ARPの"お義父さん"、ユークス・内田明理に聞く「生身のタレントにはできないライブ体験」の裏側

ARPの“特殊なライブ”裏側に迫る

 筆者はかつてボーカロイドのARライブを生で観たことがある。ARで投影されたキャラクターと生身のダンサーがともに踊る姿に、二次元と三次元の壁が融解する未来を感じた。

 しかし、そこにはまだ「プログラムされた動きしか再生しない」という壁が存在した。人は自分の意思で動いてこそ人であり、段取り通りの動きしかできないのでは、まだ人間とは言えない。その意味で、ボーカロイドのARライブは次元の壁は破っていたが、生きた存在になりきれていなかった。

 その「プログラムの壁」に挑んでいる男がいる。かつてコナミで『ときめきメモリアル Girl’s Side』や『ラブプラス』などのキャラクターゲームを手がけた、"お義父さん"こと内田明理氏だ。

 内田氏は、現在株式会社ユークスに在籍し、ARアーティストプロジェクト『ARP』を手がけている。ARPは二次元のキャラクターでありながら、その場で観客の声援に反応し、リアルタイムでパフォーマンスを披露する、4人組のバーチャルダンスユニットだ。

 まるで生身の人間であるかのように、トークし、踊り、歌を披露するその姿は、予めプログラムされたデータを再生するバーチャルな存在とは一線を画する。モニターの中に存在するVTuberとも異なり、現実のステージに立ってパフォーマンスを披露するので、まさに観客と同じ空気の中に彼らが存在するかのような雰囲気を感じられる。

 ARPの総合プロデューサー、内田氏はARPでどんな未来を目指すのか、話を聞いた。(杉本穂高)

「自分が作ったキャラと会話したかった」

ARPの総合プロデューサー・ユークスの内田明理氏。

ーーARPの発想の原点はどこにあったのでしょうか。

内田明理(以下、内田):僕は今までゲームクリエイターとしてキャラクターものを手がけてきて、オリジナルのキャラクターをいかに身近に感じてもらうかを常に考えてきました。ただのコンテンツの一部じゃなく、キャラクターを特別な存在と思ってもらいたかったんです。

 ずっとそうやってきた中で、ゲーム業界がパッケージものから、アプリ配信へと比重が移っていき、キャラクターを作り込むことよりもマネタイズのシステムをいかに作るかに重点が置かれるようになっていきました。自分の中で、そういう風潮にズレを感じることがあったんです。

 一方で、音楽業界は顕著ですが、コンテンツそのものよりもライブのような体験にお金を使うことが主流になっていますよね。そういうシフトが二次元の世界でも起こっている中で、私も自分のキャラでイベントをやったりもしていましたけど、やはり二次元キャラは再生することが前提なので、直接お客さんの相手はできないわけです。なので、声優さんに衣装着てもらってライブするなど、みなさんいろんな工夫をしていて。それはそれで面白いと思いますが、本当はキャラクター自身がお客さんとコミュニケーション取れるのが一番いいと思っていて、いろんな技術を組み合わせればそれができると考えていたんです。

ーー二次元キャラクターの体験価値を突き詰めた結果、出てきたアイデアなんですね。

内田:そうですね。再生が前提の二次元キャラクターは、結局自分が書いたことしかやってくれないじゃないですか。でも私には、自分で作ったキャラクターと対話したいという変な野望がありまして(笑)。要するに、自分が計算した以上のことをやってくれるはずなので、それを見てみたかったんです。

ーー実際、最初のライブをご自身でご覧になっていかがでしたか。

内田:すごく奇妙な感じがしました。本番前のリハーサル時、二次元キャラの彼らが舞台に普通に立っていて、舞台監督も指示を出していて、普通に彼らと会話が成立してしまっていて、「あれ?」って思いましたね(笑)。これは相当不思議なことをやっているなと。

ーーそれはシュールな光景ですね。舞台監督の方も、生身のタレントと同じように彼らに接しているんですか。

内田:はい。ステージ上に彼らが立っていて、こっちを見ながら受け答えしてくるんです。やり取りは通常のステージと何ら変わらないです。

ーーステージも面白いですが、舞台裏も面白そうです。リアクションがリアルタイムにできるのが、これまでの同種の試みとは異なる点だと思いますが、同じ曲を歌うにしても、一回ごとに踊りなどのディテールだって変わったりするわけですよね。

内田:変わります。他にも歌詞が飛んだり、間違えることもありますし。

ーーその不完全さが逆にリアリティを生み出しているんですね。実際、これをやるにあたって、ダンスアクター、ボイスアクターやCGクリエイターなどがいて、1人のキャラクターを作っているわけですが、キャラの共通理解をしっかり作るのが大変ではなかったですか。

内田:これは実際、未知数だった点でもあります。このプロジェクトに関わる方々は、相当のプロフェッショナルじゃないと難しいだろうと思っていて、オーディションもして、それぞれのキャラでチームを作っています。当然最初は私がキャラクターのバックボーンを作って説明するんですけど、そこから始まって時間が経つにつれて、当然、演者さんたちの個性も入ってくるわけです。

 僕もアドリブを要求しますし、思わぬ方向に行ったりもします。演者さんが1人じゃないのでデジタル人形浄瑠璃とでも言いますか(笑)。最初は少しチグハグな部分もありましたが、だんだん共通のイメージが持てるようになって、それは私が最初に計画したものじゃなくて、演者さんたちがやっていくうちに生まれてきた個性なんです。

 最初の頃は、そういうズレも矯正しようとしていましたが、むしろ生身のタレント同様、デビューして場数を踏んで変わっていくのが当たり前ですから、ファンの方にも彼らの成長ぶりを楽しんでもらえばいんだなと思うようになりました。

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