ヴィーガンは洗脳されやすい? Netflixドキュメンタリー『バッド・ヴィーガン』から考える
ヴィーガンレストランの有名オーナーが愛犬を不死にしたくて詐欺を働いた。逮捕のきっかけは、ピザの支払い。
これは、先日配信されたNetflixリミテッドシリーズ『バッド・ヴィーガン:サルマ・メルンガイリスの栄光と転落』の内容をざっくりと説明したものだ。情報量が多いだけでなく、非常に不可解だが、これは実際に起こったことだ。
そして、かつてヴィーガンだった筆者は、なんとなくサルマ・メルンガイリスがなぜ「犬に永遠の命を与える」といった荒唐無稽な夢物語を信じてしまったのかがわかるような気がした。
ヴィーガンだった筆者のマインド
サルマ・メルンガイリスの一連の行動を考察する前に、筆者がヴィーガンだった頃の話をしたい。
筆者がヴィーガンだったのは2003年〜2005年にかけて。積極的に動物愛護活動をしていたときのことだ。当時はアメリカに住んでおり、オーガニック食材やベジタリアン食材が手に入りやすかったことと、愛護活動家のほとんどがヴィーガンだったこともあって、菜食主義だけど乳製品も食べるラクト・ベジタリアンを経てヴィーガンになった。
ヴィーガンは、肉類はもちろんのこと、乳製品さえ一切摂取しない。筆者の場合、ヴィーガンで居続けるモチベーションは健康ではなく、自分が生きるために動物を犠牲にしたくないという気持ちだった。だが、長年肉を食べてきたので、無性に肉を食べたくなることがあったので、欲望に流されないよう、ベジタリアン以外の友人と食事を共にするのを控えるようになった。そして反比例するように、ヴィーガンの人たちと頻繁に交流するように。ヴィーガンという言葉の認知度も低かった当時は、仲間同士で集まって情報交換するのが盛んだった。
筆者の生活は動物が中心だった。犬と暮らし、週末は保護犬のボランティアをしていた。口にするものは植物性のみ、肌につけるものも動物実験がされていないナチュラルなものに限定した。アロマやレメディ、パワーストーンにも興味を持ち始めた。と同時に、周囲の人たちにベジタリアンになる有益性を説き始めた。マイノリティでヴィーガンをしていても、動物を取り巻く環境は変わらない。ムーヴメントにする必要があると考えていたのだ。そして、ここまで動物優先で生きているのだから、愛犬はもちろん、ほかの動物とも信頼関係を築けると信じていた。
ヴィーガンの全員がこういうマインドを持っているとは言わないし、これはあくまで筆者ひとりの経験だ。だが、少なくとも筆者とサルマ・メルンガイリスの考え方には共通するものがあると思う。
サルマと保護犬レオンとの関係
サルマがヴィーガンになった理由は語られていないが、ドキュメンタリーの内容から伺うに、動物に強い思い入れと愛情を持っていることは確かだ。
彼女が元夫のアンソニー・ストランジス(別名ショーン・フォックス)に洗脳されたのも、保護犬のレオンが理由だったという。彼女は、アンソニーにしたがっていれば、レオンと彼女自身が不死になれると信じていたのだ。では、なぜサルマは「不死」などという非現実的な話を信じてしまったのだろう。
まず、サルマにとってレオンはコンパニオンアニマル以上の存在だったのは想像に難くない。アンソニーの前に付き合っていた恋人との辛い別れや、ひとりで高級レストラン「Pure Food and Wine」を経営するプレッシャーに押しつぶされそうになっていたサルマの心を支えたのは、他でもないレオンだったからだ。また、筆者がそうであったように、サルマもレオンとは特別な関係を築けていると信じていたはずだ。それだけでなく、その関係を他者からも認められたいと思っていたと筆者は考えている。
アンソニーは、サルマのそんな気持ちを理解していた。だから率先してレオンの話題を出したり、サルマとレオンをセット扱いすることでサルマの心を掴んでいった。「サルマとレオンは前世からつながっていた」という言葉は、サルマにとって、レオンとの関係を確信させるなによりも嬉しい言葉だったに違いない。
アンソニーとの交際を決めた理由のひとつも、「レオンがアンソニーを気に入ったから」だった。