クリエイティブコミュニティを醸成させるためにできることーーnarumin × 高尾俊介対談

クリエイティブ集団の醸成にできること

 直感的な操作で視覚的なプログラミングができる、TouchDesignerをはじめとしたノードベースビジュアルプログラミングツールをメインとした週末ワークショップやイベントの主催、およびデジタルエンターテインメント領域のコンテンツ開発を行うクリエイティブコミュニティ『Tokyo Developers Study Weekend』(以下、TDSW)の共同創業者であるnaruminによる連載「Behind the Tech People」。

 同連載では、naruminがホスト役として、テックで世界を彩り、社会を前進させ、各々の理想を実現化させるクリエイター・経営者のヒストリーを聞き出し、これからクリエイターを目指す人たちの一助になるための対話を、全十回にわたって繰り広げていく。

 第二回のゲストは、NFTアートプロジェクト「Generativemasks」が販売開始から2時間半ほどで1万個が完売するなど、大きなバズを生んだクリエイティブコーダー・高尾俊介氏。エンジニアとしてのキャリア、官民での活動、デイリーコーディングを継続し続ける理由、クリエイティブコミュニティを醸成させていくためにできることなどについて、話は次々と展開した。(編集部)

■narumin / Yuki Narumi
TDSW | Tokyo Developers Study Weekend co-founder
1996生まれ。大学在学中にノードベースソフトウェアを中心としたビジュアルプログラミングの週末勉強会を定期主催するTDSWを立ち上げる。世界中のクリエイター、アーティスト、ソフトウェア開発企業と連携しながら技術知見の共有と蓄積への貢献を活動指針とし、作り手の好奇心やニーズをキャッチアップした企画制作を行っている。

■高尾俊介
1981年熊本県出身。クリエイティブコーダー。2011年SNS上でIT用語と駄洒落による言葉遊びを競う「#takawo杯IT駄洒落コンテスト」を個人主催。2019年、プログラミングを日々の生活や来歴、風土や固有の文化と結びつけるための活動としてデイリーコーディングを提唱、現在も実践している。2021年、NFTアートプロジェクト「Generativemasks」を発表。発売から2時間あまりで1万個完売するなど話題となった。Processing Community Japan所属。第25回文化庁メディア芸術祭アート部門選考委員。

narumin:まずは高尾さんの自己紹介をお願いします。

高尾俊介(以下、高尾):現在は神戸市にある甲南女子大学のメディア表現学科というところで教員をやっています。自分が専門としているクリエイティブコーディングのほか、コンピュータを通じたものづくりや表現を中心に、コンピュータグラフィックスやデジタルファブリケーションなどの新しい分野にも触れながら教育者として、日々学生に教えています。

narumin:ほかの大学の情報系だとC言語やRubyをやっている場合が多いですが、高尾さんが所属するメディア表現学科はユニークな印象です。

高尾:プログラミングもTouchDesignerとp5.jsの2つを扱う授業をやっています。着任したのが2017年なので4年くらい経ちますが、不思議な魅力を持った学科だと思っていますね(笑)。文学部の中に身体表現や映像、漫画・アニメ、インターネットなど教員ごとに専門領域を持っているなか、僕はプログラミングを中心とした表現に関する領域で比較的自由にやらせてもらっています。

narumin:次に高尾さんのヒストリーについて深堀りしていきたいと思います。もともとキャリアはエンジニアからスタートしたんですか?

高尾:情報科学芸術大学院大学(IAMAS)に通っていた頃は、主に写真や映像の研究をやっていました。プログラミングにも憧れはありましたが、「何か難しいなあ…」という思いが強く(笑)、あまり触れてこなかったんです。それでも、大学院を出て1年半くらいは、Web制作の会社でインタラクティブなWebコンテンツ制作の仕事をやっていました。ただ、あまり向いてないなと思い、Web制作会社を退社後は東京藝術大学の美術学部で助手を務めました。そこで今やっているような、クリエイティブコーディングや電子工作などを実務で触れるようになりましたね。学生に教育する傍ら、自分の中にどんどんインストールしていったんです。

narumin:この辺りからアカデミックな領域で仕事するようになってきたんですね。

高尾:でも、東京藝術大学の後はまた民間の仕事をやっているんですよ(笑)。

narumin:結構、官民を往復してますね。

高尾さん:その時々で進路を考えていたので、結果的に往復するような形になっていますね。助手を2年半やった際にデジタルで新しいものづくりをすることや、何かを作って表現する活動に面白みを感じていたのでオライリー・ジャパンへ入社したんです。そこで、Maker Faireの国内の活動にまつわる企画や運営に携わりました。

narumin:現在、Processing Communityを運営する活動も精力的にこなされていますが、オライリー・ジャパンでの経験が生きているんですか?

高尾:そうですね。、Maker Faireは何かしら作ったものを介して、コミュニケーションしていくなかで生まれる熱量が伝播していくのが特徴的です。こうした姿を見て、「未来の社会はこうなったらいいな」と思って熱心に取り組んでいましたね。Processing Communityの場合はコードを通じた制作活動なので、、Maker Faireとは少し違う形ではあるものの、作ることでつながるコミュニティという点は共通しています。自分がそこに関わっていくことは非常に意味のあることだと思っています。

narumin:自分自身のものづくりで採用している技術やツールの延長線上にある未来を考えて活動しているのは希少な存在だと思っています。高尾さんが日課としてやっている「デイリーコーディング」では作った作品を毎日Twitterで投稿していますが、そもそも始めようとしたきっかけは何だったんですか?

高尾:プログラミングを始めようと思ったのが2015年ですが、すごい理由があったかというとそうでもなくて……。楽しんでやれることを何か見つけたいなと思ってプログラミングをやり始めたんです。また、Processingをなぜ選んだかというと、言葉にするのは難しいですが、当時の自分の状況と照らし合わせたときに何となくしっくりきた感じがしたんです。自分の制作活動に使う「道具」のようなものがほしかった気持ちもありましたね。今みたいに、自分で作ったものをSNSで投稿を続けるようになったのは2019年から。それまでコードは書いていましたが、パソコンのローカルに保存しているだけで誰にも見せていませんでした。

narumin:なるほど。SNSに公開するようになった背景はあるんですか。

高尾:とあるイベントでプレゼンをしたときに、自分の活動をもっとみんなに見てもらってもいいかなと思って、公開することにしたんです。結果的には自分にとっていいことしかなくて。リアクションをもらえたり、自分の書いたコードを誰かが書き換えて新しいものを作ってくれたりすることで、自分のインスピレーションにつながるきっかけにもなりました。また、今のProcessing Communityにあるような、コードを書き換えながら色々とやりとりしていくなかで楽しい雰囲気を醸成できたことも、良かったと思っています。

narumin:Twitterに自分の作品を公開することで、いろんな人とインタラクティブに意見交換や技術・知見の共有をしていっているわけですが、さらに延長線上に今話題のNFTがあると思っています。ここからは高尾さんが2021年に立ち上げたNFTアートプロジェクト「Generativemasks」の概要について教えてください。

高尾:2021年8月に立ち上げたプロジェクトで、プログラムで作成したグラフィックで、毎回カラーバリエーションやパターンが変わるユニークな作品になっています。これをNFTというブロックチェーン技術を使ったデジタルアートの売買の仕組みを使って10,000点を販売したんですが、ありがたいことに販売開始から2時間半くらいで全て完売してしまうほどの反響だったんです。

narumin:本当にすごいですよね……! Generativemasksを出品しようと思った経緯は何ですか。

高尾:今年の1月くらいから、自分が関わっているクリエイティブコーディングの界隈でもNFTアートを発表する人が増えている状況を目にしていました。当時は「こういう世界があって、面白そうだな」と思っていたくらいでした。そんななか、Processing Communityのメンバー経由で、NFTアートの制作に誘われたのがきっかけで取り組もうと思ったんですね。なので正直なところ、興味本位でやってみようというのが強かったです。このプロジェクトの重要なポイントとしては、売れた作品の個人の収益を全額を寄付するというのが特徴で、もしNFTアートをやるなら、最初から寄付するプロジェクトにしようと考え、アイデアや企画を練っていきました。

narumin:出品段階では、まさかこんなにもセンセーショナルなことになるとは想像もつかなかったんですよね?

高尾:そうなんですよ(笑)。最初から完売することを目的にしていたわけではないです。ただ、もともと作っていたグラフィックをブラッシュアップし、ジェネラティブアートとして昇華させていったんですけど、出来上がっていく過程で「これ、かっこいいかも」と実感を得るようになりました。あまり見たことのないものを作っている感じがして、「売れてほしいな」という思いや期待感が高まってきたんです。

narumin:なるほど。誘われて気軽に始めてみたものの、制作していく過程や出品をしたことで、自分にとっても新しい発見につながったのは面白いですね。

高尾:NFTアートに関して色々と学んでいますが、やはり実際に販売してみないとわからなかったことは多くありますね。また作品形態にもよりますが、NFTアートはただ売って終わるわけではないんです。Generativemasksで販売した10,000点のグラフィックを販売するということは、数千人の購入者がいるわけで、その購入者とコミュニケーションする場が必要になってくる。今ではGenerativemasksのDiscordのコミュニティに7,500人(11月30日時点)が参加するような規模になっています。

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