ち位置がスピンオフであったからだろう。

 もちろん『ドラクエトレジャーズ』も、シリーズにとってはスピンオフの位置づけではある。しかし、こと音楽面にかぎった視点でいえば、流用は最新のナンバリング『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』から続く流れ。ひとつの方向性としてシリーズ作品全般に定着させようとする開発側の狙いを、そこに垣間見てしまうというのが実情だ。

 2021年5月に存在が明らかとなった次作『ドラゴンクエストXII 選ばれし運命の炎』で、この懸念は解消されるだろうか。今後はすぎやまこういちさんの逝去を受けて、さらに懐古主義に進む可能性も考えられる。「ドラクエ」シリーズによってゲームカルチャーに魅了されたいちプレイヤー、さらにはいちファンとして、今後の動向を注意深く見守りたい。

『ドラゴンクエストXII 選ばれし運命の炎』ティザートレーラー

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