バズるために殺人する“迷惑系YouTuber”、10代少女に性的メッセージ送りつける男……SNSの闇を描く作品に注目

バズるために殺人する“迷惑系YouTuber”

 SNSは便利で楽しい。しかし、昨今のSNS空間は楽しいことばかりではなくなってしまった。毎日のように誰かが炎上するし、タイムラインが罵詈雑言と怒りに満ちたものになることも珍しくないている。多くの人がSNSの危険性を感じ、窮屈だと思うような経験もしているにもなってきているだろう。

 そんなSNS空間の闇を描いた2本の映画が相次いで公開される。動画をバズらせるために殺人を犯す男を描いた『スプリー』と、10代の少女に性的なメッセージと写真を送りつける男たちをあぶりだすドキュメンタリー映画『SNS-少女たちの10日間-』だ。

バズるために殺人する究極の迷惑系YouTuber

 昨今、動画撮影のために迷惑行為・犯罪行為に走る「迷惑系YouTube」がニュースとなることがある。『スプリー』は究極の迷惑系YouTuberというべき男を主人公にしたスリラー調の作品だ。主人公はカート・カンクルという若い白人男性。バズりたい一心で10年間動画投稿を続けてきたが、一向に注目されない。そこでカートは、バイトのライドシェア中に乗客を殺害し、その一部始終を生配信することを思いつく。

 カートは、本当に人を殺害してしまう。しかし、ネットの反応はいまいちだ。だれもそれが本当の殺人だと信じず、コメントで「フェイク」扱いされてしまうのだ。意地になったカートは、さらなる犯行に及び、その行為はどんどんエスカレートしていく。

 本作の映像の多くは、車に据え付けられたカメラ視点からの映像で、観客に実際の生配信を見ているような気分にさせる。普段、我々がスマホなどで見なれた構図の映像ばかりでスマホ時代ならではの臨場感たっぷりの作品だ。

 主人公は劇中、数人の乗客を乗せて多少の会話をするが、その会話でわりと「ポリコレ」が守られているのが面白い。白人至上主義者の男性を乗せた時には差別はいけないと言い、女性蔑視的な発言をする客にもそれを批判してみせる。ライブ配信で不用意な発言をすれば炎上するのは自分である。彼は、そのこともきちんとわかっている。上辺だけリベラルな人間を気取るのは簡単なのだ。

 本作が描くのは、SNSによって膨れ上がった承認欲求というモンスターだ。SNSで認められることは、彼の中で全てにおいて優先されることとなってしまっている。彼は女性にモテたいとか金持ちになりたいとか、具体的な動機は語らない。ただ、バズってインフルエンサーになりたいと思っている。「バズバス」そのものが、物語の主人公の動機として成立する時代なのだ。現代人にとって「バズ」というものがそれだけ魅惑魅力的なものになっているということなのだろう。

少女に性的メッセージ送る大量の男たち

 もう一つの作品『SNS-少女たちの10日間-』はドキュメンタリーだ。こちらは、SNSを通じて10代の女性に性的メッセージや画像を送りつけてくる大人の男性をあぶりだす、ある実験を捉えた作品だ。

 仕掛けはこうだ。撮影スタジオに3つの子ども部屋のセットを用意し、童顔の18歳以上の女優3人に12歳という設定で偽のアカウントを作成してもらい、各々のセットでメッセージを送ってくる男性とやり取りする。

 この仕掛けでコンタクトをしてきた男性の数は、なんと10日間で2458名だったそうだ。しかし、映画はその数以上に衝撃的な実態を赤裸々に映し出す。

 相手が12歳の少女だと認識しているにもかかわらず、自分の性器を見せる者やオンラインビデオでセックスを持ち掛ける者たちが数多く捉えられている。性的なセックス目的で外に誘いだそうとするものもいる。

 本作は上述した通り12歳だと偽り、素人を釣り上げる手法で撮影しているという点で倫理的にどうかと思う人も当然いるだろう。共同監督の1人であるバーラ・ハルポヴァ―も、「今回行った撮影方法には倫理的な脆弱性があったのは事実です」と認めている。(参照:映画公式プレスシート)

 いずれにしても、その代わりに、制作者はその仕掛けを隠さずに、全て観客に明らかにしている。自身の倫理的な弱点もあますところなく見せた上で、問題を問う姿勢を貫いている。撮影には、メンタルをケアする精神科医や弁護士も性科学者も立ち会い、3人の女優を守る体制も万全に敷いており、コミュニケーションする際にも、こちらからは性的な誘惑をしない、12歳であることを明確に告げるなど厳格なルールを適用している。

 ネット上のコミュニケーションには、男女の非対称性があるのは事実だ。女性の3人に1人がネットでセクハラ被害に遭ったことがあるという調査(https://www.buzzfeed.com/jp/takumiharimaya/online-harassment)もあるが、女性にとって不愉快な性的メッセージが送られてくるという経験はそれほど珍しいものではないし、ネットのナンパなども男性よりもはるかに多く経験しているだろう。本作はSNS上で実態を伴う性犯罪が野放しになっている現状を明らかにしている。

 本作の監督の1人、ヴィ―ト・クルサークは知り合いの娘に起こったある出来事が本作の制作のきっかけになっていると話す。父親が偶然、娘の携帯電話を見てしまい、父親と同じくらいの年齢の男性にヌード写真を送っていたことを見つけたそうだ。その理由を問うと、その娘はクラスメイトたちがその男とやり取りしていて、自分もやらざるを得なくなったのだと話したという。ヌードを送らなければ仲間外れにされるのだろう。(参照:映画公式プレスシート)

 本作はチェコ映画だが、わいせつ画像とSNSをめぐるいじめの問題は日本でも起きている。つい最近も旭川の女子中学生が猥褻画像を拡散され、自殺に追い込まれた事件があったが、これは日本やチェコに限らず、世界中で同じようなことが起きていると考えるべきだろう。

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