DJ RIOと0b4k3が語り合う、メタバースにおける“場所とコミュニティ”のつくり方

“メタバース×建築”の奥深さ

 毎回「メタバース×〇〇」をテーマに、様々なエンタメ・カルチャーに造詣の深い相手を招きながら、多面的な視点でメタバースに関する理解を深めていくDJ RIO氏の「multi perspective for metaverse」。

 初回の対談相手はVRChat内のクラブイベント・GHOSTCLUBを主宰する0b4k3(オバケ)氏。

 二人の対談から、GHOSTCLUBが育んできたコミュニティ、そしてメタバースにおけるクリエイターコミュニティ/エコノミーの在り方を探る。(ゆがみん)

野暮ったさが生む「メタバース」の使いやすさ

――近年の「メタバース」という単語の取り扱われ方については、以前から同じ領域で活動されていたお二人からすると、色んな感情があるように思えるのですが、どうでしょうか。

0b4k3:これまでVRやXRのような用語はありましたが、いずれもスマートすぎるというか。かっこいいけどよくわからない言葉でもあったのかなと。対して、メタバースには「キャッチーさ」があるし、若干のダサさはあるけど「最近マルチバースとかよく聞くし……」という人たちがもつ、世間の共通理解の中にヌルっと入り込める単語だよなと。だからこそ一気に広がって、なんだかんだ言いながらみんな使ってる。めちゃくちゃ使いやすい単語ができてよかったな、という印象ですね。

「GHOSTCLUB」(画像提供=0b4k3)
「GHOSTCLUB」(画像提供=0b4k3)

DJ RIO:「メタバース」はみんなにとって都合がいい言葉だったんですよ。

――最大公約数的な単語ができたことによって理解が進む反面、フワッとした理解のまま物事が進み続けることへの懸念はありませんか?

0b4k3:たとえば、VRChatに元々いた人たちからは「ザッカーバーグの考えるメタバースと俺の考えは違う」という声は聞こえてきます。

 気持ちはわからなくもないんですが、僕自身がVRChatに入ったタイミングでも、それ以前からのアーリーアダプターはいて、彼らが基盤を作ってくれたおかげで現在の状況がある。僕も彼らアーリーアダプターの中に入り込んでいった侵略者みたいなものですから、それが繰り返されていくだけだと思うんです。なので「メタバース」という言葉が広がって新たに参入した人たちに対して、僕らの側から何か文句を言う気にはならないし、そもそも言える立場ではないですよね。

 「それもまたメタバースだよね」という気持ちですし、むしろMeta社に関してはあそこまで巨額の投資をして「10年くらいかけてやります」という会社はなかったという意味で、僕は好意的に見ています。

 Meta社も、REALITYさんが今後作られていくであろうメタバースも、clusterも特性がバラバラだと思うので、コミュニティに入ってくる人間もイベントも全然違うはず。それぞれがいい感じにうまく殺し合うことなく、共存していけばいいなと。

DJ RIO:キャッチーな単語ができるとみんなが定義論争を始めますが、これが始まるのは良い傾向なんですよ。こと「メタバース」に関しては、色んな作品が提示してきた世界観が争いの種になっている気がします。『竜とそばかすの姫』も仮想空間は「U」1つだけですし、『サマーウォーズ』は「OZ」、『レディ・プレイヤー1』も「オアシス」だけなんですよね。それぞれの人々が想像するメタバースの姿が、そういった作品のイメージでかたどられているから、争いも起きるんじゃないかと。一方、現実には色々な国や地域があります。

 渋谷に住むのが好きな人もいれば、浅草に住む人が好きな人もいれば、北海道に住む人が好きな人もいる。いままで1つしかなかった町がたくさん増えると思えば、選択肢が増えて良いことかなと思ってます。

――SNSにたとえると、TwitterもFacebookもInstagramも使い分ける世界観というか。

DJ RIO:そうなんですよね、みんなそれぞれの居場所があるわけですから。

現実にいく必要のないメタバース内の経済圏

「GHOSTCLUB」(画像提供=0b4k3)
「GHOSTCLUB」(画像提供=0b4k3)

――DJ RIOさんはメタバースの構成要件として、「メタバース内で実経済としてお金を稼ぐことができるクリエイターエコノミー」を挙げています。対して0b4k3さんはVRChat内でお金を稼ぐことは考えていない、という発言を別のところでしていましたよね。

0b4k3:僕は「『GHOSTCLUB内では』お金を稼ぐことをしない」と言ってるだけなんですよ。実際、サンリオさんのフェス『SANRIO Virtual Fes in Sanrio Puroland』の「ALT 3(0b4k3が『SANRIO Virtual Fes in Sanrio Puroland』内に作ったGHOSTCLUBライクな空間)」もちゃんと予算をいただいていますから、それはもう、VRChatで稼いでるということですよね。

 僕はそこまで「中で稼ぐ」こと自体に関してはあまり否定的ではなくて。その中で経済が回るようになれば、自分の可処分時間をその中につぎ込むことができますから。

 中で稼ぐことができれば、現実でお金を稼がなくても良くなるかもしれない。そうするともっとコミュニティが大きくなるしお客さんも増えてくれる。クリエイター側もそれを元手にもっと面白いことを生み出していける側面があると思うんですよね。

 そういう意味で、VRChatにはまだ実装されてこそいないものの、サブスクリプション形式で対個人ユーザーに対して月額を支払う支援サービスを実装するというロードマップも公開されていたりします。VRChat全体ないし、僕みたいな人間がこういう場所で何かやっていくうえで、中で稼ぐ経済圏が生まれていくのはすごくいい流れなのではないかと考えています。まあ、自分の好きでやっている創作はそういう流れからは離れていたいという気持ちもあるんですが。

DJ RIO:REALITYは「なりたい自分で、生きていく。」というビジョンを掲げています。なりたい自分になれるサービスはいっぱいあるんですけど、なりたい自分で生きていく――つまり食べていけるサービスはそんなに多くない。

 REALITYは機能が少なかったリリース当初から、課金などの収益を得られる仕組みだけは入れていたんです。どんなに少額で最初は食べていけるほど稼げなかったとしても、お金が稼げるのと1円も稼げないのとはまったく違いますから。

 仕事がオンライン上で完結する人はすでに増えているし、これからも増え続けると思っています。必ずしもそのサービスの中だけでお金を稼ぐんじゃなくて、このサービスの中のポジションを生かして外のお金を稼ぐ――広義の意味で「経済が回っていく」というのは、長期的に社会にとってなくてはならない存在になるためには必要な要素かなと。

――お二人は、REALITYやVRChat内でのポジションを生かした活動一本で、いわゆる「飯が食えている」という状態の方をどれくらいご存知ですか?

DJ RIO:普通に食べていけてる人も結構な人数でいますよ。REALITYとしてユーザーさんに直接お支払いしている収益分配金は当然毎月チェックしています。少なくとも、「成人が何らか働いて稼ぎ一人暮らしをしている」くらいの金額を稼ぐ人は少なくありません。

0b4k3:VRChatでも、アバター販売や衣装販売だけで生計を立てている方は何人か知っています。VRChatでメジャーに使われるアバターはいくつかあって、そういうアバターを作ったら、それこそ一般的な働き方よりも稼げる可能性は全然あるんじゃないでしょうか。といっても、そのポジションになれる人間は一握りでしょうし、いつまでもそういう状態が続くとも限らない。単なる美味しい話かというと、そうでもない。まだまだ大変な世界だと思います。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる