アニメ『サイバーパンク エッジランナーズ』をゲーム視点から分析 『2077』との共通点や違いは?

『サイバーパンク エッジランナーズ』分析

 ローンチ時点でプレイヤーの期待に応えることが出来なかったものの、時間を経てその評判を挽回し、愛されるタイトルへと変化していく。『No Man’s Sky』や『ファイナルファンタジーXIV』を筆頭に、数こそ少ないものの、そういったゲームは幾つか存在しており、その逆転に至るプロセスが注目を集める。

 そのような流れにおいて現在、もっとも注目を集めているタイトルは間違いなく『サイバーパンク2077』(2020年12月10日発売。以下、『2077』)だろう。

 ローンチ当初はバグの多さと(特にコンソール版における)最適化不足で多くのプレイヤーを失望させた同作だが、その勢いは2022年9月中旬を境目に一気に加速し、10月19日には公式Twitterアカウントで「4週間連続で、アクティブプレイヤーが100万人を超えた」と伝えられている。ローンチからもうすぐ2年が経過しようとしているタイトルとしては、極めて異例の事態であることは間違いない。

 

 この逆転劇の引き金となったのが、本作品と共通の世界を舞台としたNetflixアニメーション作品『サイバーパンク: エッジランナーズ』(以下、『エッジランナーズ』)だ。ゲームを手掛けたCD Projekt Red(原案、ストーリーなど)とアニメ制作会社TRIGGER(アニメーション制作など)による共同プロジェクトとして制作され、9月12日に配信された同作は、リリースから間もなくして大きな話題となった。

 筆者はローンチ当初の時点で『2077』にハマって数百時間を費やした身であり、この世界に対する思い入れが強く、当初は「自分の中にあるイメージと違うのではないか」と鑑賞をためらっていたのが正直なところだ。

 だが、実際に作品の視聴を始めると夢中で全10話を観終わってしまい、その余韻に浸りながらゲームを起動し、(多くのプレイヤーと同様に)主人公であるデイヴィッド・マルティネスの行動を追体験していた。アニメに触発された新たなプレイヤーも続々と(ゲーム/アニメの舞台である)ナイトシティに足を踏み入れているようだ。既存のプレイヤーも、新規のプレイヤーも、『エッジランナーズ』に触発されて『2077』を手に取るという流れが生まれたのである。

『サイバーパンク: エッジランナーズ』予告編 - Netflix

細部まで忠実に再現されたからこそ生まれる、「ゲームと同じ世界の物語を見ている」という感覚

 ここまで見事な相互作用が生まれた大きな理由の一つは、『エッジランナーズ』と『2077』(より正確には原作のTRPG『Cyberpunk 2.0.2.0.』)の世界観を完全に地続きのものに仕上げ、もはや切り離せないものとしたことだろう。

 実は、『エッジランナーズ』の配信が始まる前、今年3月のタイミングで『2077』のアフターライフというバーに「デイヴィッド・マルティネス」という名のカクテルが追加された(ゲームのプレイヤーであれば、それが何を意味するのかは知っている)。配信以前から、『2077』の内部に『エッジランナーズ』の物語が組み込まれていたのだ。ちなみに、9月6日のアップデートでは『エッジランナーズ』の後日談のようなクエストが『2077』に追加されている。

 そのうえで『エッジランナーズ』を鑑賞して何よりも驚かされたのが『2077』の世界観をアニメーションによって徹底的に再現している点である。作中に登場する建物は勿論のこと、ちょっとした路地や背景や広告、車や銃や飲み物といったアイテム、(メイルストロームに所属するギャングなどの)キャラクターの容姿や服装など一つひとつに至るまでがほぼ正確に描写されているのだ。全話を通して、ゲーム/アニメにおいて最も重要な“舞台装置”とも言えるナイトシティに対するイメージがブレることがないため、没入感が尋常ではないのである。

 さらに特徴的なのが、ゲーム内におけるUIや効果音といった要素もそのままアニメに流用されていることだ。ホロコールやハッキング周り、マップ、)エディ(通貨)の入金といった、ゲーム内で日常的に接してきた様々なインターフェースを、『エッジランナーズ』のキャラクターたちも同様に使っているのである(この点において、『2077』が一人称視点のゲームであることが有効に機能しているように思える)。

 また、『エッジランナーズ』の劇中歌の多くは『2077』におけるラジオBGMを流用しており、ナイトシティの日常を彩る「Who's Ready for Tomorrow」や、9月30日付でSpotifyの全世界バイラル・チャートで1位となった「I Really Want to Stay at Your House」も『2077』のプレイヤーにとっては以前から馴染み深いものだった。

Cyberpunk: Edgerunners | I Really Want to Stay At Your House by Rosa Walton | Netflix

 もちろん、このような“世界観の再現性”自体は、作品のストーリーそのものに強い影響を与えるわけではない。だが、「同じ場所に行ったことがある」、「同じ武器を使ったことがある」、「同じインターフェースを触ったことがある」、「同じ曲を聴いたことがある」という“体験の積み重ね”は、『2077』のプレイヤーにとって『エッジランナーズ』が同じ世界の出来事であるという実感を強くさせる。

 だからこそ、ストーリーやキャラクターに対して、まるで他人ごとではないような強い感情を抱かせてくれるのだ。その点において、本作がアニメ作品であることのメリットは大きい。3次元ではなく2次元で描写されているからこそ、ある程度再現が容易になっている面はあるだろう。だが、大量に散りばめられたデザインやモチーフや音楽が、二つの表現手段を繋いで一つの世界の出来事として、同一化させる役割を果たしている。

 再現度の高さはファンにとって嬉しいだけではなく、アニメを通して初めてゲームに触れるプレイヤーにとっても効果を発揮する。冒頭で言及した「4週間連続で、アクティブプレイヤーが100万人を超えた」という報は、「継続して遊んでいるプレイヤーが多く存在している」ことを示唆している。

 これはあくまで推測だが、『エッジランナーズ』をきっかけに『2077』を手に取った人々もギャップを感じることなく、そのまま夢中になっているという事例が多いのではないだろうか。余談だが、これは度重なるアップデートによってローンチ当初の問題の解決に取り組んできたCD Projekt Redの成果でもあるだろう。

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