SKY-HIと考える「これからのマネジメントに必要なもの」 『THE FIRST』を通じて向き合う“芸能・音楽業界の課題”

SKY-HI「これからのマネジメント論」

 ラッパー/ソングライターのSKY-HI(日高光啓)が、私財1億円を投じて開催したボーイズグループ発掘オーディション『THE FIRST』。その出身アーティストであるBE:FIRSTらに、さらに1億円の育成・制作費をかけるためのクラウドファンディングが、「うぶごえ」で9月23日にスタートした。プロジェクトは開始わずか35分で目標額1億円を達成。さらに4時間で2億円を達成し、現在は4億円を超える支援金額が集まっている。

 SKY-HIはBE:FIRSTらが所属するマネジメント兼レーベル「BMSG」の代表取締役CEOを務めているが、これから待つBE:FIRSTのデビューに先立ち、資金が不足したことから、今回のクラウドファンディングをスタートさせたという背景がある。

 SKY-HIはなぜ、自ら会社を立ち上げ、私財を投じ、リスクを背負って次世代の育成に取り組んでいるのか。既存の芸能・音楽業界に感じる、人や構造の課題とは。今回は、聞き手に幾度となくSKY-HIのインタビューを手がけてきた、音楽雑誌『MUSICA』の編集長である有泉智子氏を迎え、彼のアーティスト・経営者・プロデューサーとしてのハイブリッドなマネジメント論を掘り下げていく。(編集部)

「そもそもマネジメントって必要?」と言われる時代に「必要」と言い切れる理由

——まず、今回クラウドファンディングをやろうと思ったのはなぜだったんでしょう?

SKY-HI:BMSGがスタートアップ的な性質の会社だということも含め、クラウドファンディング自体は以前から考えていたことですね。『THE FIRST』を自費でやったことがニュースとして取り上げられましたが、オーディション以外の初期費用も当然自費で賄ってたし(SKY-HIが1億円を投資、のニュース以外にも)、どこかから借り入れをしてという業態でもないので、この先の資金繰りを考えたときから、頭の片隅にはずっとあったんです。そのなかで、「うぶごえ」(※1)の代表である岡田一男さんには、BMSGについていろいろ相談に乗ってもらっていた——それこそ、シンプルに「起業したならこの本を読んでおいたほうがいいよ」みたいなところから(笑)、いろいろアドバイスをもらってたので。

※1:2021年に新設されたクラウドファンディングプラットフォーム。プロジェクト掲載者側の手数料0円、購入者側が決済ごとにシステム利用料330円と購入額の5%を支払うという、クラウドファンディング業界初のシステムが特徴。
参考:https://realsound.jp/tech/2021/01/post-691738.html

——岡田さんは、以前からSKY-HIの活動に関しても初期からアドバイザー的な役割で関わったりもしてらっしゃいましたよね。それこそ、私がやっている『MUSICA』にSKY-HIのプレゼンテーションをしに来てくれたのも岡田さんでした(笑)。

SKY-HI:そうなんですよ(笑)。で、「うぶごえ」という社名もたなか(前職:ぼくのりりっくのぼうよみ)がつけていたりと、何かとご縁があったので、「うぶごえ」を選んだんですけど。……もうひとつ重要だったこととして、クラウドファンディングという仕組みは、こちら側の信用が問われるものじゃないですか。これはほかの業務でも同じなんだけど、僕にとってBMSGは人生初の起業なので、何をやるのも本当に初めてのことが多くて。いまはまだ、一緒にやる人に日々いろんなことを教えてもらったり、甘えられる部分は躊躇なく甘えさせてもらいながら(笑)、進んでいる最中であるというのが正直なところなんですよね。そういった意味で、プラットフォーム側の方に対しても、それこそダイブするように身体を預けなければならない側面も出てくると思ったので、今回自分たちの信用を元手にお金を集めて運営する以上、以前から信頼関係を築いてきた方々と一緒に組みたくて、「うぶごえ」でのクラウドファンディングを選びました。

SKY-HI
SKY-HI

——そもそも、日高くんがBMSGを立ち上げるにあたり、あるいは『THE FIRST』を始めるにあたり、これまで日高くん自身が築いてきたコネクションも含め、どこかの企業にスポンサードしてもらったり、投資をしてもらうという選択肢もあったと思うんです。でもその選択肢は取らず、自腹で1億円を投じるという形でスタートさせたのは、どうしてだったんでしょうか。

SKY-HI:たぶん理由はふたつあって。まず、「すべての責任の所在を自分に集約したい」というのは強くありましたね。よく表で話すのは決定権のこと——「いまの時代にエンターテイメント企業をやる上で、多数の意識を介在させるのは相応しくないと考えた」という理由を話してるんですけど、同時に、責任の所在を自分に集約させないと、参加してくれる子たちが戸惑う原因になるんじゃないかと思ったんですよ。責任が分散されて関わる人が増えると、声がデカい大人が増えていくじゃないですか。そうなると、参加してくれる子たちが迷ってしまう部分が増えるのではないか、と。それこそ『THE FIRST』にボイストレーナーとして参加してくれたりょんりょん(佐藤涼子)が、参加者のみんなが悩んでるときに「会社作ってるのもお金出してるのもこの人(=日高)なんだから、この人がいいと思う歌い方が結局は一番いいのよ」とよく言ってたんだけど(笑)、雑に言えばそういうことなんですよね。それぞれが何か迷って「これは誰に聞けばいいんだろう?」と思った時に、意見を言ってくれる大人が多いことは必ずしもいい結果に繋がるわけではない。「船頭多くして船山に上る」みたいなことも起き得るわけで、そうなるのは絶対に避けたかったから。そのためには、共同経営者のような立ち位置の人を作ることなく、船頭は自分であるということを明確にしておかなければならなかったんですよね。

——逆に言えば、それくらい自分がすべての責任を負う覚悟で臨んでいる、と。

SKY-HI:はい。僕は本来、あまりワンマン気質な人間ではないので、経営者としてワンマンの状況をちゃんと取っておかないと「即時即断」ができないと思ったのも大きいです。オーディションのやり方をはじめ、その場の判断で変えていくことも必要になると思ってたし、実際そうだったので。それこそ、ほかの責任者たちに確認を取る方法で進める場合、その場でRUIに誓約書を渡す、なんてこともできなかっただろうから(笑)。

『THE FIRST』から誕生したBE:FIRST。
『THE FIRST』から誕生したBE:FIRST。

——たとえば、資金面を他者に握られることによって経営に口を出されることを回避する=既存の体制に絡め取られてしまう可能性をできる限り排除したい、というような想いもあったんですか。

SKY-HI:そうですね。これは言葉にするのが難しいんですが……現在の音楽・芸能業界の問題点は数多くあるけど、問題意識を持って抜本的に変えなければいけない部分と、既存の体制と共存していかなければならない部分の両面があると思っていて。たとえば何か迷ったときに、音楽業界での勤務経験が長い人であればあるほど、無意識的に旧来の方法に依存してしまったりもするし、逆に知見が全くないと的外れな決断をしてしまうこともある。このバランスは難しいけど、その両面を本当の意味で意識共有して自分が一緒に行動できる人は少ないなと思った。それはやっぱり、こういう体制に至った大きな経緯としてはありますね。

——ストリーミングサービスとSNSが発展を遂げた2000年代終盤以降、音楽を発表・流通するシステムが変わったことで、レコード産業を前提に確立された20世紀半ば以降の音楽ビジネスモデルが大きく変わった。さらにはSNSを使ってアーティストが自身で発信したり、あるいはアーティスト同士がダイレクトにコンタクトすることが容易になったこと含め、プロモーションやコネクションの構造も変わった。ざっくりといえばアーティスト本人が自分でやれてしまうことがすごく増えたなかで、日本に限らず世界的に、音楽レーベル/マネジメントの役割と在り方が再考を迫られ、変革期を迎えていることは自明であると思うんですね。そういう時代における必然的な帰結&トライとして、日高くんのBMSG立ち上げを捉えることもできると思うんですけど、ご自分ではその意識はいつごろから具体的に持っていたんですか。

SKY-HI:新しいレーベル/マネジメントの在り方という意味だと、それこそ自分がどっぷりいたヒップホップ・カルチャーにおいては「そもそもマネジメントって必要か?」という部分もあるんですよ。

——そうですよね。

SKY-HI:ただ、その立場をマネジメントと呼ぶか、あるいはプロデューサーと呼ぶかは別として、アーティストが何かをやりたい/やろうと思ったときに、一緒に考えてくれたり手伝ってくれたりする人は必要だというか、そういう存在がいたほうが物事が上手く行きやすいなと、様々なケースを見ていて思います。アーティストであれアイドルであれ、物事を一人で考え、深め、創作や表現に落とし込んでいく時間は非常に重要なんですが、一人だけではどこかで限界があるから、スタートアップでいう「壁打ち」みたいなことをする、人と話すことによって物事をより掘り進めていったり具体化していくことが重要で。だから他者が介在する必要はある。

 特にグループになってくると、グループのリーダーという意味ではなく、より広い意味で活動全体の基盤となるリーダーがグループの外側にいないと上手く行かないんですよね。だから、グループを作って活動するのであれば、そういった責任を負う団体、つまりマネジメントという存在はやっぱり必要だと思う。ただおっしゃる通り、聴き方も広がり方も変わっている時代なのに、システムが20年前のままの組織では上手く行かないので。たとえ内側にどれだけ意識改革をしようと思っている人間がいても、組織としての意思決定を変えることは容易ではない。さっき話した、極力他者の意識を介在させないためにも自分の資本であることが必要だった、という話にも繋がるけど、組織が大きくなればなるほど、歴史が長ければ長いほど、機動力が落ちていくのは致し方ないことでもあるから。だから自分は、極力小さな会社で、メンバーともスタッフともお互いにすぐ顔を合わせられる状況でやりたいと思ってたし、今後もそうあろうとしていますね。

——いまのお話の中でポイントだと感じたのは、表現者が思考を深めていく、そしてそれを具体化していく過程で他者との対話が必要であるという点で。この取材のテーマである「新しいマネジメントの在り方」として何が必要なのかを考えたときに、まさにその点は重要だと思うんですけど、日高くんが考える「これからのマネジメントに必要な要素」とは。

SKY-HI:「そこにいることでアーティストとして成長できる」場所であるというのは、最低限必要だと思います。「人は自分がよく話す5人の人間を平均した人格になる」という話がありますけど、マネジメントする人間は一緒にいる時間が長いぶん、アーティスト自身の人格形成にかなり関わってきてしまうと思うんですよ。だから、まあ脅かすような話になっちゃうけど(笑)、現場のマネージャーにはその意識をしっかりと持って欲しいと思っていて。特にアーティストの年齢が若ければ若いほど影響を受けやすい、周囲の人たちによって人格が変わりやすいから。だからその自覚を持って接すること、そしてそのアーティストの10年後、20年後を考えたときに、きっとこれが理想的であろうという道に進めるようにサポートすること——といっても、周りにできるのはその道にある石を退けてあげることくらいですけどね。雑草をかき分ける作業は本人が自分でやったほうがいいと思うけど(笑)、でも石を退けてあげるくらいのことはしたい。

——はい。

SKY-HI:加えて、自我をしっかり持っているアーティストが何かをやりたいとなったときに、それが果たして本当にいいことなのかどうかを一緒に考えることができる体制をちゃんと持っていること。たとえば、本人がこの曲をリードにしたいと言い出したときに、客観的に見てそれが一般に響くものなのか、伝わるものなのかどうかにクエスチョンがつくようなこともきっと起きてくると思うんですよ。そういう場面で頭ごなしに否定するのではなく、まず「何故やりたいのか」と「それが自分のアーティスト性としてブレがないものなのか」を一緒に考えることができること。……何事も即時的に見てはいけないなというのはすごく思いますね。その瞬間が3年後、5年後のためになるものなのかどうかを考え、そこに確信を持って一緒に取り組むこと。たぶんどんな強気なアーティストでも、チャレンジングなことをするときには多かれ少なかれ恐怖があるから。その怖さを一緒に背負える存在がいることは重要というか、自分もそういう存在がいて欲しいし、いてくれると助かると思うので。だからそういう存在であることかなぁ………本当にいまの時代のマネージャーってすごく難しいとは思う。一緒に背負うところは背負うべきだけど、アーティスト本人が背負いたい部分もあるじゃないですか。

——そして、良くも悪くも、アーティスト本人が背負えてしまう部分が昔と比べて膨大に増えているのがいまの時代ですしね。

SKY-HI:そう。そういった意味でもコミュニケーションはマジで必要。100人アーティストがいたら100通りのマネジメントの仕方があるから。マネジメント教則本みたいなものにどんどんそぐわなくなっていくと思うし、この道10年20年です、みたいなマネジメントの先輩が言うことは、メソッドとしては当然有効な部分はありますけど、基本的には正しくなくなっていっている。そういう人が言うことは、どうしても無意識に古いシステムに由来していることが多いので。極端な話で言えば、「2年目まではタクシーに乗らせてはいけない」みたいなことを言う人もいるけど、「いやいや、この時代に後ろつけられて住所バレたら地獄だぞ」みたいなこともあるじゃないですか(笑)。

——はい(笑)。いまの話はまさにそうだと思うんですけど、同時に、日高くんも有効なメソッドはあるとおっしゃった通り、これまで培ってきた創作のノウハウやスキルを、柔軟なマインドを持って新しい世代に継承していくことも重要な役割だと思うんです。曲を作るにしても、DTMで宅録はできても、大規模なスタジオで機材をセッティングして制作をしたり、こういう音を実現したいとなったときに必要なスキルを真っさらなアーティストが持っているかといえば、そうではない。ライブ制作にしてもそうですよね。その意味において、スキルと知見を持っているプロダクションが、新しいシステムと新しいマインドに寄り添いながらノウハウを提供することの重要性はある。

SKY-HI:まさにそれは大事ですね。いまの話を聞いていて思い出したのが、韓国の〈Hi-Lite Records〉と一緒に仕事をした際に感じたことで。当時社長のPaloaltoも、当時副社長で現社長のCamo Starrも、二人ともアーティストとして現役感がすごくある人たちなんですよね。だからアーティストと接するときに「俺の時代は」みたいな感じがない。と言うか、Paloaltoなんて現役で韓国1位とかのメガヒットを飛ばしまくってる状態だから、俺の時代はも何も、いまが俺の時代だから(笑)。そうなると必然的に時代錯誤なことを言い出すわけもないし、時代との齟齬が起こることもない、かつアーティストがやろうとしていることに対して、アーティストと同じ気持ち、同じ目線で考えることができるのは、大きな強みだなと感じました。で、思い返してみれば〈JYP〉のJ.Y.Parkや、〈BIGHIT(HYBE)〉のパン・シヒョク、〈YG〉のヤン・ヒョンソクのような、現役感のあるアーティストがやっている会社が韓国には多いんですよね。だからこそ、自分もアーティストとして現役感を持ったまま新しいプロダクションを作りたかったんだなと思い出しました(笑)。

——それによって、新しい道が切り開かれるはずだ、と。

SKY-HI:はい。もちろん、シンプルに自分が所属したい、あるいは自分が所属していたかった会社を作れば、救われる人は必ずいるはずだと思ったのも大きいですけどね。

——とてもよくわかりました。いまの日高くんは経営者としてスタッフをリクルートする側でもあるわけですけど、先ほどの話も含め、これからのマネジメントとして求めるスタッフ像を教えてもらえますか。

SKY-HI:一緒にお仕事をする方に対して、丁寧に接することができる人。愛情、感謝、リスペクトを常に持って接することができる人、本当にそれに尽きますね。

——すごく基本的なところを出してきましたね(笑)。

SKY-HI:いや、でもマジでそれに尽きるんですよ。言葉を選ばずに言うけど、旧来の芸能マネジメントの一部には——これはあくまで「一部」であるとは強調したいんですが——ぞんざい、横柄、憮然みたいな風潮があったのは確かで、それを一切合切排除していくという強い気持ちがあります。これはちょっとチャレンジングではあるんだけど、マネージャー経験者よりも、未経験であってもそのマインドがしっかりしていて、都度丁寧に仕事をできる人材を求めているところがありますね。この10年くらい、メールとLINEが増えたことで、仕事の丁寧さや人間性が露骨に出るようになったなと思うんですよ。特にLINEって会話とメールの間くらいの感覚だから、言葉の端々に“人”が見えやすい。

——それはとてもわかります。でも今日のお話を聞いていると、総じて、単純なツールみたいなものはすでにある程度整っているし、かつシーンのシステムや状況が日々変わっていくからこそ、どうアーティストと接することができるのかというマインドやアティチュードの部分を重視してるんですね。

SKY-HI:ほんとそれでしかないというか(笑)。音楽のジャンル自体もどんどん細分化してるし、アーティストによって最適解が全部違うので。いまはもう、システマティックにこれが正解だとか、こうしたらいいというものが本当に存在しない。だから本気でそのアーティストと一緒にやっていこうと思ったら、それこそさっき話した通り、100人いるなら100人と本気で向き合わなければダメなんですよ。同時に、会社である以上はスタッフとのコミュニケーションもすごく重要で。いまのBMSGは10人前後のスタッフだからぎりぎりコミュニケーションが取れるけど、今後人数が増えていったとき、どうやって密にコミュニケーションを取り続けられるのかは課題だなと思ってます。

——アーティストならびにスタッフのメンタルヘルスをどうケアできるのかは、特に今後のマネジメントにおける重要な課題だと思うので、その意味でもいまのお話は重要ですね。

SKY-HI:愛と思いやりと優しさは本当に重要だと思ってる。これはマネジメントに限らず、ですけどね。

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