連載「multi perspective for metaverse」第一回ゲスト:0b4k3
DJ RIOと0b4k3が語り合う、メタバースにおける“場所とコミュニティ”のつくり方
「ホストがいない場所は盛り上がらない」
――第0回の中で「REALITYはコミュニケーションの部分がまだ不十分である」と、DJ RIOさんは語られていますが、お二人はコミュニティを構成するためには、どういう要素が必要不可欠と感じますか。
DJ RIO:これに関しては、まさにGHOSTCLUBの体験をもとに、REALITYの設計思想に落とし込んでいるものがあるんです。それは「ホストがいない場所は盛り上がらない」ということで。
当時のVRChatにはもうすでにクラブが沢山あったんですけど、ハコを作って置いてあるだけで、運営されてないときに足を踏み入れることができてしまうところがほとんどで。建築的に面白いものは沢山あったものの、「クラブをVR上で作ろうぜ」というテクノロジー論が先行していて、コミュニティとして成り立っているところは少なかった。
一方、GHOSTCLUBはちゃんとオーガナイザーがいて、そのオーガナイザーが人を選び、音楽を選び、イベントを主催し、逆にその時しか存在しない世界なんです。REALITYでも、ライブ配信やコミュニケーション、3D空間の機能であっても、「ホストがいない、あるいはホストが不明瞭の空間を絶対に作らない」というのを強く意識していて、誰もホストがいない状態に放り込まれることは絶対起きないようにしています。
0b4k3:先ほど言った「人が集まったら勝手にコミュニティができる」というのは、その前段として「人が集まるためのきっかけ」が必要だと思うんです。
DJ RIOさんのおっしゃるとおり、ホストの存在は重要だと思っていて、たとえばVRChatには色々な部屋(インスタンス、ワールド)があります。そこが自分で作ったハコではなかったとしても、毎日ある人がそこの部屋を開けて夜にはだいたいいつも居る、みたいな状態があれば、そこへ勝手に人が集まってきて、コミュニティが成立するんですよね。
当時のVRクラブの多くはハコが置いてあるだけだったというのは、確かにDJ RIOさんのおっしゃるとおりで、それに対するカウンターとしてイベントをちゃんとやるクラブを作ろうと思い立った部分も正直ありましたから。
DJ RIO:そもそも、なぜGHOSTCLUBを始めたんですか?
0b4k3:もともと音楽が好きで楽曲制作もしてきたんですけど、それをVRChatで生かせる形式がないかな、と2017年の12月くらいに考えてたんです。当時はバーチャルYouTuberの第1次ブームのタイミングで、その流れでVRChatの人気も一気に上がってきた時期でした。
同じころ、DJ SHARPNELさんという方が『M3(音系・メディアミックス同人即売会)』でVRゴーグルを使って「VRクラブ」という概念のデモをそのブームよりももっと前に展示していたことを知りました。あわせて「DJ SHARPNELさんがVRChatでクラブを作ろうとしてる」という情報もTwitterで流れてきました。
それを受けて、「VRChatにクラブを作るって、めちゃくちゃ面白そうだけど割と普通にできるのでは」と気づき、自分も始めてみようと思い立ちました。
だから当初は「コミュニティを作ろう」とか「イベントをちゃんとやろう」とか「何かに対するカウンターだ」という気持ちは全然なくて。とりあえず面白そうだからハコだけ作ってみよう、というくらいだったんですよね。
GHOSTCLUBが意識する露出や見え方のコントロール
――現在、GHOSTCLUBは世界中のユーザーやクリエイターから注目を集めていますが、DJ RIOさんから見て、どういった部分が物事を引き付ける重力を生んでいると思いますか?
DJ RIO:リアルのクラブがそうであるように「なんかイケてるイベントをやってるらしい。でも入りにくいらしい」みたいな口コミの効果もあるでしょうし、なによりクリエイティブディレクションがめっちゃいいじゃないですか。
その世界観の作り方から入場の仕方からビジュアル、ルールの作り方も含めてトータルプロデュースが素晴らしく良くできていて、そこで注目を集めているのかなと思います。とはいえ、これは完全にいちファンとしての僕の見立てなので、0b4k3さんに直接どういう風にやっているのかを伺いたいです。
0b4k3:僕としては探り探りやってるところが大きくて。やはり対人なので時流を読もうと思っても読めないですね。
傾向はある程度つかめるかもしれませんが、その傾向を狙ってなにかできるかというとまた違ってくるし、良いものを作り続けていればちゃんと評価されるかというとそういうわけでもない。正直僕も教えてほしいくらいではあるんです。
それでもGHOSTCLUBを3年やっているなかで、年によってVRChatの中にいる人たちの温度感の変化や外側から見られたときのVRChatに対する認識の違いは意識しています。最近だとメタバース的な界隈全体がその外部からどう見られているのか、その温度感に対応してGHOSTCLUBの露出のさせ方を変えています。
例えば2018年はクラブをやってるだけで注目されていたのですが、2019年になってから徐々にイベントを行うクラブも増えてきました。当時はいまよりひねくれていたので、あえてアングラに、たとえば入場方法をめちゃくちゃ窮屈にしたりとか、そういうことをやったんですよね。それによって色々問題もあったりはしたんですが、なんやかんやでそれは功を奏して、現在のコミュニティの基盤ができた年でした。
2020年は一番大変な時期でした。コロナの影響もあってVRクラブが一気に増えて、その存在感がかなり増したことで、コミュニティの雰囲気をコントロールするだけだと、なかなか突出する要素がなくなってきました。長く続けているアドバンテージはあったものの、せいぜい2年の話であって、100年の老舗というわけではないので、VR空間全体を使ったVRVJのようなことをやったり、色々な建物を短期間でめちゃくちゃ作ったり、とにかく何か普通のクラブとは違うことをした時期でした。幸いにもそれがうまくいって、「何かあそこはほかのクラブと違って変なことをやってるね」という評価になっていたのかなと。
2021年になってくると「VRクラブの中でも特別な存在だよね」と言われることが増えてきました。それまでアングラ感を高めるよう、メディアへの露出を控えていたんですが、たまたまKAI-YOUさんから対談の機会を頂いて「これを使わない手はないよな」と。あまりにアングラな状態だとコミュニティの幅が広がらない、今後生き残れないという危機感もありました。VRクラブが増えて、それぞれ運営の方式やイベント開催のやり方が段々とこなれてきた。それ自体はめちゃくちゃいいことなんですけど、そうするとGHOSTCLUBの特異性も失われていくなと。
なので面白いことをやり続けるだけでなく、同時に戦略としてメディアの力を借りることにしました。メディア以外にもサンリオさんのバーチャルフェスのように、前に出てVRChat内だけじゃなく、その外部にも存在感をアピールする。ほかにも色々やってることがあるんですが、露出や見え方をコントロールして、認知してもらうことを重点的にやっています。
DJ RIO:なるほど。いや、すごい。そうやって考えられてるんですね。
0b4k3:そうですね。なかなか競争率の高い世界なので、これくらいやらないと人が来ないかなと。
DJ RIO:今年に入ってメディアの取材をいくつか受けられていることにびっくりしたんですが、そういう理由だったんですね。
僕の勝手な認識ですが、カウンターカルチャーであることに強いこだわりを持ってこられたんだと思うし、なんならその……僕はいまですらGHOSTCLUBに行くことに後ろめたさというか、申し訳なさを感じてるんですよ。
個人の趣味嗜好としてはアングラ寄り、カウンターカルチャーへの憧れがあるんですが、仕事としてはマスに向けた商業的なことをやっているので、「ちょっと場違いだよな……」とか「こういう人に混ざって欲しくないかもしれないな……」と申し訳なく思いながら入ってるところがあるので、メディアに露出されたり『SANRIO Virtual Fes in Sanrio Puroland』に参加されているのにも驚きました。特にサンリオのフェスは、ブッキングした方もすごいし、それを受けて、申し訳程度にキティちゃんのポスターがあるだけの、もはやGHOSTCLUBままともいえるダークでアングラな世界をサンリオに提供したことが、すごくかっこいいなと思いました。