『Apex Legends』新シーズン「デファイアンス」にみられた試行錯誤 開発者とユーザーの幸福な関係性は続くのか?
2019年2月4日の華々しいローンチを経て、先日ついに3周年を迎えたRespawn Entertainment開発の『Apex Legends』。バトルロイヤル・シューターの流行の真っ只中、突如としてシーンに登場した同作は『Call of Duty : Warzone』や『Fortnite』といった強力な競合勢としのぎを削りながら、いまやすっかりFPSの代表的なタイトルへと成長を遂げている。
とはいえ、ローンチから3年ともなると、いくら当時は新進気鋭の存在だったとしても、すっかり「定番の作品」として扱われがちだ。すでに同作は、ライブサービス型の人気ゲームにおける宿命となる「いかに既存のプレイヤーを保ちつつ、新規プレイヤーを取り込んでいくか」という終わりのない戦いへと足を踏み入れ、試行錯誤を続けている。それを(良くも悪くも)証明するように、新たなシーズンを迎える度に武器やレジェンドの調整、マップの改変などを巡ってコミュニティ上では賛否両論の嵐が巻き起こるが、それはあくまで既存プレイヤーにとってのプレイフィールを改善するための取り組みであり、そういった調整自体は開発者側にとってのある種の義務であると言えるだろう。だが、それだけではゲームを長く生かし続けるための原動力としては不十分かもしれない。
3周年というタイミングと共に突入した『Apex Legends』のシーズン12「デファイアンス」は、まさに、根幹となるゲームプレイ“以外”の部分で、作品を長く生かし続けるための試行錯誤があらわれたシーズンとなっている。
数十名以上ものキャラクター達が描く、複雑かつ壮大な『Apex Legends』の物語
2020年5月に実施されたシーズン5「運命の行く末」において、既存の人物と関わりのある新レジェンド・ローバの登場と、ゲーム内読み物コンテンツの導入、ゲームプレイ中におけるレジェンド同士のセリフの掛け合い等を実装したころから、『Apex Legends』は単なる様々なキャラクターを選択出来るシューターではなく、そのキャラクターたちが織りなす物語を描く長編コンテンツとしての側面を持つようになっていった。ゲーム内の要素に加えて映像トレーラーや公式SNSに投稿されるコミックなどのコンテンツ、さらには書籍などを通して描かれる、総勢20名のレジェンド達が主役として活躍する本作の物語は、もはや簡単にまとめるのは不可能なほどに壮大かつ複雑化しており、多くのプレイヤーが日々、考察を重ねているという状況にある。Redditでは本作の物語のみに特化したコミュニティであるr/ApexLoreに約5万人ものメンバーが集まり、YouTubeではだんたい/団体氏(https://twitter.com/sonchodice)などを筆頭に、ストーリーの解説をするクリエイターが高い人気を獲得しているほどだ。
シーズンごとに新たに描かれるストーリーは、これまでに描かれてきたものを前提としているため、少しのあいだゲームを離れていると、いつの間にか大きな変化が起きていて驚かされることも珍しくない。また、しばらく前に撒かれた伏線が長い時を経て回収されることも多く、物語を追いかけるためにもゲームから完全に離れることはできない。
今回のシーズンで追加された新レジェンドであるマッドマギーもまた、そんな今の『Apex Legends』のストーリーテリングの在り方を象徴する人物の一人である。彼女が本作に初めて登場したのは、いまからちょうど1年前に実施されたシーズン8「メイヘム」で、当時の時点でシーズントレーラーやゲーム内イベントを通して、彼女の存在が大きくフィーチャーされていたのである。同シーズンのゲーム内コミックでは死亡したと思わしき展開まで描かれていたため、当時から追っているプレイヤーであれば、約1年越しとなる彼女の参戦を懐かしさと驚きでもって迎えたことだろう。
また、物語を織りなすのはもはやレジェンドたちだけではない。今回のシーズンの物語では、もう一人の重要人物として、以前から活躍しているレジェンドであるオクタンの実父であるエドゥアルド・シルバが暗躍する姿が描かれている。この人物とオクタンを巡る物語についてもシーズントレーラーやゲーム内コンテンツで描かれており、こちらの展開もまた、プレイヤーの関心を惹きつけている真っ只中だ。
ここまで壮大かつ複雑化するのは、結果として間口を狭めることに繋がるのでは、と危惧する意見もあるかもしれないが、実際のゲームではこれらの要素はあくまでエッセンスとして扱われるに留まっているため、新規プレイヤーは「なにか物語があるのかな」と思う程度であろう。一方で、少しでもそこに関心を抱けば、その先には壮大な物語が待っており、個性的なレジェンドたちの魅力や、レジェンド同士の関係性の変化、そして予想を超える展開を前に、もはや抜け出すことはできなくなる。(さすがに向こうの方がはるかに壮大で大規模ではあるが)マーベル・シネマティック・ユニバースのような楽しみ方を『Apex Legends』は提供しているのだ。
「バトルロイヤル」のジレンマを解消するための新モード「コントロール」
一方で、いまの『Apex Legends』は作品の代名詞とも言える「バトルロイヤル」というゲームの根幹に対しても、異なるアプローチを試みている。
いまやすっかり定着した「バトルロイヤル」というルールだが、その流行の背景について考える上で、同時期に成長した配信文化の存在を避けて語ることはできないだろう。数十人ものプレイヤーが一つのマップに降り立って生き残りをかけて戦うこのシステムは、視聴者にとっても展開が極めて分かりやすく、ストリーマーやほかの視聴者と一緒になって、いつ負けるか分からない緊張感を共有しながら楽しむことができる。一方で、かつてのシューターにおいて主流だったチームデスマッチのように何度倒されても復活してゲームを再開できるルールの場合、展開が分かりづらく、緊張感も失われるため、バトルロイヤルと比較した際に、どうしても薄い印象を与えてしまう(もちろん、例外は数多く存在する)。
だが、実際にプレイする場合、この緊張感は初心者にとっての「敷居の高さ」へと姿を変える。右も左も分からぬままでマップに放り出され、十数分間ほど訳も分からないまま動き回り、いざほかのプレイヤーに出くわすと数秒程度で負け、メニュー画面へと戻される。そんなゲームを何度も繰り返すことが、本人にとって楽しいはずがない。きっとすぐに「面白くない」と判断してゲームを削除してしまうことだろう。特に『Apex Legends』はローンチから3年が経過しているゲームであり、プレイヤーの大部分は数カ月以上は本作を遊んでいるであろう経験者だ。年月が経つほどに初心者にとってのハードルは上がっていく。2021年5月のシーズン9では新モードとして「アリーナ」が登場したが、こちらはバトルロイヤル以上に競技性の高いモードであるため、やはり初心者向きとは言えない。
今回のシーズンにおける期間限定の新モード『コントロール』の導入は、そんな「配信映えはするが、初心者が楽しめるわけではない」というバトルロイヤルのジレンマを解消する期待を感じさせる取り組みであった。このモードでは、9人組のチーム同士でマップ上に設けられたゾーンをいかに長く確保することができたのかを競い合うのだが、大きな特徴として、バトルロイヤルとは異なり、敵に倒されたとしても数秒程度で再びマップへと戻ってくることができる。撃ち負けることに対してプレッシャーを感じることなく、気軽にゲームを楽しめるというわけだ。
実際にプレイしてみると、元々の本作の魅力である動きのスムーズさや、レジェンドたちのセリフの応酬も相まって、非常にカジュアルに撃ち合いを楽しむことができた。本モード実装後、配信プラットフォームでは引き続きバトルロイヤルがメインの人気を博していたようだが、実際のプレイヤーからの評判は非常に高かったようで、RedditやSNSなどのコミュニティでは今回のモードが期間限定であることを惜しむ声が数多く寄せられている。一方で、同モードには途中退出したプレイヤーを補完するシステムが搭載されていないなどの不満点も少なからず寄せられていたため、今回のフィードバックを受けてブラッシュアップされた同モードの帰還に期待したいところだ。『Call of Duty』や『Battlefield』といった老舗のフランチャイズの新作がいずれも低調な結果となってしまったいま、本作が初心者にとって間口の広いタイトルであることは、シューター自体の人気を維持するうえでも極めて重要なのである。