「原宿カルチャー」と「Web3」は似ている? MetaTokyo鈴木貴歩&アソビシステム中川悠介と考える

対談:「原宿カルチャーとWeb3の類似性」

 ブロックチェーン、NFT、DAOなど、「非中央集権型のインターネット」を生み出すための技術を取り巻く概念「Web3」。この「Web3」がエンタメに与える影響や、その活用方法について考えていく特集「Web3によって変化するエンターテインメント」。

 同特集の第一弾となる本記事には、MetaTokyo株式会社の代表取締役CEOである鈴木貴歩氏と、アソビシステム株式会社の代表取締役である中川悠介氏を迎えた。先日“メタバース内の文化都市開発を行う会社”として設立されたMetaTokyo株式会社は、カルチャーファーストの視点からWeb3の概念をどのように捉え、活用しようとしているのか。そもそもエンタメとWeb3に親和性はあるのか。さまざまな疑問をぶつけてみた。(編集部)

■鈴木貴歩
MetaTokyo株式会社 代表取締役CEO。ゲーム会社、放送局でコンテンツ企画、事業開発を担当した後に、2009年にユニバーサルミュージック合同会社に入社。デジタル本部本部長他を歴任し、音楽配信売上の拡大、全社のデジタル戦略の推進、国内外のプラットフォーム企業との事業開発をリードした後独立。 2021年にMetaTokyoプロジェクトを立ち上げ、2022年に法人化し代表取締役CEOを務める。

■中川悠介
1981年、東京生まれ。きゃりーぱみゅぱみゅなど世界で活躍するアーティストが所属するアソビシステムを07年に設立。青文字系カルチャーの生みの親であり、原宿を拠点にファッション・音楽・ライフスタイルを世界に発信。内閣官房「クールジャパン官民連携プラットフォーム」構成員および「ナイトタイムエコノミー議員連盟」アドバイザリーボード メンバーを務め、国内におけるインバウンド施策も精力的に行い、新規事業の開発にも積極的に取り組んでいる。

原宿カルチャーはWeb3の本質と近い

ーーNFTを活用し、メタバース上にグローバル文化都市「メタトーキョー」を創り出す構想について、最初に話を持ちかけたのはどちらだったのでしょう?

鈴木貴歩(以下、鈴木):私のほうですね。中川さんのところに企画を持っていく前に、弊社とFracton Venturesとの間で「音楽やエンタメをNFT化して新たなビジネスを創る」ために業務提携を結んだことがまず背景にあり、その延長線上でアソビシステムさんへ「何かご一緒できないか」と話を持ちかけました。

ーーそれに対して中川さんは最初、断ったと聞いてますが......。

中川悠介(以下、中川):当時、 NFTに関する情報は周囲からたくさんもらっていたんですが、正直「NFTだけだと『ただのファンビジネスの延長』になってしまうので難しい」と感じていました。短期的にマネタイズするだけでなくカルチャーとして創っていくには、この障壁を乗り越えることが肝心だと思っていて、 NFT関連のビジネスの話は来るものの、どうしようか迷っていたんですね。そのなかで、鈴木さんとFracton Venturesが教えてくれたWeb3やメタバースは、近未来の世界を感じさせ、先を行くような印象を受けた。「これなら自分が思い描いたストーリーが創れる」と思ったので、一緒にメタトーキョーの構想を作って踏み込む決意をしたんです。

鈴木:中川さんと色々お話しするなかで、「NFTに取り組むだけだと、単発のビジネスになってしまう」というのは共通認識を持っていました。そんななか、アソビシステムが発信する「kawaii」や「音楽」や「ファッション」などの東京カルチャーは、NFTを含んだWeb3の本質と近いのではと思うようになった。こうして中川さんと対話していきながら、徐々にメタトーキョーの方向性を擦り合わせていったんです。

アソビシステム株式会社、ParadeAll株式会社、Fracton Ventures株式会社によって設立された合弁会社「MetaTokyo株式会社」

ーー鈴木さんが思うWeb3の本質はどのようなところにありますか?

鈴木:プライバシーや決済情報などをプラットフォーム側に握られてしまうWeb2の世界とは、まったく違うのが特徴になっています。音楽のNFTで例えると、アーティストが自分の意思で商品内容を決め、プライシングも定めることができるというわけです。要するに、既存のWeb2のようなプラットフォームに縛られないのがWeb3の持つ新しい世界だと言えます。一方で、アーティストやクリエイターは自ら、Web3上でストーリーを創っていかなければならないでしょう。

このようなストーリーを創ることができるクリエイターやチームにとっては、活動の場を広げたり新たなクリエイティブを生み出したりグローバルな経済圏を作ったりと、より大きな可能性が広がっていると感じています。さらにイーサリアムなどの暗号通貨と連携すれば、ボーダレスに世界とつながることも可能になるんです。かつて、裏原のカルチャーから藤原ヒロシさんやNIGO®さんが世界的なファッションデザイナーとして、アーティストとしてきゃりーぱみゅぱみゅがグローバルに活躍していったように、Web3でも同様の流れが起きてくるのではと期待を寄せているような状況です。

ーー中川さんはWeb3という言葉について、どのような印象を抱いていましたか?

中川:Web3はそこまで知らなかったというか、言葉はちょっと聞いたことがあるくらいでした。自分の中で「インターネットの大きなプラットフォームに依存する形はどうなんだろう」と思う部分があったので、Web3の概念を聞いたときはすごくしっくりきました。

Web3時代に大切なのは「カルチャーファースト」であること

ーーエンタメ業界にいる身として、「カルチャーファースト」であることの重要性をすごく感じています。鈴木さんはエンタメ業界で長く仕事をされていますが、カルチャーファーストの信念が、既存のプラットフォームやビジネスにおいて尊重されていないという課題を持たれていたんでしょうか?

鈴木:私は、独立してからエンターテインメントとテクノロジーを掛け合わせた「エンターテック」という言葉を発信しています。テクノロジーはどんどん進化していきますが、最新のテクノロジートレンドに合わせて、自分たちの表現やビジネスを拡張させていくこと。これこそが、次世代アーティストのセオリーになると捉えています。まさにそれがWeb3の時代へと転換していくわけで、ユーザー知見やクリエイター知見がより重要性を増してくるでしょう。

自分たちはどんなエンタメを届けるべきなのか、どうやってファンを楽しませればいいのかを本気で考えていかなければならない。そこで大切になってくるのがカルチャーであり、アーティストがなんでもできるからといって、 無闇になんでも売ってしまうのはWeb3の本質を捉えていないことになります。また、新規参入してくるスタートアップなどにも、Web3の特徴としてカルチャーが大事であることを理解してもらうために「カルチャーファースト」という言葉を掲げているんです。

ーーWebのクリエイターや技術者は自分のクリエイティブをワンストップで表現することに長けていますが、カルチャーを創出する、あるいはその担い手となるようなアーティストやタレントの方々には技術が無く、現状では彼らが自分ひとりだけで表現を完結させるのは難しいと思っています。さらに、Web3における非中央集権型の世界ではよりアーティストへの負担が増える懸念も予想されます。こうしたなか、メタトーキョーではWeb3時代のアーティストが活動していくうえで、どのようなアドバイスをしていくのでしょうか。

鈴木:ストリーミングやソーシャルメディアのような、同じゲームの中で戦わなければならないのがWeb2の世界観です。そのなかで活路を見出していくには、再生回数やフォロワーといった数字などが大事になってくるわけです。他方でWeb3の場合は、クリエイターの発想がダイレクトにコミュニティに反映され、そのコミュニティから経済圏が生まれてくる流れになります。

 これからどうなっていくか予想はできませんが、決済の仕組みやコンテンツを売る仕組みを見ても、OpenSeaで簡単に売買できるようになってきています。また、マーケティングも従来のような売るためのものではなく、アーティストがどんな思いで今後クリエイティブを作っていくかという方向性に変わっていくのではと考えています。

中川:メタトーキョーを含め、Web3の世界はタレントにとって明確に未来を創っていく可能性があると実感しています。Web3における未来を創造するサポートをしていくのが、僕たちの役目だと考えています。個の時代になったことで、事務所やレーベルを必要とする人もいれば、そうでない人もいると思っていて、前者の人に対してどれだけアドオンさせてあげられるかが、事務所の価値の出し方だと考えています。マネジメント事務所としてあらゆる可能性を模索していき、常に変わっていかないと意味がないと感じていて。世の中にさまざまなサービスが出てくるなかで、会社の方向性としても新しいサービスと向き合い、未来に向けて何をしていくべきかを考えるよう意識しているんです。

ーー世界に日本のカルチャーを輸出していくという背景があるなかで、今回プラットフォームにDecentralandを選んでいますが、その理由は?

鈴木:現在はDecentralandとThe Sandboxの2つがメジャーなブロックチェーンをベースとしたメタバース・プラットフォームですが、カルチャーやエンタメといったジャンルとの親和性が高いのがDecentralandでした。今後、The Sandboxにも進出しようと考えていますし、これから新しいプラットフォームも生まれてくると思うので、アンテナを張っていきたいと考えています。メタトーキョーはあくまで『ブランド』や『概念』のようなものにしていきたいですね。

MetaTokyo内のポップアップミュージアム「SPACE by MetaTokyo」で開催された『雑誌「FRUiTS」展』

ーーメタトーキョーは“文化都市”であること、が個人的にも興味深いです。clusterやVRChatなど、いろんなプラットフォームとそれに内包されたワールドがメタバース上に登場しているものの、ひとつひとつが点在してしまっているのが課題だと思っていて、カルチャーの発信地になる大きな集合体としての都市にどのような可能性を持っていますか。

鈴木:まだまだVRやメタバース上での取り組みって、イベントドリブンで終わってしまうのが現状だと思っています。「イベントに行って楽しかった」「楽しいイベントを企画・運営できた」という一時的な行程、フローで消費されている側面が強いんですね。今後は、ストック(蓄積)としてのメタバースの取り組みやあり方が求められてくるでしょう。例えとして言っているのが、YouTubeが日本に上陸したときに、それに対抗する動画プラットフォームを作るプレイヤーも結構いたと思うんですが、結果としてはYouTubeにアカウントを作って動画を投稿し続けたHIKAKINさんが有名になっていった。そのようなストックの場所を作ることが、カルチャーやビジネスを世界に向けて発信していくためにはとても重要だと考えています。

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