すべてが3D化する社会の新たな価値観とは? DJ RIOの考える「メタバースのいま」

DJ RIOの考える「メタバースのいま」

 Facebook社が「Meta」へと名前を変更したことも含め、ビジネス・テック界隈で大きなバズワードとなっている「メタバース」。理解度の濃淡はあれど、これまでのどんなタイミングよりも、現実と仮想空間について、人々の関心が最も高まっているタイミングだといえるだろう。

 そんななか、リアルサウンド テックでは、かねてからメタバース事業に注力しており、会社としても改めて100億円を投資した本格参入を発表したグリーの子会社「REALITY」のCEOであるDJ RIO氏による連載「multi perspective for metaverse」がスタートする。

 同連載では、毎回「メタバース×〇〇」をテーマに、様々なエンタメ・カルチャーに造詣の深い相手を招きながら、多面的な視点でメタバースに関する理解を深めていく。記念すべき初回は“第0回”として、DJ RIO氏の考える「メタバースのいま」について語ってもらった。

■DJ RIO
2005年、慶應義塾大学環境情報学部在籍時代に、複数のスタートアップの創業に参加。事業売却後に大学を卒業し、4人目の正社員としてグリー株式会社に入社。事業責任者兼エンジニアとして、モバイル版GREE、ソーシャルゲーム、スマートフォン向けGREE等の立ち上げを主導した後、2011年から北米事業の立ち上げ。2013年に日本に帰国し、グリー株式会社 取締役に就任する。2014年にゲームスタジオWright Flyer Studiosを立ち上げ(現WFS)代表取締役に就任。2018年にはWright Flyer Live Entertainment(現REALITY)を立ち上げ代表取締役社長に就任。2021年、REALITYを中心とした「メタバース事業」への参入を主導。

“身体性”を実現した『REALITY』は、今後クリエイター経済の形成にも注力

ーー昨今「メタバース」がバズワードとなっていますが、まずはDJ RIOさんにとって、またこの連載においての「メタバース」を定義していただけますか?

DJ RIO:オンライン上の社会や人間関係の比重が、物理空間を上回る世界を「メタバース」だと捉えています。いま、オンラインで過ごす時間や、そこで仕事を受けてお金を稼いでいる人が着実に増えています。そうなるとその人たちにとっては、物理空間より、オンライン上における自分と周囲の方が価値が高いわけです。価値の比重が物理空間を上回る、もしくは同等にある世界がメタバースだと思います。

 さらに重要なのは、物理的な現実は1つしかないけれども、仮想空間において自身は複数存在できるわけです。もちろん1つしか使わない人もいると思いますが、複数の現実を生きる人もいます。いずれにせよ、これまでは1つの現実空間における”自分”と”社会”しかなかったところに、アバターを複数所持したり、オンライン空間A、B、Cにそれぞれ所属したり、というように選択肢が増えている。そしてそれぞれの空間は干渉することなく併存しています。そういう時代が「メタバース」だと考えています。

ーー現実世界のように1つの場所ではなく、複数存在する空間でユーザーは自分のアイデンティティを使い分けながら生活していく。その空間こそがメタバースだということですね。

DJ RIO:そうです。これまでもオンライン上での生活やアイデンティティはあったわけですが、現在こんなに注目されているのには2つの理由があります。1つは、いままでオンラインにほとんどなかった“身体性”が出てきたことですね。モーションキャプチャーテクノロジーの発展や、端末性能の向上によって、誰もがアバターを3D空間で動かすことができるようになりました。従来は静止画のアイコンとニックネームで人を判別していたわけですが、これが動く3Dモデルになることは、単に情報量が増えただけではありつつも、その増加が一定の閾値を超えると身体性が宿って、人としての実在を感じることができるんです。これがまず大きな変化ですね。

 もう1つは、コロナ禍の影響もあり、ゲームやビデオチャット、Zoomなど、オンライン空間で人と繋がっている時間が増えたことです。その空間に自分の生活があって、そこでの自分の見た目を整えたいと思う人が増えたため、人々が自分のオンライン上での存在をリアルに感じられるようになったことが大きいと思います。

ーーそういう意味でコロナ禍に突入した2020年は、シンギュラリティ(技術的特異点)だといえるタイミングだったのでしょうか?

DJ RIO:そうだと思います。もともと長期的傾向としてはコロナの前からずっと成長し続けていた領域ですが、このタイミングで一気にプレイヤーが増加しました。くわえてオンラインの世界で過ごす比重が上がって、みんなの意識を変えるレベルまで来たのがこの1年だったかなと思います。

ーーDJ RIOさんが『REALITY(リアリティ)』を立ち上げるにあたって、身体性を帯びたメタバースである『VRChat』から受けた影響は大きいのでしょうか?

DJ RIO:大きいですね。身体性を持ち込むことがこんなに大きな変化をもたらすんだと感じました。『VRChat』が実行している“人類の次の時代の当たり前”を再解釈し、高価なPCやVR機器がなくてもスマホ一台で体験できるよう再構築するのが、『REALITY』のコンセプトの1つです。だから影響はすごく受けています。

 もちろん『REALITY』はスマホ向けで小さな画面上で展開されるものだから、『VRChat』ほどの没入感は得られにくいですが、モーションキャプチャーのアバターをフル活用してギミックを細かく作用させることによって、小さい画面でもアバター同士の身体性を伴うコミュニケーションを実現させていますから、なんとか『VRChat』の衝撃体験をみんなに味わってほしいですね。

ーー『REALITY』の初期の構想と現在の状況にギャップはありますか? それとも当初の想定通りでしょうか。

DJ RIO:当初思っていた以上に海外ユーザーの比率が伸びていて、『REALITY』が世界中で使われるサービスになっていることは、予想とは違った嬉しい驚きですね。それと『VRChat』で行われているコミュニケーションや身体性を、スマホで誰でもカジュアルに体験できるようになったのは計画通りです。ただ一方で『VRChat』のもう1つの役割である、クリエイターたちが活躍できる場所を作ることにはまだ取り組めていません。身体性のあるコミュニケーションを優先してやってきたので、その領域はまだまだこれからです。

ーー今年発表されたメタバース事業へのさらなる投資は、まさにそこを強化していく決意表明でもありますよね。そういう意味で今後 『REALITY』は、入り口の参加しやすさは残しつつ、『VRChat』のように無限の拡張性や、UGC(ユーザー生成コンテンツ) で広がっていくようなサービスを目指していくのでしょうか?

DJ RIO:まさにそのとおりで、入り口の敷居の低さは重視している点なので、変えるつもりはありません。そこにもう少しUGCの要素を強めていくのが今後の方針ですね。コミュニケーション部分もまだまだ不十分なところはあるので、それも強化していきます。

ーーコミュニケーション部分においての課題とは、どういうものですか?

DJ RIO:みんなが毎日使ってくれるサービスになるには、まだ力不足です。いまのところライブ配信がメイン機能として利用されていて、それ以外の使われ方はまだ弱いです。本当はSNSの基本的な機能も備えているんですが、ライブ配信以外でも利用してもらって、ユーザーが日常的に過ごせる場所を目指したいです。

ーー手が空いたらつい触ってしまうような、SNS的なプラットフォームですね。

DJ RIO:特定の用途のためにしか使わない場所って、「もう1つの世界」と言うには少し弱いと思っています。友達とのコミュニケーションや、ゲーム、もしくはお金を稼ぐ活動といった複合的な使い方をする人が増えてこそ、滞在する理由ができるし、滞在時間も延びる。「もう1つの世界」としてユーザーにとって存在価値が高い状態にする必要があります。

ーー海外のビッグテック企業も、基本的にサービスの中にすべての機能を詰め込んで、その中に小さな社会を形成していますから、たしかに理にかなったメタバース構成ですね。いまメタバースがいろんな領域から注目を浴びる中で、DJ RIOさんから見て、この分野と好相性となるであろう領域や技術、サービスにはどんなものがありますか?

DJ RIO:やはりゲームは相性がいいですよね。「メタバース=ゲーム」と思う方も多いようですが、いまはゲームとゲームじゃないものの境目がなくなってきています。そういう意味で言うと、『REALITY』という世界の中で他のユーザーと過ごしたり遊んだりするときの遊び場はおそらくゲームになるので、オンラインゲーム関連の技術や事例には注目しています。

 もう1つ、「クリエイターエコノミー」と僕らは呼んでいるんですが、サービスの中で単に運営側が用意したものをユーザーが買ったり遊んだりする一方通行の関係ではなく、ユーザーが自分でものやサービスを生み出し、それに対して他のユーザーが価値を感じてお金を払うような経済活動が生まれて回っていく、クリエイターがお金を稼げる場所を作り上げたいと思っていて、それに関する事例もチェックしています。

 あとはCrypto関連ですか。デジタルデータが資産性を持ち、それをお金で売買できるサービスが急速に発生してきていて、これは非常に相性が良いものだと思っています。ブロックチェーンのNFTとそのトークンを使った、金融サービスとゲームが合体したようなサービスの構想は最近よく耳にするので、積極的にコンセプトを取り入れていきたいです。

 最後にハードウェアに関していうと、VR・ARの技術が着々と進化して普及してきていますので、ここの対応もやらないといけないです。僕も含めて社内には VR版・AR版『REALITY』を作りたいと思っている人が多いので、いずれ作ると思います。とはいえ、やるからにはちゃんと多くのユーザーに利用されるものにしたいから、いまは適切なタイミングを見計っているところです。

ーーVR版・AR版、すごく楽しみです。いま話していた領域もふまえて、今後メタバース時代に評価される人材や、新たに生まれる職業にはどういうものがあると思いますか?

DJ RIO:これまでと変わらず、エンジニアやプロダクトマネージャー、デザイナーは、当然今後も価値が上がり続けると思います。さらにメタバース時代では、3D周りができる人材が特に需要があると思います。いままでのインターネットは、ウェブサイトもアプリもすべて平面のデザインでしたが、VRやARの一人称視点の体験では3D化していく流れにあります。空間も、そこにおけるアバターも、ユーザーインタラクションも3Dになっていくし、そうなるとそこにおけるバーチャルイベントやお店、商品を見せる場所もすべて3Dで作らないといけない。だから3Dアーティストや、3Dで空間設計できる人、建築デザインができる人は、非常に評価が上がっていくのではないでしょうか。

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