乙女ゲームに潜む“ジェンダー規範”という問題 『ときめきメモリアル Girl’s Side』シリーズと海外の研究事例から考える

乙女ゲームに潜む“ジェンダー規範”問題

 TompowskyやSiewertとことなり、Richardsは執筆時人文・芸術系の博士後期課程で、現在は乙女ゲーム制作会社(※15)を立ち上げるなど、ゲームデザインに強い関心をもっている。彼女もまた初代『TMGS』の分析を通して、本作のプレイ自体が、とりわけ若い女性ゲーマーに特定の異性愛規範とそこで求められる女性性を身につけることを強いる点を指摘する(※16)。さらにそれが現実の日本社会、すなわち男性中心社会において「ゲーマー=女性主人公が男性キャラに従属しなければバッドエンド」を再現しているとみている。

「3年というタイムリミットと9人しか候補がいないことは、女性が限られた選択肢の中で時を刻む現実の社会を再現している。彼女たちは誰か一人を選んで落ち着くか、時間切れで「廃棄」されるか選ぶことになる」(※17)

 彼女は日本における結婚生活が女性に自由を失わせ、代わりに責任と期待を負わせるものだとし、このゲームはそうした不可避の運命を先取りさせているのではないかと疑問を投げかける。実際、男性の理想に従順になることのみならず、自身のキャリアや自律性をも諦めざるをえないことは、ゲーム内でもたしかにみることができる。彼女はゲーム内でのデートのプロセスを「服装やアクセサリーの選択」「自分の服装に対する相手の反応」「食事や映画など、デートのメインイベント」「デートの印象についての質問」「その質問に対する相手の反応」という5つのステップにわけて説明しているが、それぞれにおいて一度でも選択を誤る、すなわち相手の好みから外れた対応をとると、そのデートでベストの評価を得ることはできない。さらにデートの前段階として、ショッピング、とりわけドレスやアクセサリーの購入が必要だが、これもまた女性がそうしたことを好むというステレオタイプを強化しているとする。ゲーム内においては、ただデート相手の好感を得るためだけの行為であるにもかかわらず、システムとしてそれが組み込まれているのである。

 彼女が言うように実際にゲーマーがこうしたゲームからデート作法を学ぶ可能性があるかはさておき、日本人ゲーマーにとっては現実の再現とも言えるこのゲームの内部において、こうした規範性やステレオタイプに疑問をもつことが難しいという指摘はその通りかもしれない。この点においては、先に述べたように海外の研究者(ここで参照した著者たちも執筆当時はそれぞれスウェーデン、ドイツ、オーストラリアの修士あるいは博士後期課程の院生)の方が批判的距離をとりやすいことがわかるだろう。

ときめきメモリアル Girl's Side 3rd Story 公式サイトより
ときめきメモリアル Girl’s Side 3rd Story 公式サイトより

 これまで述べたこと以外にも、乙女ゲームに現実の男性優位異性愛社会の規範を見出すことは可能だろう。それらの議論が妥当かどうか、あるいはどう対処するか―従順に振る舞うか、抵抗するのか、あるいはユーモアとして転覆させるか―はまた別の問題だ。すでに許された紙幅を大幅に超えているため本稿はここで閉じることとするが、大切なのは普段慣れ親しんでいるゲームの外側にこうした議論が存在することを知り、ある種の違和感を抱くことである。そのうえでそれとどう向き合うかについての判断は、各ゲーマーに委ねられている。機会があれば筆者の見解も示したいが、とにかくまずは手近なタイトルを手に取り、自分が何を求めるかだけでなく何を求められているのかにも意識を向けてみてはどうだろう。それが自然になれば、きっと『ときめきメモリアル Girl’s Side 4th Heart』でもこれまでとはことなる視点でより深く作品の内面に迫れるようになり、自分なりのフィクションの楽しみ方を考える契機になるはずだ。

【後編『乙女ゲームにおける“ジェンダー規範”(後編) 日本の乙女ゲーマー&メーカーは、いかにして「それ」を転覆させたのか』へ続く】

(メイン画像=Pexelより)

〈注釈〉
(1)(2)ほとんどのゲーム専門誌や後述する海外の研究でも本作は乙女ゲームの始祖としてあつかわれるが、実際にはもっと前から同種のゲームが存在していた可能性もある。『ガールズガーデン』(セガ 1984)はその一例と言えるほか、発売時期は若干遅れるが、構想の段階では『ママレードボーイ』(バンダイ/1995年) などのほうが先の可能性もある。乙女ゲームの歴史については『現代ゲーム全史 文明の遊戯史観から』(中川大地・早川書房/2016年)などゲーム(産業)史でもあまり触れられることがなく、専門誌での特集もかならずしも網羅的なものとは言えないため再検討が必要と思われるが、紙幅の都合上これについてはまた別のところで議論したい。

(3)Kim, Hyeshin. 2009. “Women’s Games in Japan: Gendered Identity and Narrative Construction.” in Shunya Yoshimi (ed). Theory, Culture and Society. London: Sage Publications.

(4)「アナタが望む”恋”がきっと見つかる! 乙女ゲーム特集」PS Store Magazine、2012. (現在は閲覧不可)

(5)「Nintendo Switch 乙女 GAMES」Nintendo、2021.

(6)戸田山和久、『恐怖の哲学 ホラーで人間を読む』NHK出版、2016.

(7)ここでは制作者の意図通りに怖がったりときめいたりする受容者のこと。

(8)McDonald, Heidi (ed). Digital Love: Romance and Sexuality in Games. Boca Raton: CRC Press, 2018. には彼女のほかにもいくつか乙女ゲーム関連の論考が収められている。

(9)Tosca, Susana, and Lisbeth Klastrup. Transmedial Worlds in Everyday Life: Networked Reception, Social Media and Fictional Worlds. New York: Routledge, 2019, 103-113.

(10)たとえば宮野雪夏「ネオロマンスのブランド戦略から見た乙女ゲームの展望」『立命館映像学』6、2013、137-174. や、谷川未沙樹「乙女ゲームユーザーの分析」S-PLUS & Visual R Platform学生研究奨励賞、2014.など。

 筆者がこれまで国内外から受けた卒論等にかんする相談も、マーケティングやプレイヤーへのインタビューなどに主眼をおいたものであった。

(11)ほぼすべてが国内のデベロッパーによって開発されていることにくわえ、諸外国向けに字幕やシステム言語のローカライズがされている場合であっても、声優によるボイスはほとんどの場合そのまま輸出されるため、日本製であることが強く前面に押し出されている。

(12)英語圏を中心に、大手出版社による投稿・公開・閲覧にかかわる費用の搾取を回避するため近年広まりつつある査読形態の一つ。初稿を無償で公開し、その後研究者コミュニティ内で相互に議論してアップデートしていく。

(13)Tompowsky, Roseanne. “An Exploration of Gender – Specific Language in Japanese Popular Culture Gender Stereotypes in Japanese Dating-Simulation Games.” Master thesis, University of Gothenburg, 2014.

(14)Siewert, Franziska. “Video Games and Gender : The Depiction of Women in “ Tokimeki Memorial Girl ’ s Side : 1st Love””. ReVisions. 2018. ここでは2021年7月現在のバージョンを参照している。

(15)彼女の会社「コットン・キャンディ・サイアナイド」による乙女ゲーム『量子自殺 – Quantum Suicide -』はSteamで購入可能。

(16)Richards, Tina. “Tokimeki Memorial Girl’s Side: Enacting Femininity to Avoid Dying Alone.” ToDiGRA. 2 (1). 2015, 101-27.

(17)Ibid. 104



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