特集「Web3によって変化するエンターテインメント」(Vol.2)
VTuber黎明期のキーパーソン・ミソシタが“メタバース”に注力する理由 「ひとりでも勝てるチャンスがあるというのが面白い」
ブロックチェーン、NFT、DAOなど、「非中央集権型のインターネット」を生み出すための技術を取り巻く概念「Web3」。この「Web3」がエンタメに与える影響や、その活用方法について考えていく特集「Web3によって変化するエンターテインメント」。
同特集の第二弾となる本記事には、バーチャルYouTuberとして活動をスタートさせ、同形態の活動者として初めてメジャーレーベルからアルバムをリリースしたMISOSHITA(以下、ミソシタ)が登場。VTuberのムーブメント前夜から参入し、数年前から“Metaverser”を自称してメタバースをベースに活動するなど、ミソシタが鋭い感覚で最先端のインターネットカルチャーに身を投じ続ける理由を聞いた。(編集部)
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■MISOSHITA(ミソシタ)
Metaverser/VR Creator /NFTart
存在が既にメタバースであり、また彼の作りだす作品もメタバースだ。
POEMCOREの提唱者でもあり、2018年にVtuberとして初めてメジャーデビューアルバムを発表。近年はMetaTokyoのCMVO(最高メタバース責任者)に就任。
バーチャル空間を創るクリエイターに光が当たっていない
ーーミソシタさんは元々、音楽系のVTuberとして2018年に突如シーンに登場し、その後は音楽以外の活動にも幅を広げていったと思うのですが、まずはその背景について教えてください。
ミソシタ:VTuberをやり始めたころから、バーチャルという概念に興味を持っていました。その概念を突き詰めていくうちに、VTuberはある種タレントというかスターのような存在として日の目を浴びているのに対し、バーチャル空間を創っているクリエイターには焦点が当たっていないことに気づいたんです。私は割と全部自分で作っているタイプだったので、タレント的な面だけではなく、クリエイター的な面ももっとフィーチャーしていきたい。そんな思いを抱いていたんですね。また、VTuberはゲーム実況だったりを2Dで配信するのが主流でしたが、だんだんとメタバース的なアプローチでの配信が注目されるようになり、これこそバーチャルの本質なのではと思い始めたんです。フォートナイトでのバーチャルライブがバズったように、確実にメタバースは伸びていくと実感していたので、自分の活動における方向性も改めて考えるようになりました。
ーー『Fortnite(フォートナイト)』では、トラヴィス・スコットが出演したバーチャル・ワールドでのエンタメ(『Astronomical』)が大きな反響を呼びました。そんななか、ミソシタさんは2020年5月に「XR CHAOS RAVE Type - Red Angel」、「XR ALICE RAVE Type - CRAZY POP」、「XR METAL RAVE Type - CHAOS BOX」の3つのワールドをcluster内に制作しています。時期的には新型コロナウイルスの感染拡大が始まったタイミングでもありましたが、どのような経緯があったのでしょうか?
ミソシタ:ちょうどこの時期は、clusterでワールドを容易にアップロードできるようになった頃で、clusterが盛り上がっていたんです。その流れに乗る形で、自分も3つのワールドを作りました。ワールド自体は自身のPVで制作していたので特に違和感もなく取り組むことができましたね。単純にclusterが使えるようになったタイミングで試しに作ってみたという感じです。
ーー「クリエイターに光が当たっていない」というお話の中で、ミソシタさん自身がその問題を背負って自ら開拓していこうという気概があったのですか?
ミソシタ:クリエイターと同時に、バーチャルの世界に入ってくるさまざまな職業を持った一般のユーザーも分け隔てなく参加できるようにしたいと思っていました。バーチャルの世界を広げていくことを見据えたとき、別に“バーチャルのカリスマ”のような、スターやアクターだけが多くいなくてもいいのではと感じていたんです。バーチャル空間でビジネスをやる人がいてもいいわけですし。そのなかでも、自分はクリエイター的なアプローチがしやすかったことから、「クリエイターにフォーカスされるような活動をしたい」と考えるようになりました。
ーーミソシタさんにとって、いまのメタバースが指し示す概念や可能性について、どのように捉えているのでしょうか。
ミソシタ:「バーチャル・ワールド」と呼んでいたものが「メタバース」という言葉に変わり、いまではそれが“バズワード”になっているわけですが、現時点では仮想通貨などと合わせて語られるビジネスワードとしての側面が強い印象です。逆にVRChatやclusterのようなVR SNSの世界とは相性が悪いと感じていて、一番の違いはマネタイズへの期待があるか否かだと思います。
自分の中で一番の問題意識としては、「clusterにワールドを作ったとしてもマネタイズは難しい」ということでした。自分自身としては結構面白いものができたと思いましたが、これで収益化できないのは悔しいなと。そう思うところも同時にありました。いわば、自分の作品をcluster内に自由に創った感覚だったんです。他方、VTuberとしての活動もしていたので、そちらでは投げ銭などでお金を稼ぐ手段があることも知っていました。こうしたなか、やはりclusterで作ったクリエイターとしての作品がマネタイズできないのは残念だなと思っていたこともあり、NFTやメタバースが持つマネタイズ性やビジネスとしてのスケール感にすごい興味を持つようになりました。
コロナ禍でバーチャル空間が「第二のリアル」へと変わった
ーークリエイターとしての側面を持ちつつ、メタバースの世界で経済圏を作るためにNFTやクリプトアートに着目されたと思うのですが、2021年3月以降にYouTubeで「Dancing Metaverse」という番組をスタートされました。根底に「クリエイターに光をあてる」という思いがあるなかで、制作に労力のかかる番組という形で発信しようと思ったのはなぜですか。
ミソシタ:一見大変そうに見えるかもしれませんが、配信や動画の制作はVTuberではあれば日常的にやっていることなので、そのモデルに当てはめて番組を作ってみたという感じですね。NFTや暗号通貨に精通した人たちの間では、その当時Clubhouseが流行っていて、クローズドな場で盛んに情報交換していました。この情報が閉ざされたものになってしまうのはもったいないなと思い、まずはVTuberの姿で番組形式での発信を行い、残していくことができれば面白いんじゃないかと考えたんです。いまは止まってしまっていますが、番組のサムネイルをOpenSeaで販売し、番組をやったという記録をブロックチェーンで刻んでいくことにも取り組んでいました。こうした表現や創作など、何かを残していくということもブロックチェーンと親和性が高いと感じていますね。
ーークリエイターでありながらプレイヤーでもあるということは、すごく貴重だなと思っています。ミソシタさんは、VTuberというタレントとしての振る舞いやクリエイティブを生み出す力、そしてビジネスを構築していくスキルなどをすべて備えていて、そういう人は稀有な存在だなと感じました。
ミソシタ:とはいえ、ビジネスは全然できていないかもです(笑)。会社員時代はデザイナーをやっていまして、ときにビジネスサイドの仕事にも挑戦したんですが難しかった。これは自分に向いてないなと思いましたね。そういう意味でも、自分はクリエイター気質というか、作る方が合っていると感じています。また、アクターとして表に出ることもあまり得意に思っていないので、いまはクリエイターとして何かを作ることが大きなウェイトを占めています。
ーー改めてにはなりますが、現実世界ではないバーチャルの世界で、もうひとつの自分の姿を創造して表現していくことに惹かれたポイントはどこにあるのでしょうか。
ミソシタ:2018年にVTuberを始めたときは「ここじゃない、どこか」みたいな、常に逃げ場所だったり新しいブルーオーシャンを探したりしていました。現状がうまくいかないなかで、「何か理想的なものがあるんじゃないか」というものを追い求めていたとも言えます。リアルでうまくいっていない人のエスケープ先として「ここなら自由なんだ」と描かれる先にあるのがバーチャルだと思われていたのが当時でした。しかし、コロナ禍に突入したことで、自分含めて全く違う受け止め方をするようになった。それはユートピア(理想郷)という概念ではなく、「第二のリアル」という捉え方をするようになったということ。
たまにリアルな姿で界隈の人たちと会ったりしても、SNSやバーチャルの世界での主人格であるアイコンやアバターと一致しないがゆえの面白さや会ってみての楽しさなど、かなりエンタメ感があるなと思っています。最近ではメタバースで稼ぐということも注目されてきており、バーチャルとリアルが逆転しているかのようにも感じていますね。
ーー「Dancing Metaverse」を通じて、いろんなクリエイターさんの話を聞くなかで、気づいたことや得た経験値は何ですか。
ミソシタ:一番は番組に出演してくれたクリエイターと知り合うことができ、自分自身の学びにもなることです。また、番組をやっていれば、気になるアーティストにも声をかけやすいですし、出会いも作りやすい。Web3で大切なのはコミュニティと言われており、Dancing MetaverseのDiscordでも雑談したり気軽に交流したりできているので、番組を通じてクリエイター界隈のコミュニティを築けているのが良かったと思っています。