Awesome City Club・モリシーが語る『microKORG2』の懐かしさと新しさ 「音楽の歴史に組み込まれている音」

ACCモリシーが語る『microKORG2』の良さ

 2002年に発売され、世界的大ヒットを記録した小型シンセサイザー『microKORG』が、デビューから22年の時を経て新たに『microKORG2』として生まれ変わった。

 見た目や大きさは名機『microKORG』のDNAをしっかりと引き継いだうえで、さまざまな操作が一目でわかるカラーディスプレイを搭載。ボーカル・プロセッサーやループ・レコーダーの搭載、従来の8種類の音楽ジャンル選択にさらにそれぞれの時代が選べる「クラシック」「モダン」「フューチャー」が追加されたサウンド・バンクなど、新たなエッセンスをしっかりと取り入れている。

 そこでリアルサウンドテックでは、『microKORG』を愛してやまないミュージシャンにインタビューを行う企画を実施。今回はAwesome City Clubのギタリストとして活躍するモリシーにインタビュー。コンポーザー、エンジニアとしての顔も持ち合わせる彼のキャリアは、意外にも鍵盤楽器からスタートしていた。そんなモリシーが語る『microKORG』との出会いやAwesome City Clubの様々な楽曲で活躍していた『microKORG』の使用秘話、さらに『microKORG2』の魅力について、存分に語ってもらった。

 なお、取材はモリシーが下高井戸で経営するカフェ『MORISHIMA COFFEE STAND』にて実施。移転して数ヶ月とは思えないほど地元の方に愛されている店の雰囲気とともに楽しく読んでほしい。(編集部)

初期ACCのリファレンスにもなった“尖った音”と『microKORG』の関連性

Awesome City Club・モリシー
Awesome City Club・モリシー

――まずはモリシーさんがギターを始めるまで、鍵盤楽器に触れたことがあるのか、などを色々聞いていきたいのですが……。

モリシー:実は、最初に触った楽器はエレクトーンで……。

ーーえっ、そうだったんですか!?

モリシー:ギターは小学5年生から始めたのですが、その前にエレクトーンを小学1年生から中学1年生くらいまで習っていたんです。きっかけは当時見ていた『題名のない音楽会』にエレクトーンのコーナーがあったから。そこで親に頼んで個人で教えてくれている音楽教室に入れてもらったんです。

ーー結構長い期間習っていたんですね。

モリシー:グレード6級くらいまでの曲はできていました。試験を受けたわけではないので、級を持ってはいないのですが……。

ーーそれでも十分すごいと思います。ということはモリシーさんの基礎を作ったのは、エレクトーンでの音感や読譜の能力というわけですね。

モリシー:いやいや、実は楽譜もちゃんと読めていたわけではなくて。コード譜と耳コピでなんとかやっていました。ただ、耳コピの能力はエレクトーンで格段に上がったと思います。

ーーそこで培ったものをギターでも十分に発揮したと。ギターを始めてエレクトーンを辞めたあとは、鍵盤楽器に触れることは長らくなかったのでしょうか?

モリシー:高校~大学ではセッションに参加して鍵盤の人が他にいないから弾くということもありましたし、その後加入したthattaというバンドではギターと鍵盤を担当していました。

ーーそう考えると、キャリアのなかで鍵盤からがっつり離れた、ということはあまりないんですね。『microKORG』に出会ったのはいつごろなのでしょうか?

モリシー:thatta時代は同じKORGの『X50』というシンセを使っていたのですが、もう一人の鍵盤を担当しているメンバーが『microKORG』を使っていて。そこが初めての出会いでした。実際に自分で使ったのはAwesome City Clubになってからですね。SoundCloudで2曲目にリリースした「Lesson」という曲があって……。

ーー懐かしい! シンセのフレーズが印象的な曲ですね。

モリシー:その印象的なフレーズは『microKORG』で弾いてるんです。ほかにも「涙の上海ナイト」などもそうですが、Awesome City Clubの初期はかなり『microKORG』を使ってますね。ライブで僕とPORIN(Vo./Key.)とマツザカ(タクミ/2019年に脱退した元メンバー)の前に『microKORG』が最大3台並んだこともあります(笑)。

Awesome City Club - 涙の上海ナイト (Music Video)

ーーたしかにAwesome City Clubが初期に鳴らしていた音は、どこか懐かしくも新しい質感があったので、『microKORG』の持つ特徴とも一致しているかもしれません。

モリシー:その頃はArcade FireやFoster The Peopleのように、洋楽のなかでも尖ったバンドをリファレンスにしていることも多かったんですが、彼らは結構『microKORG』の音を使っていたので、必然的にそこに近づいた、というのもありますね。

ーーAwesome City Clubは洋楽インディーシーンとリアルタイムで共振するバンド、というイメージだったのですが、そこをサウンドとして繋いだひとつが『microKORG』の音だった、というのは初めて知りました。

モリシー:今ほど音楽機材も多くなかったし、音楽的な専門知識もプロフェッショナルではなかったので、言葉で伝えるよりも「あのアーティストのああいう感じ」みたいなことを共有して、『microKORG』のバンク・セレクトで「RETRO」や「TECHNO/HOUSE」「ELECTRONICA」なんかを選んで近い音色を探したりしてましたね。

ーーその感じ、すごくわかります。一方、モリシーさんとatagiさん(Vo./Gt.)・PORINさんの3人体制になって以降のAwesome City Clubでは、あまり『microKORG』の音は聴いてないように思うのですが……。

モリシー:そうですね、音の方向性として生音っぽいものが増えてきましたし、僕自身もハード・ソフトの環境が充実したり、レコーディングや曲作りをさらに勉強していくなかで、プラグインの数がどんどん増えたりもして、あまりバンドの音に取り入れることは少なくなってきました。ただ、気分転換に弾いてみたりもしていましたよ。

『microKORG2』は懐かしさや安心感もあるけど“新しい”

『microKORG 2』
『microKORG2』

ーーそんななかで新たに『microKORG2』が登場しましたが、どうでしょう?

モリシー:いやー、少し前に出るというのを聞いたのと、最近たまたま『microKORG2』の開発メンバーと知り合ったこともあり、欲しくて通販サイトを見ていたところだったんです(笑)。

ーータイミングが良かったのなら何よりです(笑)。実際に触ってみた印象はどうですか?

モリシー:『microKORG』から変わらない「懐かしさ」や「安心感」のようなものはありつつ、新しい機能もすごくいいですね。真っ先に目に入ってくるのはこの液晶ディスプレイ。愛があるから言いますけど、『microKORG』の文字だけの表示はレトロな感じでいいのですが、やっぱり見にくくはあったので……(笑)。

ーーボディは『microKORG』を踏襲したデザインですが、カラーディスプレイはやはり大きいですよね……。音の部分などはどうでしょう?

モリシー:絶妙に昔のものも残しつつ、新たな音も増えていますよね。バンク・セレクトに追加された「クラシック」「モダン」「フューチャー」とか。「クラシック」と「モダン」はわかりますが「フューチャー」ってなんだろう? と思ったんですけど(笑)。実際に触ったら「これはフューチャーだ!」と言うしかない音色でした。あとは最近のHIPHOPでもよく使われている『Prophet-5』っぽい音色もあったりするので、やれることはかなり増えていますね。あと、ボーカル周りの性能もかなり上がってますよね?

ーー従来のボコーダー的な使い方以外もできるように、ボーカル・プロセッサーが新たに搭載されて、ボーカルのピッチを補正するハード・チューンや、ピッチシフトした声を重ねられるハーモナイザーも加わっていますし、声にリバーブやディレイなどのエフェクトをかけるなど、様々な使い方ができます。

モリシー:それもすごくいいですよね。レコーディングで絶対使えるなと思ったのは、声をステレオで広げることができること。いままでは録音してからソフトウェア上で広げていたのが、ハードの設定一つでできるのは大きいです。制作以外だと、ライブで『microKORG』のマイクを使うとなると、かなりの確率でアンプの音を拾ってしまっていたので、楽器と干渉することが多かったんです。ただ、『microKORG2』はそのあたりの指向性がもう少し狭くなっているぶん、声はしっかり入りそうですね。とはいえ完全に拾わないわけでもないので、イヤモニを使うタイプのライブに向いているかもしれませんが。

ーー小さい会場などでは十分に機能しそうですよね。まさにいまお話を伺っている『MORISHIMA COFFEE STAND』の店内などで弾き語りをするにも良さそうです。

モリシー:実際にこの店で少し弾いて歌ってみたんですよ。まさに小規模なライブはこの1台で完結しそうだなと思いました。マイクも含めて音場が広がってハイファイになった印象も受けるので、外で軽く演奏するにはピッタリ。制作に使うのだとすれば、モバイルセット的な使い方でもいいかもしれません。サンプラーと一緒に持って行っても大きいバックパックなら入りそうですし、電池駆動で数時間は動かせるわけなので。

ーー演奏といえば、ルーパーも『microKORG2』で新たに搭載された機能ですよね。録音、再生/停止、アンドゥ/リドゥの専用ボタン3つで簡単に操作できるという。

モリシー:そうなんです。これを使いこなすことができれば結構便利だと思いますよ。ただ、僕はクオンタイズがなかなか上手くいかなくて。これがもう少し上達してくると、一人で色んなパフォーマンスができそうな気がする。あとはリズム系の音があればルーパー+手弾きで1人セッションみたいなものもできるんですが、そういう音は入ってないので、サンプラーなどを使う方が良さそうですね。

ーー改めてですが、先ほどモリシーさんが”尖った音”と表現していたように、2000年代後半〜2010年代前半のインディーミュージックに多かった『microKORG』の音色が、いまの若いアーティストにとっては新鮮な聴こえ方に変わってきているように思うのですが、いかがでしょう?

モリシー:僕らにとっては「懐かしい音」なんですけど、20代のアーティストたちからするとそれは「新しい音」なんですよね。最近もサポートでお手伝いしているimaseが僕のスタジオに来て、色んなシンセを触って「カッコいい!」と喜んでくれていました。DNA的に音楽の歴史に組み込まれている音なので、古い・新しい関係なく、カッコいい音としてこれからも色んな人が鳴らしていくんでしょうね。僕も『microKORG2』をまだまだ使いこなせていないので、これから色々と触ってみたいと思います!

■製品情報
microKORG2:https://www.korg.com/jp/products/synthesizers/microkorg2/

■店舗情報
『MORISHIMA COFFEE STAND』
東京・下高井戸の小さなCOFFEE STAND
営業時間:11:00~21:00
店舗Instagram:https://www.instagram.com/morishimacoffeestand/

■リリース・ライブ情報
デジタルシングル『シャラランデヴー』
10月23日配信開始
URL:https://ACC.lnk.to/shalarendezvous

シャラランデヴー / Awesome City Club (MUSIC VIDEO)

『Awesome Talks Live House Tour 2024』
詳細:https://www.awesomecityclub.com/feature/awesometalks_livehousetour2024

イープラス:https://eplus.jp/at-oms24/
チケットぴあ:https://w.pia.jp/t/acc2024/
ローソンチケット:https://l-tike.com/awesomecityclub/

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