『スーパードンキーコング3』の陰に隠れし不思議な力作『ドンキーコングランド』 発売25周年を機に振り返る

陰に隠れた力作『ドンキーコングランド』

 11月23日で『スーパードンキーコング3 謎のクレミス島』(以下、スーパードンキーコング3)の発売から25年になる。

 「スーパーファミコン史上最高画質」の売り文句と共に発売された同作は、当時、NINTENDO64への世代交代で現役を退いたスーパーファミコン向けに発売されながらも、100万本以上を売り上げる大ヒットを記録した。

 そんな『スーパードンキーコング3』と同じ日にもうひとつ、ドンキーコングの新作が発売されたことを覚えているだろうか。恐らく、『スーパードンキーコング3』のテレビコマーシャルの記憶が残っていれば、存じているかもしれない。

 ゲームボーイの『ドンキーコングランド』だ。

 『ドンキーコングランド』も11月23日で発売から25年になる。

 しかし、その日における事実上の本命タイトル、『スーパードンキーコング3』の(言い方がよろしくないが)”おまけ”のように発売された『ドンキーコングランド』は、陰に隠れてしまった感が否めない。現にテレビコマーシャルも『スーパードンキーコング3』とのセットで、最後の数秒にちょっとだけ紹介された程度。しかもオーギュスト・ロダン制作の「考える像」が、『ゲームボーイポケット(イエロー)』を両手で持ち、あの姿勢のまま一人(?)孤独に同作を遊んでいるという、随分とシュールなものだった。

 『スーパードンキーコング3』は売上もさることながら、ゲーム本編の出来も良かった。そんな名作から25年が経ったのなら、優遇されて取り上げられるのは至って自然な流れと言える。だが、あえてこの記事では『ドンキーコングランド』を取り上げる。

 陰に隠れてしまったとは言え、『ドンキーコングランド』も結構な力作だったのだ。それに今に振り返ってみると、色々興味深い特色も見つかるのである。

ゲームボーイで描かれた“もうひとつ”のスーパードンキーコング2

 『ドンキーコングランド』とはどのようなゲームだったのか。前述の繰り返しになるが、『スーパードンキーコング3』と同じ日に発売された、任天堂の携帯ゲーム機『ゲームボーイ』用のタイトル。横スクロールのアクションゲームで、「ワールド」ごとに用意されたステージ(コース)に挑んで、ゴールを目指すというものである。

 端的に言えば、ゲームボーイ向けに作られた『スーパードンキーコング』だ。

 ゲームボーイの『スーパードンキーコング』は、1995年7月に『スーパードンキーコングGB』という作品が発売されている。『ドンキーコングランド』はそんな『スーパードンキーコングGB』の続編として発売された。なぜ、続編なのにタイトル名が前作から変更されたのか?少し疑問が湧く部分だが、このことについては後述する。

 前作の『スーパードンキーコングGB』は、シリーズ第1作で1994年にスーパーファミコン向けに発売された『スーパードンキーコング』の世界観を下地に、独自のアレンジを加えた新作になっていた。

 『ドンキーコングランド』はその続編ということで、1995年発売の『スーパードンキーコング2 ディクシー&ディディー』(以下、スーパードンキーコング2)の世界観を下地に、アレンジを加えた新作になっている。

 ただし、前作にあった新作色は抑えられている。前作には「海底遺跡」、「大都会」、「飛行船」といった新たな地形、「フライングピッグ」、「ノーチラス」といった新種の敵といった原作のスーパーファミコン版にはなかった要素が追加されていた。それもあって、新作色が濃かったのだが、『ドンキーコングランド』はそれらの要素を廃止。原作の『スーパードンキーコング2』の世界観、特徴を忠実に再現する方向に舵を切った作品としてまとめられている。

 だが、単なる移植になっていないのが最大の売り。登場するコースの名称の多くは原作を踏襲しているが、内部構造は一新。原作の経験はあまり通用しない、事実上の新コースになっている。

 さらにスーパーファミコンでは表現できてもゲームボーイでは困難という、ゲーム機の性能が大きく影響するコースは全て新しいコースに差し替え。ボスも多くの個体が原作から続投しながらも、戦闘内容は一新されているほか、一部は未登場。関連して、そのボスが登場したワールドは別のワールドと合体させてひとまとめにするという、大胆なアレンジも行われている。

 システム面でも原作の『スーパードンキーコング2』には、パートナーのキャラクターを担いで、敵に向けて投げて攻撃したり、高い所にある足場への移動を可能にする「チームアップ」なるアクションがあったが、本作には存在しない。これは前作の『スーパードンキーコングGB』同様、ゲームボーイでは2人のキャラクターを同時に表示し、追従させながら動かすのが困難を極めることからの措置といったところだ。

 ただ、原作において初登場した主人公「ディディーコング」のパートナー、「ディクシーコング」の基本性能は忠実に再現。ポニーテールを回転させながら空中を滞空するという、原作でもひと際印象的だったアクションは本作でも実践可能だ。前作『スーパードンキーコングGB』では、わずか2体の登場に留まったサポートキャラクター「アニマルフレンド」も増加。水中コースにおける最高のお助けキャラクターとして、シリーズファンの間で名高いカジキの「エンガード」も満を持して登場を果たしている。

 このほか、画面下の残機表示にパートナーキャラクターの有無を示すアイコンが追加されたり、全体のボリュームが拡充される、背景グラフィックの描き込みを抑えて視認性を向上させるといった続編なりに改良された部分も多い。

 一見すると原作である『スーパードンキーコング2』のゲームボーイ向け移植版と見間違えやすいが、中身は完全新作同然で、さながら「もうひとつのスーパードンキーコング2」とも称せる内容。ゲームボーイという表現上の制約が多々あるゲーム機で、原作『スーパードンキーコング2』の魅力の再現と、独自の体験を突き詰めるこだわりが光る作品に仕上げられている。

 滑らかなアニメーションを始め、ゲームボーイの限界に挑んだ作品と言えるところもあり、その点では同日に発売された『スーパードンキーコング3』と同じ志を持ったタイトルとも言えるだろう。

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