不妊治療の名医が犯した驚きべき犯罪の実態 Netflixドキュメンタリー『我々の父親』の恐ろしさ

『我々の父親』の恐ろしさ

クラインの目的

 クラインは罪を認めているものの、自白にはいたっていない。なぜ自分の精子を使って患者を妊娠させていたのかという理由はいまだ不明だ。

 子どもたちは「クラインが白人至上主義で、白人で青い目をした子どもたちをできるだけたくさん増やそうとしていたのではないか」というひとつの仮説を立てている。

 というのも、クラインは熱心な宗教家で、子どもたちに問い詰められたときにもエレミヤ書の1章5節「私はあなたが体内に宿る前から知っていた」という言葉を引用している。この言葉から、クラインは自分のやっていたことを自覚していたのだろうと推測される。

 エレミヤ書の1章5節は、「クイバーフル」というカルト集団も大切にしているらしい。彼らは、できるだけ多くの子どもを持ち、その子どもたちを政治家に育て上げてバイブルを基準とした法律をつくる考え方を持っているそうだ。

 クラインの子どもたちは、「クイバーフル」の考えとクラインの言動、自分達の外見から、クラインがナチス時代の「アーリア人」を作ろうとしていたのではないかと想像している。

終わらない悪夢

 『我々の父親』の恐ろしさは、クラインの人を人とも思わない行動や、目的が不明瞭であることだけでない。クラインが患者の許可なしに自分の精子で不妊治療をしたことが、罪に問われなかったことだ。感情的にはレイプとも受け取られる行為だが、クラインの行為につける罪状はなかった。

 結果的に、クラインは「取り調べの際に犯した司法妨害」の罪に問われることとなった。彼の子どもたちの調査を妨害した罪で、500ドルの罰金刑が課せられた。多くの人たちの人生を壊した代償としては軽すぎるのではないだろうか。

本作の最後には、自分の精子を使って不妊治療をしていたのはクラインだけではなかったという衝撃の事実も明かされる。まるで、クラインが特別でないかのように……。

アメリカではいまだに生殖補助医療を包括的に規制する法律やガイドラインがなく、各州の州法や裁判所の判例に従っている。日本にも生殖補助医療を規制する法律はないそうだ。

 デリケートな問題ゆえに法規制が遅れてしまうのはしょうがないのかもしれない。だが、法で裁けないという事実と当事者の心情をおもんぱかると、終わらない悪夢を見ている気になってしまう。

■作品情報
『我々の父親』
Netflixにて独占配信中

参考:
内閣府
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/sentaku/s3_1_10.html

Netflix Junkie
https://netflixjunkie.com/our-father-what-motivated-donald-cline-to-commit-the-heinous-act-of-wrongfully-impregnating-his-patients/

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