意外とわかっていないテクノロジー用語解説
『メタバース』とは? 経済圏と身体性を拡張する未来へ
テクノロジーの世界で使われる言葉は日々変化するもの。近頃よく聞くようになった言葉や、すでに浸透しているけれど、意外とわかっていなかったりする言葉が、実はたくさんある。
本連載はこうした用語の解説記事だ。第2回は「メタバース」について。Facebookが社名を「Meta」に変えるほど注力する分野としても注目を集めるバズワードだが、これは一体何なのだろうか?
メタバースとは、一言で言えば「コンピュータ(ネットワーク)上に構築された3次元の仮想空間」のことだ。語源は1992年にSF作家のニール・スティーヴンスンが発表した『スノウ・クラッシュ』内に登場する仮想空間サービスの名称で、「超」や「変化」を意味する「Meta」と、「宇宙」「領域」を表す「Universe」を組み合わせた造語であり、主に英語圏で仮想空間を表す名称として使われることが多い。
こうした概念そのものは目新しいものではなく、これまでもSFの名作『ニューロマンサー』(1984年)で生まれた「サイバースペース」やその日本語訳である「電脳空間」、90年代のバーチャルブームで生まれた「バーチャル空間」といった呼称が多く使われてきた。それでも今メタバースという言葉が新たに注目されるのはなぜだろうか?
現在用いられているメタバースという言葉の意味を明確に定義するのは難しい。上述したようにメタバースという概念は目新しいものではなく、コンピュータ上の仮想空間もゲームなどではすでにお馴染みの概念だ。技術的にはVRゴーグルなどを使って、より没入感のあるスタイルで世界に入り込めるような仕組みが好まれているが、それはあくまでデバイスの違いであって、メタバースにとっての必須条件というわけではない。
ではなぜ、メタバースが重要視されているのだろうか。
一つの重要な要素が「経済活動」だ。例えばメタバースサービスの多くでは、仮想空間上の土地を購入してそこに建物を建てたり、仮想空間向けのアイテムを制作・販売することができる。これだけであれば一部のMMORPGなどでも可能だが、たとえばこうした取引を「NFT」を利用してで行うことで、仮想空間上のアイテムに現実世界のように「一品物」という希少価値を与えることができる。そして取引が暗号通貨によって行われることで、仮想空間での経済と現実世界の経済をリンクさせることが可能となる。
すでにメタバースサービス向けに、アバターに着せる衣装などがNFTとして販売され、現実世界で人気のスニーカーにプレミアムが付くように、付加価値を伴って取引されるようになっている。今後はリアルで買い物をするとメタバース内のアイテムに紐づけられる、といったことも起きるようになるだろう。
【参考記事】アディダス初のNFTが26億円で取引される 購入者は限定商品とメタバースへのアクセス権をゲット
また、もう一つの重要な要素として、メタバースにおけるコミュニケーションがある。アバターを介してであっても、メタバースで交流する相手は現実の人間だ。その実在性・身体性を強める要素として、VRゴーグルなどのデバイスが現在も進化を続けている。
また「バーチャル渋谷」のような、現実世界を基にした「都市連動型メタバース」が登場したのも目新しい要素と言えるだろう。例えば現実世界のある都市を歩いていると、ARグラスにメタバース側の都市でのイベントが表示される……といった具合に、現実世界の上に仮想世界を重ねることで、同じ場所を多層的に利用できるようになるような活用も考えられる。次元の壁を超えた、文字通り「メタバース」的な利用だ。
このように、現実と仮想空間を繋ぎ、その境界をあいまいな存在にできることにも、仮想空間の新しい活用方法として期待が集まる。
現在は技術的な限界もあり、メタバース空間はいかにもCG的なものであるが、たとえば感覚ごと投入するような、いわゆる「ダイブ」型のアクセスが可能になれば、メタバースは完全に現実世界の代替手段として利用されるようになるかもしれない。ある種の人口問題の解決策であったり、長期間の宇宙航行中の活動手段としてメタバースが利用できるようになる、といったことすら(現在ではまだSF的な夢物語ではあるが)想像できるだろう。
米Facebook社は2021年10月、同社が次のコンピューティングプラットフォームであるメタバースに注力していることを表すためとして、社名を「Meta Platform Inc.」(Meta)に変更した。メタバースには、IT業界のビッグ4の一角が社運を賭けるほどの可能性が秘められているのだ。