ゲームにおける「DLC」の意義とは? 『Ghost of Tsushima Director’s Cut』から考える

『GoT』から考える「DLC」の意義

 いまやビデオゲームにおいて完全に定着したといえるDLC(ダウンロードコンテンツ。現在は主に本編に対する追加コンテンツと同義で使われている)。ときにはその売り方が批判されるという事例もあるが、この形式の良いところは、「本編の知識が入っている」ことを前提に、説明的な要素を省いた上で、さらに深く作品の持つ物語や世界観、あるいはゲームプレイやメカニクスを追求することができることである。

 現代において、「続編」という存在は単に前作の物語の続きを描くだけでは不十分であり、ゲームプレイやメカニクスを含むあらゆる側面において、新たな要素を導入することが求められる。当然開発期間は長くなり、続編で初めてシリーズに触れる人々も多いことが想定されるため、そのうえで物語を描いていく必要がある。つまり、純粋に「本編の続き」を描きたい場合は、もはや「続編」よりも(ほぼ)確実に本編に親しんでいるプレイヤーが触れることになるDLCの方が、形式として適していると考えることもできるのである。

 昨年のビデオゲームを代表する作品となり、日本国内でも高い人気を博した『Ghost of Tsushima』のアップグレード版としてリリースされた『Ghost of Tsushima Director’s Cut』に収録の追加コンテンツである「壹岐之譚」は、まさにそういったDLCの利点を活かした作品であり、作品の持つ魅力をさらに深く楽しむことができる内容となっている。本作では本編の持つテーマを踏まえたうえで、その題材と深く向き合った物語が描かれており、実質上の続編といっても過言ではない仕上がりなのだ。

※本稿は『Ghost of Tsushima』本編の一部のネタバレ。また、核心部分の言及は避けておりますが、「壹岐之譚」パートの一部のネタバレを含みます。

 「壹岐之譚」では、本編の舞台となった対馬の近くに位置する壱岐島を蒙古の軍勢が占領していると知った主人公・境井仁が、彼らの本土上陸を食い止めるために自ら島へと上陸し、彼らと立ち向かう物語が描かれる。この地に建てられた境井砦の存在からも分かる通り、かつて壱岐島は自らの父である境井正が支配していた場所であり、境井仁にとっては幼少期以来の再訪となる。

 対馬から壱岐島へと向かったのは境井仁ただ一人。この地に武士はおらず、本来であれば決して手を組むことがなかったであろう、現地の海賊たちと共に、壱岐島を奪還するための戦いを始めることになる。

 だが、そこには一つ大きな問題がある。この地は、かつて境井家が島を支配した際、この地で活動していた海賊が軒並み虐殺され、彼らを庇った罪のない住人さえも皆殺しにされたという歴史を持つ場所だということだ。いまではほとんどの住人は武士を忌み嫌っており、特に境井家の人間は虐殺の象徴として扱われ、「鬼」とすら呼ばれるほどである。ゆえに、境井仁は自らの家紋を隠さなければこの地を歩くことすらできない。もちろん、当時の彼はまだ幼く、虐殺に加担こそしたものの、あくまで父の命令の下に行動しただけであり、本人としては当時の出来事を「境井家としての正義の結果」だと考えている。だが、そんなことは島の住人にとってはどうでもいい。彼は「境井家の人間」であり、それが全てである。

 一方で、境井仁はこの地における完全な加害者側というわけでもない。本編でも描かれていた「自らの目の前で父(境井正)が殺害される」という場面はこの地での出来事であり、実は海賊たちによる虐殺に対する復讐だったのである。境井仁にとってみれば、海賊たちは「父を殺した加害者」となる。だが、彼らもまた「父(境井家)に虐殺された被害者」であることに間違いはない。だからこそ、境井仁は自らが境井家の人間であることを隠し、単なる武士として海賊に加勢する。だが、唯一、壱岐島に着いたばかりの彼を救った丶蔵という人物にだけはその身分を明らかにしているが、彼もやはり境井家を強く恨んでおり、その事実に戸惑いを隠せずにいる。この簡単には割り切ることができない重い関係性が「壹岐之譚」の物語の主軸となっている。

 この時点で明らかに本編以上にシリアスなのだが、境井仁が物語の最序盤で敵勢力のリーダーであるオオタカに盛られた毒の影響によって、壱岐島での行動中は常に自らの恐怖やトラウマが常に幻聴・幻影となって現れ続けることになる。本編でも描かれていたように、境井仁は父を見殺しにしてしまったことを激しく悔やんでおり、父の期待通りの強い武士になれなかったことについて強い負い目を感じていた。また、父の壱岐島での虐殺についても内心では正当化できずにおり、それを止めなかったことへの罪悪感も同時に抱いている。そして、その心の弱さと恐怖を常に幻聴と幻影が襲い続けるのだ。そのため、「壹岐之譚」のプレイ中は常に重い影がつきまとうような印象を抱くことになる。

 「壹岐之譚」における(表面上の)目的は本編と変わらず、侵攻していた蒙古を倒すことにある。だが、実のところ、オオタカの攻撃手段である毒の効果が示す通り、本当の脅威は境井仁の恐怖やトラウマ、罪悪感を生み続ける元凶である父・境井正という存在にある。かつて目の前で見殺しにしたことへの後悔、尊敬すべき親であったという思い出と、それでも虐殺の事実を正当化することはできないという葛藤、素性が海賊に漏れてしまい襲撃を受けるのではないかという恐怖、自らもまた罪なき人々を殺してきたではないかという罪悪感といったあらゆる感情が、境井仁を苦しめ続ける。

 このように、「壹岐之譚」では極めて重く、シリアスな物語が描かれており、決して間口の広い内容ではない。そして、ここまで振り切ったストーリーテリングは、プレイヤーに対して境井仁という人物が深く理解されているという前提が無ければ成立しない。「壹岐之譚」の物語はまさに、DLCだからこそ描くことのできた内容と言えるのではないだろうか。

 とはいえ、「壹岐之譚」は常に重く、辛い内容かというと、決してそういうわけではない。追加コンテンツに期待される要素であろう「本編の遊びの拡充」という側面においても、本作は非常に充実した内容となっている。

 「壹岐之譚」の舞台となる壱岐島のマップサイズは本編マップのおおよそ3分の1程度で、いわゆるオープンワールドゲームのフィールドとしてはかなりコンパクトな方ではある。だが、このコンパクトな空間の中に多種多様なアクティビティがしっかりと詰め込まれており、少し移動すれば新たな発見にたどり着くことができるのだ。また、それらの多くは本編プレイ済を前提としており、本編には存在しなかった弓の修練場や、闘技場などのように、単に本編のアクティビティを使い回すのではなく、むしろ不足していた部分を補完するようなつくりとなっている。いずれも本編クリア済でも歯ごたえを感じるであろう高難易度のチャレンジも用意されており、特に弓の修練場では最高評価を獲得するために「7個の的を7秒以内に射つ」という極めて高度な技術が求められるほどである。

 また、本編で楽しむことのできたアクティビティについても、高難易度化して再び登場しており、初見で迷わずに突破することはまず不可能であろう難解なアスレチックや、本編には登場しなかった「受け流しの極意(いわゆるジャストガード/ジャストパリィ)」を決めてくる特殊ボスが登場する伝承クエストなどが用意されている。そもそも壱岐島に登場する敵は全体的に強化されている印象で、攻撃力は高く、しっかりと防御を決めてくるようになっており、常に本編で培った知識やスキルをフルに活かしながら、壱岐島を旅する必要があるのだ。筆者は本編を万死モードでクリアしているが、それでも壱岐島の戦いでは何度も敗北を味わうことになった。

 リリース当時にも大きな話題となったが、本DLCでは最近のビデオゲーム業界で流行中の「動物とのコミュニケーション」機能についても盛り込んでいる。壱岐島には猫や猿といった動物が数多く暮らしており、島を旅しながら触れ合うことができるのである。必ずしも必要な機能では無いのかもしれないが、ストーリーパートがシリアスな分、動物たちが与えてくれる癒やしの価値はより一層に大きい。



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