不妊治療の名医が犯した驚きべき犯罪の実態 Netflixドキュメンタリー『我々の父親』の恐ろしさ

『我々の父親』の恐ろしさ

 信頼を寄せていた医者に、取り返しのつかない形で裏切られていたら……?

 そんな恐ろしいドキュメンタリーがNetflixで配信されている。タイトルは『我々の父親』。不妊治療の名医として知られるドナルド・クラインが、患者に「精子ドナーのものだ」と偽り、自分の精子を提供して自分の子どもを増やしていたという衝撃の事件だ。彼の精子を使って生まれた子どもは、『我々の父親』制作時に判明しているだけで94人。だが、それ以上いるだろうと考えられている。

 制作を手掛けたのは、ホラー映画で定評のあるブラムハウス。『パラノーマル・アクティビティ』、『インシディアス』、『パージ』、『ゲットアウト』といった過去作同様、怖いだけでなく社会的問題にも切り込んでいる。

だが、これまでの作品とは決定的な違いがある。それは、これが物語ではなく実話であり、当事者らは生きている限り苦しめられるということだ。

きっかけはDNAテスト

 『我々の父親』で描かれた不妊治療の医者による犯罪が発覚したきっかけは、ジャコバという女性がDNAテストサービスの23andMeを使って、近親者を探したことだった。

 ジャコバは、親族の誰1人とも似ていないことで、「自分が引き取られた子どもなのではないか」と悩んでいた。そんな彼女に、母親は「精子ドナーに協力してもらった」と打ち明けた。

 大人になったジャコバは、それほど深刻に考えることもなく、当時はやっていた23andMeを使ったという。結果には、近所に腹違いの兄弟が7人もいると示されていた。母親からは「精子ドナーは3人以上に精子を提供していないはず」と聞いていたため、7人もの兄弟がいるのを不審に感じ、調査を始めたのだった。

不妊治療の名医

 調査を進めた結果、生物学的な父親は、母親の不妊治療を担当していた医者であるドナルド・クラインだったことが判明した。クラインがクリニックを開業した1979年当時、不妊治療は凍結した精子を使うのが一般的にされていたにもかかわらず、彼は「新鮮な」精子を使い、数多くの不妊治療を成功させた。しかし、その「新鮮な」精子は、クライン本人のものだったのだ。

 精子ドナーに精子を提供されていると信じていた患者と家族は大きなショックを受ける。育ててくれた父親と血のつながりがなかったこと、母親の純粋な子どもを欲する気持ちが踏み躙られたこと、近所に血を分けた兄弟が大勢いることで知らず知らずに関係を持ってしまっているかもしれないこと……、受け取り方はさまざまだ。

 事実を知った子どもたちをさらに苦しめたのは、クラインの態度だった。彼は保身に走り、事実を明らかにしようと奔走する子どもたちを脅した。話し合いの場に銃を持ち込んだり、身の危険を感じさせる陰湿な嫌がらせをしたりする。自ら犯した過ちを反省する気持ちなど、微塵もなかったようだ。

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