SKY-HIと株式会社stuの『BE:FIRST』MV制作における挑戦 『SIW SHIBUYA 2022』セッションレポート(後編)
韓国の音楽における輸出総額は10年で20倍に成長
ここで、黒田氏は韓国のコンテンツにおける輸出総額の伸び率を示したグラフを紹介した。2009年時点で、韓国の音楽は31億円の輸出総額だったが、このタイミングでは日本の方が優勢だったという。
それが2019年時点では、韓国の音楽が640億円と実に20倍もの成長を遂げ、日本を圧倒的に凌駕するまでに変化した。
「日本も10年間で音楽における輸出総額は2倍に成長しているものの、韓国の比ではありません。これは音楽だけでなく、映画など他のコンテンツにも言えることで、この実態にもっと日本は危機感を持つ必要があるのではと思っています」(黒田氏)
早くから世界を目指してきたSKY-HI氏は、黒田氏のグラフを見た感想を次のように述べた。
「BMSGはスタートアップ企業なので、解決可能な課題に対してトライしていく姿勢を持つのは、割と当たり前のことだと感じています。他方、日本のエンターテインメント産業は『CDバブル』の影響が強すぎて、業界のシステムがしっかりと出来上がってしまっている。一例を挙げると、日本のアーティストのほとんどはCDの売り上げから逆算してMVの予算を立てているんですよ。
コロナ禍もあり、ここ数年で減ってきているとはいえ、まだまだその慣習は根強く残っています。そのため、MVの予算決めだったり、システムそのものを変えることだったりと、もっとやるべきことはあると思っています。かけられる予算がたくさんあれば、いろんな人がワクワクする面白い大規模なものを作れる。これが、BMSGのエンターテインメント全般に対する考え方です」
BMSGを起業した当初は、既存の業界システムの中で成長してきた企業から「反感を買うのでは」という懸念もあったという。しかし、蓋を開けてみれば、さまざまな芸能事務所やレコード会社から「積極的に協力したい」という反応があったそうだ。
「BMSGをスタートさせた段階から、エンターテインメント業界で課題を感じている人が非常に多いことを再確認できました。会社の代表として、『課題解決するために、こういうことをやっていきます』と発信するのはとても大事だと感じましたね」(SKY-HI氏)
ハリウッドはプリプロダクションにかなりの時間をかけている
そんななか、日本の音楽業界と同様に、映像業界も危機的状況とも言える実態があると黒田氏は言及する。
「国内の映画興行ランキングは、基本的に邦画で占められており、それだけで業界が成り立ってしまっているんです。この状況に危機感を覚え、なんとかしていこうと思い立ったのが今年の頭くらいで、目を向けたのがハリウッドでした。日本とハリウッドの差分は何なのか、きっちり勉強していく必要があると感じました」
ローレン氏は日本とハリウッドの映像制作プロセスの違いについて次のように説明した。
「日本は放送の枠が先にあり、そこに企画や脚本、撮影、映像編集などの工程を重ねていくのが一般的です。対してハリウッドの場合、日本と大きく違うのは制作費を承認し、制作決定の判断を下す『グリーンライト』という工程があること。グリーンライトが下りるまで、正式に制作が決まるかわからないため、途中で中止になることもよく起こります。さらに、企画を立て脚本を書くだけではなく、ワンエピソードのプロトタイプに本物に近いCGや編集を盛り込み、予算をかけて作り込んでいくのが特徴になっています」
ハリウッドの強さのひとつに、プリプロダクションにかなり時間をかけることが挙げられるだろう。工程や順番はそこまで関係なく、シンプルに何を作りたいのか。それは本当に面白いもので、誰に届けていきたいのか。ということを徹底的に考え尽くして、そこをフォーマットとしてまとめてしまわないという意思がクリエイターにあるわけだ。
「アメリカでは、産業を守るために法律まで整備するところがすごいと思いますし、人が育つ環境を国が作ってくれるのは、うらやましいと思う限りです」(黒田氏)