ポケモンに“新鮮さ”を取り戻した『ポケモンレジェンズ アルセウス』 “異世界転移もの”だからこそ描けた、シリーズの原初的な魅力

ポケモンに“新鮮さ”を取り戻した『ポケモンレジェンズ』

 1月28日に発売された 『ポケットモンスター』シリーズ最新作『Pokémon LEGENDS アルセウス』。シリーズ初となるアクションRPGということもあって、発売前から話題を呼び、リリース後は発売初週に全世界で650万本を販売し、Nintendo Switchで販売された『ポケモン』シリーズの最速・最多記録を更新した。

 そんな本作は、ポケモンの捕獲をゲームの中心にすえた「原点回帰」的な作品であり、オープンワールドとまではいかないものの、広大なフィールドを舞台としたこれまでにない「挑戦的な」作品となっている。

 本稿では、そんな本作の魅力について、より深く考察していく。

「異世界もの」がもたらす逆転現象

 『Pokémon LEGENDS アルセウス』は、言ってしまえばある種の「異世界転移モノ」だ。

 本作は未来からやってきた主人公(=プレイヤー)が、まだ開拓されていないヒスイ地方(過去のシンオウ地方)で冒険を繰り広げる物語である。

 この土地では、ポケモンはまだ未知の、恐ろしい生き物として扱われており、未来からやってきた主人公は、ポケモンを怖がらず、かつ開発されたばかりのモンスターボールの扱いもうまいという、希少な人材として扱われる。とはいえ、それ以外には特殊なパワーを持っておらず、プレイヤーに近い存在として描写される。

 主人公が手にする「アルセウスフォン」も、チートアイテムというにはほど遠く、ちょっと便利なナビアイテム程度のもので、未来技術を用いて異世界で無双するような展開は期待できない。それどころか、作中でポケモンは危険な存在として何度も言及されるし、実際主人公に直接襲い掛かってくる。

 こんな風に、「かがくのちからってすげー」と叫ぶよりは、「自然の力ってやべぇ」と漏らしたくなるような世界を舞台に、プレイヤーは「すべてのポケモンに出会う」ことを目指し、ポケモン図鑑の完成を目指す。過去作と異なり、各地のジムを巡ってバッチを集めたり、チャンピオンを目指してライバルと争ったりすることはない。本作の中心にあるのは、ポケモンを捕獲することだ。

 本作がこれまでのポケモンシリーズと大きく異なる点は、ポケモンという存在がまだ未知で、「怖い」とされている世界を、知識を持ったプレイヤーが冒険することだ。『ポケットモンスター 赤・緑』から『ソード・シールド』までの作品の世界では、すでにある程度はポケモンのことが知られており、だからこそポケモンセンターといった施設が存在し、ジムやポケモンリーグといった制度があるなど、ポケモンが社会の中に組み込まれている。この「異世界転移」がもたらす逆転現象が、本作の魅力に繋がっているのである。

昆虫採集から着想を経てはじまった『ポケモン』の歴史

 本作の特徴を解説する前に、過去作と筆者の話を少ししよう。すでにご存じの方も多いと思うが、元々『ポケットモンスター赤・緑』は、制作者の昆虫採集の経験から着想を得て開発されており、ポケモンを見つけたり、捕獲したりすることを軸にしていた。

 筆者が初めてプレイしたゲームは『ポケットモンスター緑』で、まさにポケモン直撃世代(1990年生まれ)。実際、当時の筆者はケンタロスのような珍しいポケモンを捕まえることに夢中で、まだ未知の存在だったポケモンというデジタルな生き物と出会い、ゲットすることに楽しみを見出していたと記憶している。

 もちろん、レアポケモンをゲットする以外にもやり込み要素はあった。友達と通信ケーブルを介してポケモンバトルをしたこともあったし、いわゆる「バグわざ」でゲームを壊し、それを見せあうという、いまとなっては考えられないような遊び方もしていたのは間違いない。しかし、やはり初めて見るポケモンが草むらから飛び出してきたことに対する驚きと喜びが、最も強く印象に残っている。

対戦がメインになっていった近作の『ポケモン』

『ポケットモンスター ソード・シールド』より
『ポケットモンスター ソード・シールド』より

 その後、ポケモンの歴史が長くなると共に、その「やり込み」は対戦がメインになっていく。『バトルレボリューション』でオンライン対戦が解禁されたり、『ブラック・ホワイト』でレートシステムが登場して以降は、さらにその傾向が強くなっていった。それに合わせるような形で、ゲームの追加要素や各種表現も、ポケモンバトルを考慮したものが増えていった。

 たとえば『ソード・シールド』の場合、「ダイマックス」のような新要素は、バトルに大きな影響をもたらすために実装されたような印象を受けるし、その物語は、ポケモンバトルがスポーツとして人気を博している様子が描写され、従来のものよりもトレーナーとのポケモンバトルを中心にすえたものとなった。

『New ポケモンスナップ』より
『New ポケモンスナップ』より

 その結果、それ以外のポケモンの捕獲や観察、交流などは小規模な表現に収まり、それらをメインにすえたタイトルは、『Pokémon GO』や『ポケモンスナップ』といったスピンオフタイトルのほうに譲る形となった。

スポーツ的になっていく『ポケモン』に覚えた寂しさ

 初めて見たときはその存在に驚かされた昆虫を、繰り返し捕まえて理解していくほど、それが「わくわくする」対象ではなくなっていくという経験をしたことがあるだろうか? 友人と戦わせるために、強い昆虫の特徴を考え、それを有したカブトムシやクワガタ、カマキリなどを探しに行ったことは?

 そう、ポケモンも、歴史を重ねていくことで同じ道を歩んだのだ。ポケモンは未知の存在ではなくなっていってしまい、新作で新ポケモンが登場しても、「赤・緑」当時のような「こんなポケモンがいるんだ」という驚きよりも、「このポケモンは強いのか、弱いのか」といった、対戦準拠の疑問や感想を抱くようになったという人は、筆者だけではないだろう。

『Pokémon HOME』より
『Pokémon HOME』より

 結果、ポケモンのやり込みは個体値や努力値を計算して行うマニアックなものになり、知的なスポーツとしての面白さを獲得していった。ポケモンが既知の存在になった結果、ポケモンバトルはスポーツ的なカジュアルさを獲得し、彼らの全てが未知だった、当時の感動を取り戻すことは難しくなったのだ。もちろん、こうした傾向を否定するつもりはないし、必然とすら思うのだが、少しノスタルジックな寂しさも感じてしまう。

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