音楽とNFTは本当に相性が悪いのか? MUSIC3の可能性に挑む『FRIENDSHIP.DAO』から考える

音楽×Web3の“相性”を考える

 ブロックチェーン、NFT、DAOなど、「非中央集権型のインターネット」を生み出すための技術を取り巻く概念「Web3」。この「Web3」がエンタメに与える影響や、その活用方法について考えていく特集「Web3によって変化するエンターテインメント」。

 同特集の第三弾となる本記事には、MetaTokyoにも参加しているFracton Ventures株式会社の赤澤直樹氏と、デジタル・ディストリビューションとPRが一体となったレーベルサービス「FRIENDSHIP.」を手がけるHIP LAND MUSICの山崎和人氏&タイラダイスケ氏が登場。

 HIP LAND MUSICはこれまで、BUMP OF CHICKEN、サカナクション、KANA-BOONなど、日本の音楽シーンのメインストリームで活躍するアーティストや、The fin.やLITEなどワールドワイドで活動するアーティストを手掛けてきた音楽プロダクション。直近では日本初の音楽DAO「FRIENDSHIP.DAO」の始動を発表するなど、「音楽×Web3=MUSIC3」の可能性に挑もうとしている彼ら。音楽×Web3の議論になった際に指摘されがちな“音楽とNFTの相反する性質”や“音楽とDAOの好相性”などについての意見を聞いた。(編集部)

■山崎和人
1978年生まれ。2000年(株)ハーフトーンミュージック入社、2003年よりライブハウス新宿MARZの店長/ブッキングマネージャーを経て、2009年に(株)ヒップランドミュージック・コーポレーション入社。The fin.、LITEのA&R/マネージャーとして、作品リリースやアメリカ、ヨーロッパ、アジアなど数々の海外ツアーの制作を担当。また2019年5月より、デジタル・ディストリビューションとPRが一体となったレーベルサービス「FRIENDSHIP.」をスタートさせる。

■赤澤直樹
2016年からフリーランスエンジニアとして活動を開始。機械学習やブロックチェーンを利用したアプリケーションの企画設計開発を行う。2019年からはブロックチェーン人材を育成する株式会社FLOCで講師やカリキュラム開発を行う。
2018年から国外のコミュニティを中心に、トークンエンジニアリングの発展・普及にコミットしている。2021年1月末にはFracton Ventures株式会社を共同創業。同社でWeb3.0社会、DAOの普及・到来に向けて啓蒙を含めた活動を行う。

■タイラダイスケ
DJ。
新進気鋭のバンドと創り上げるROCK DJ Partyの先駆け的な存在であるFREE THROWを主催。DJ個人としても日本全国の小箱、大箱、野外フェスなど場所や環境を問わず、年間150本以上のペースで日本全国を飛び回る、日本で最も忙しいロックDJの一人。
また過去にはライブハウス「新宿MARZ」の店長を務め、現在はデジタルディストリビューションサービス「FRIENDSHIP.」のキュレーターを務めるなど活動は多岐に渡っている。

コロナ禍で増えたアーティストのデジタル需要

ーーまずは2019年にリリースした「FRIENDSHIP.」が、どのような経緯でスタートしたものなのか教えてください。

山崎和人(以下、山崎):「FRIENDSHIP.」を作ったのは、僕がそもそも海外をメインに活動するアーティストのマネジメントや作品のリリースなどに関わる仕事を行っていたのが背景にあります。かれこれ10年ほどその仕事を続けてきたなかで、2015〜16年あたりを境にフィジカルからデジタルへ移行していく流れが、欧米を中心に見られるようになっていました。いわゆるレーベルがディストリビューションサービスへと置き換わってきている時期だったんですね。アーティストが自分で音源を作って、その権利を持ったままデジタルディストリビューションサービスを使って、作品をデリバリーしていく。欧米の音楽シーンは、これまで分業体制がしっかりと構築されていたので、プロモーションはPR会社、ブッキングはブッキングエージェント、ラジオはラジオ専門のプロモーターなどそれぞれ契約を交わしてアーティスト活動をしていくのが一般的でした。

 そして、デジタルディストリビューションサービスが台頭したことで、今までレーベルが行っていた原盤制作からリリースまでの活動をアーティストが一本化して行えるようになった。このような新しい動きが出てきたことが、FRIENDSHIP.をスタートするきっかけのひとつになっています。一方で日本はというと、売り上げが下がってきているとはいえ、世界に比べればまだまだフィジカルが強かったのですが、ことさらインディーズアーティストになればなるほど、予算が割けずにレーベルが消滅してしまったり、いざフィジカルリリースしてもプロモーションが一切できなかったりといった課題もありました。こうしたなか、海外で主流になってきていたデジタルディストリビューションサービスを、日本の音楽業界や仕組みに合わせてローカライズさせ、インディーズアーティストのサポートができるようにと考えたのがFRIENDSHIP.でした。

『FRIENDSHIP.』
『FRIENDSHIP.』

ーー2015年以降、海外ではAWALなどデジタルディストリビューションを手がける企業が続々と出てきていましたが、その流れを汲むような形でFRIENDSHIP.が立ち上がったと。

山崎:そうですね。当時はUKのデジタルディストリビューションサービスにも直接話を聞き、担当していたThe fin.の楽曲リリースを前向きに検討したんですが、内容を聞いてみると「これって、自分たちでもできるのでは」と思ったんですよ。でも、日本にはこのようなサービスがそのころはなかった。このような実体験を経験したのも大きかったと思っています。

ーー当時、私もリアルタイムで情報をキャッチアップしていて、すごく画期的な取り組みだなと思っていました。あれから時が経ち、今年5月で3年目を迎えるわけですが、実際の手ごたえや運用してきたなかでの課題感はどのようなものがありますか。

山崎:コロナ禍が重なって、アーティストによるデジタルへの需要がものすごく増えたと感じています。僕らが想像する以上のアーティストの方からお声がけいただき、数値的にも想定を超える結果として推移していると思っています。ただ、なかなかリアルでのライブができないゆえに、アーティスト活動がどうしてもストリーミング中心にならざるを得ないのが課題だと感じています。ストリーミングの再生単価は、フィジカルに比べて極端に少なく、継続的な活動が厳しくなってきているとも言えるでしょう。

ーーインディーズアーティストの場合、ストリーミング再生による収入は微々たるもので、フィジカルでのライブやマーチャンダイジングなどが収入を占める割合が大きいですよね。

山崎:FRIENDSHIP.をやって思ったのは、デジタルによって国境がなくなり、直接海外の人へリーチしやすくなったことです。でも同時に、アーティストがSNSやメディアを通してファンにアプローチする際に、どうしても言語の障壁が気になってしまう。いわばデジタルディストリビューションの良い部分と悪い部分がちょっとずつ見えてきているような状況ですね。

ーーありがとうございます。ちなみに言語の問題というのは「音楽」と「プロモーション」のどちらでしょうか?

山崎:どちらかと言うと、ファンとのコミュニケーションやプロモーションの部分がやはりネックになっていると思っています。もちろん、音楽の歌詞だったりも多少の問題にはなるかもしれませんが、そこは作品のクオリティで十分にカバーできると考えています。ただ、日本人のアーティストはどうしても英語がネイティヴでないばかりに、海外のファンとコミュニケーションするのを躊躇してしまったり、海外メディアからの取材オファーを断ったりしてしまったりと、チャンスを逃していることも往々にあると感じています。

タイラダイスケ
タイラダイスケ

タイラダイスケ(以下、タイラ):私からは現場レベルでのお話ができればと思っています。先ほど山崎からも説明があったように、FRIENDSHIP.はインディーズアーティストから求められるサービスだと思っていて、特に国内外含めたプロモーションの観点について支持いただいていると感じています。日本の音楽業界のシステムでは、プロモーションチームがレーベルやレコード会社に紐づいていることがほとんどで、アーティストがそうした事務所やレーベルを離れてインディペンデントな活動をする際には必然、プロモーションチームも失うことになります。

 アーティストが独立して活動することを、ヒップランドのリソースも使いながらFRIENDSHIP.がサポートするというのは、アーティストにとっても心強い存在になっていると思いますし、実際のところFRIENDSHIP.経由でリリースしたアーティストの多くが再生回数を伸ばすことにも成功しているんです。

 しかし、ストリーミング時代ならではの課題として感じる部分もあります。それは、音源自体が大きい収益源になるというよりも、ある種プロモーションツールのような捉え方になっていること。音源をどのようにマネタイズへとつなげていくか考えたときに、どうしてもコロナ禍が向かい風となり、ライブができないのが現状なんです。なかなか思うように活動できないなか、どこに活路を見出し、アーティストのさらなる成長へとつなげていけるのかが、今後FRIENDSHIP.が踏み込んでいくべきことだと思っています。

「FRIENDSHIP.」はもともとDAOの概念に近かった

 

ーーそんななかで、新たな展開として始めるのが「FRIENDSHIP.DAO」だと聞いています。これまでお二方が話していた課題の解決が期待できるほか、国内においてもコミュニティをしっかりと形成し、対話の手法を確立することで、アーティストのインディペンデントな活動とコミュニティをシンクさせていくことにも期待できると思いますが、あらためてこの取り組みがどういうものなのか教えていただけますか。

山崎:DAO(自律分散型組織)の精神性に、FRIENDSHIP.が行っていることとの親和性を感じたことがそもそもの始まりでした。FRIENDSHIP.が他のデジタルディストリビューションサービスと違う点として、良い音楽だけをセレクトしてリリースし、それに対してプロモーションをかけていくことがあると思います。この仕組みであればアーティストそれぞれがレーベルオーナーになって、原盤を作り、FRIENDSHIP.がその作品をプロモーションし、流通させていくというように、うまく役割を分担できるんです。要は「個人レーベルの共同経営」というか、アーティストの数だけ個人経営のレーベルがFRIENDSHIP.内に共同体として存在しているような状況とも言えます。そしてそれは一方通行のサービスではなく、FRIENDSHIP.の担当者とアーティストが一緒に対話しながらリリースプランを考えてプロモーションしていくところが、通常のサブミット(提案)型と異なります。

 加えてFRIENDSHIP.では、アーティストから配信事務手数料を15%もらっているんですが、その代わりに年間の固定費はいただいていないんです。つまり、こちらもプロモーションを頑張って再生数を増やしていかないと収益に結びつかない。アーティストとFRIENDSHIP.がお互いにリスクを背負うことで、上下ではないフラットな関係性を築けており、その関係性がDAOの「自律分散型組織」という仕組みにもともと近かったというのが、FRIENDSHIP.DAOを始めるひとつのきっかけになりました。

 また、FRIENDSHIP.のもうひとつの特徴としてあげられるのが「キュレーター」です。FRIENDSHIP.にはアーティストやDJ、ブッキングマネジャー、ライターなど、いろんな分野の最前線で活躍している人たちがキュレーターとして参加して、彼らがアーティストの音源を聴いてサポートするかしないかを決めているんですが、その部分でもDAOを活用して、キュレーターとアーティストをつないだり、相互支援的なコミュニティを作ったりといった活動も今後できるんじゃないかと考えています。さらに、この仕組みをうまく作ることができれば、リスナーとアーティストの関係にも応用できるのではと。そう思っているんですね。例えばコミュニティに貢献した人にはトークンを付与するなど、行動に対して報いるような仕組みです。

 最終的にはアーティスト、キュレーター、ファンの3者が共存する音楽コミュニティを目指していて、FRIENDSHIP.DAOによってそれを実現したいと思っています。

ーーいま山崎さんが語ったFRIENDSHIP.DAOの世界観は、主権がプラットフォームに依存しない、Web3的な考え方に近しいと思いました。そのなかで、ParadeAllやFracton Venturesといった他社とアライアンスを組んで施策を進めていくことが大きな特徴になっています。ヒップランド単体でなく、他社を巻き込んで進めていくプロジェクトへと発展した背景にはどのようなものがあったんでしょうか。

山崎:実はParadeAllの鈴木さんとは以前から面識があり、ParadeAllのセミナーに参加したり弊社の社内向けセミナーに登壇してもらったり、私自身も鈴木さんと一緒のセミナーで話したこともあったりといった親交がありました。そして昨年、ちょうどNFTが話題になった頃に弊社社長の野村が、鈴木さんに「NFTの詳しいことについて説明してほしい」という打診をしたことで、Fracton Venturesの方がNFTの仕組みを説明しに来てくださったんです。そこからこのプロジェクトはスタートしています。音楽NFTの話を聞くなかで、ブロックチェーン技術を組織に代用したDAOという取り組みが海外で始まっていることを知りました。この時に「DAOはFRIENDSHIP.と非常に相性が良いかもしれない」と思ったんです。そこからプロジェクトを本格的に立ち上げるために、3社をマッチングさせた流れです。

赤澤直樹
赤澤直樹

赤澤直樹(以下、赤澤):ヒップランドミュージックとの最初の接点は昨年の中頃、クリエイターやアーティストがNFTに注目を寄せ始めた時期です。新しい表現方法でありながら、レベニュー(収益)の新しい柱にもなりうることから、私のところにも結構なお問い合わせをいただく状況でした。始めの方は「NFTを使って何か面白いことができないか」という内容が多かったんですが、そこから次第に「NFTを出すだけじゃ面白くないし、本質的でもない」と思うようになりました。こうしたなか、ヒップランドミュージックが運営していたFRIENDSHIP.と出会い、もうちょっと詳しく知るために概要を聞かせてもらったところ、NFT云々ではなくその土台にある考え方とシンクロする部分が多いことに、一同気づいたんです。FRIENDSHIP.をさらにスケールさせ、グローバルに活動を発信したり、いろんな人を巻き込んでいくためにはNFTをどのように活用できるのか、そういったことを議論し始めたのが、FRIENDSHIP.DAOの話につながっていますね。

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