『はじめてのおつかい』が海外で賛否両論になった理由 非日常の冒険が恐怖に包まれるカルチャーギャップ

なぜ『はじめてのおつかい』賛否両論に?

 Netflixで『はじめてのおつかい』が配信され、海外で大きな話題になっている。

 好意的に受け止める人もいれば、否定的な意見を持つ人もいる。筆者の周りでも様々な国の人たちが意見を交換しているが、その多くが「かわいい」や「危なくないの?」だった。

 かわいいけれど不安になる……。筆者は数年前まで海外で子育てしていたので、その気持ちがよくわかる。そこで、今日は『はじめてのおつかい』をめぐる海外メディアや外国人の反応を取り上げつつ、筆者が約20年にわたる海外生活と子育てを通して感じたことを書いていこうと思う。

放し飼いの3歳児

 まずは、reasonの記事を紹介したい。タイトルは、「All Americans Should Watch Old Enough!, a Netflix Show About Free-Range Japanese 3-Year-Olds(全アメリカ人が見るべきNetflixの『はじめてのおつかい』は放し飼いの3歳児の物語だ)」というかなり衝撃的なもの。だが、我々がこのタイトルに驚く以上に、著者のLENORE SKENAZY氏は番組に対して戸惑っている。

 というのも、 SKENAZY氏は過去に9歳の子どもをひとりで地下鉄に乗せた経験を記事にして、炎上したことがあるのだ。子どもの能力に関わらず、犯罪に巻き込まれる可能性があるため、アメリカでは子どもを大人の監視下に置かなければならない。12〜13歳くらいまでは、子どもをひとりで留守番させることも虐待とみなされて通報されることがある。子どもをひとりで地下鉄に乗らせるなど言語道断で、警察に通報されてもおかしくない案件なのだ。

 そのような国に生まれ育ったSKENAZY氏は、幼児がひとりで路上を歩いていることはもちろん、赤ちゃんの面影を残すほど幼い子どもが、どれほどの可能性と自立心と理解力を兼ね備えているのか目にしたことがない。もちろん、『はじめてのおつかい』のおつかいが、番組スタッフによってある程度お膳立てされていることは承知しているが、想像を超えた子どもの能力を目の当たりにしてショックを隠しきれなかったのだ。

 CBS NEWSは、日本の治安の良さと育児方針、幼児の自立心の高さが番組の成功の鍵だとした上で、あの年齢の子どもに高い自立心を求めるべきかや、どの年齢ならおつかいや掃除を頼んでいいのかがアメリカで議論されていると書いている。記事は、「番組の危険な冒険は視聴者をドキドキワクワクさせたり怖がらせたりしている」という言葉で締めくくられている。

 余談だが、「あの年齢の子どもにxxを〜」は、日本の中学受験事情をアメリカ人の友人に話したときにも言われた。どんな子ども時代を過ごすべきか、何が適齢なのかは、子育てをする上での重要なポイントなのだろう。

 マレーシアのmalay mailは、「Horrifying or cute: Netflix’s ‘Old Enough!’ documents the adventures of toddlers running errands solo(恐怖か可愛いか:Netflixの『はじめてのおつかい』は幼児にひとりでおつかいさせるドキュメンタリーだ)」というタイトルの記事で、丁寧に番組の構成や裏話を綴っている。

 たとえば、子どもたちが完全に「放り出されている」のではないことや、スタッフらが周囲の安全を確保しながらカメラを回していること、ジョギング中の人や庭師を装って見守っていること、おつかいの内容は子どもの能力を基準にして無理のない範囲で保護者が決定していることなどだ。

 また、日本は、子どもがひとりで安全に歩くことを前提とした街づくりをしていたり、地域住民が子どもを見守っていたりすることにも触れている。

 ここで紹介した以外のメディアでも、心配や戸惑いの声、小さい子どものポテンシャルの高さに驚く声が多かった。

未就学児におつかいさせることがエンタメになる豊かな国 日本

 すでに驚かれる理由などは軽く紹介しているが、もう少し考察したい。

 『はじめてのおつかい』は、幼児のミッション遂行を見届けるエンターテイメントだ。基本的にミッションは単純なものが多く、頼まれたものを買い忘れても怒られず、努力を誉められる。子どもは達成感を得られ、親は子どもの成長に目を細めることができる。視聴者は、子どもならではのハプニングに笑いや感動をもらえる。多くの海外視聴者を混乱させたのは、子どものおつかいがエンターテイメントとして消費できる日本の豊かさにもあるのではないだろうか。

 というのも、子どもの「おつかい」は東南アジアやアフリカなどでは日常的に行われている。筆者は東南アジアに5年ほど住んでいたときに、周辺国を旅行してまわった。観光地では、観光客相手に小さな子どもがお土産を売っていた。ツアーガイドから聞いたが、子どもが小さければ小さいほど観光客の同情を引きやすく、売上が上がるそうだ。保護者は、大人である自分が売り歩くよりも子どもにやらせた方が儲けを出せるので、学業そっちのけで観光地に向かわせる。子どもが親を助けたり労働の担い手になったりすることは、多くの国にとって問題となっており、いかに労働させずに子どもらしく学業や遊びに集中させてあげられるかが課題となるケースが多い。

 『はじめてのおつかい』がエンターテインメントとして成り立つのは、あの年齢のおつかいが非日常の冒険であることと、義務教育制度が整っているからとも考えられる。

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