レディオヘッド×ゲームが生む“美しくて背筋が凍る体験” 『Kid A Mnesia Exhibition』から考える「表現手法としてのビデオゲーム」

レディオヘッドの“美しくて背筋が凍るゲーム”

ビデオゲームという表現手法に集まる注目、そして影の立役者であるEpic Games

 ここ最近、ビデオゲームを一つの表現手法として取り入れる例が増えてきており、著名なファッション・ブランドであるBALENCIAGAは2020年、「Afterworld: The Age of Tomorrow」と題して、ブラウザ上で動くビデオゲームを通してコレクションを披露しており(*1)。人気K-PopグループのBLACKPINKは今年8月に『あつまれ どうぶつの森』上でミュージック・ビデオのセットを再現したエリアなどを設けたオリジナルの島を作成し、公開している(*2)。このような動きの背景には、パンデミックによる影響によって、実会場でのイベントの実施が厳しくなり、ビデオゲームによって作り出される仮想空間に注目が寄せられているという背景もあるだろう。今回のレディオヘッドの取り組みについても、当初は実会場で同様の展示会を実施しようとしたものの、会場側の制約、そしてパンデミックによって開催自体が頓挫してしまったことがきっかけとして語られている(*3)。だが、結果として、同テキストにもある通り、展示会における通常のルール、さらには現実にも従う必要が無くなったことでここまでクリエイティビティを拡大させることができたというわけだ。仮にパンデミックが落ち着いたとしても、ビデオゲームというメディアならではのインタラクティブ性、そして空間的制約を超えた表現の可能性には、今後もさらに注目が集まっていくことだろう。

 だが、アーティストはゲーム会社ではない。本作はPlayStation5用に配信されているが、このようにPCだけではなく他のプラットフォームのユーザーにも届ける場合、作品を提供するためのパブリッシャーの存在が必要不可欠となる。そして、今回、レディオヘッドがタッグを組んだのは『フォートナイト』で知られるEpic Gamesであり、同社の協力を得ることによって、本作は多くのユーザーに対して無料で提供するということを実現している(リリースに際して『フォートナイト』と『Fall Guys: Ultimate Knockout』でレディオヘッドとのコラボアイテムが配信されていたのはこのためである)。また、本作は同社が提供している、最も利用されているゲームエンジンの一つであるUnreal Engineによって開発されている。

 Epic Gamesといえば、12月10日に公開されたUnreal Engine 5(Unreal Engineの最新バージョン)を用いたインタラクティブ・コンテンツ『The Matrix Awakens: An Unreal Engine 5 Experience』がその驚異的なリアリティによって話題を集めているが、こちらは技術デモであるだけではなく、映画『マトリックス リザレクションズ』のPR的役割を兼ねており、「Epic Games及びUnreal Engineのプロモーションと、プロダクトのプロモーションを両立する」という意味において『Kid A Mnesia Exhibition』と共通している(本作はそもそも『Kid A Mnesia』のプロモーション施策の一つである)。

The Matrix Awakens: An Unreal Engine 5 Experience

 Unreal Engineという強力なツールと、世界中に幅広くアプローチできるパブリッシング力を兼ね備えたEpic Gamesは、ビデオゲームという媒体に関心を抱いたクリエイターにとって、非常に心強い存在となるだろう。現時点ですでにゲーム業界において圧倒的な存在感を誇る同社だが、今後はクリエイターのためのハブとして、さらにその力を強めていくという可能性も少なくないのではないだろうか。

 今回のレディオヘッドの『Kid A Mnesia Exhibition』は、音源の持つ世界観をビデオゲームという媒体を通してインタラクティブな体験へと昇華してみせた極めて刺激的な作品であるだけではなく、今後、さらに加速するであろう「ビデオゲームという表現手法」を世界中のクリエイターへと提示した“事例”である。ここからまた、新たなクリエイティブが生まれていくことだろう。そして、その中心にいるのはやはりEpic Gamesなのだろうか。

*1 https://videogame.balenciaga.com/
*2 https://ygex.jp/blackpink/news/detail.php?id=1093449
*2 https://blog.ja.playstation.com/2021/11/19/20211119-kida/

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