バズるために殺人する“迷惑系YouTuber”、10代少女に性的メッセージ送りつける男……SNSの闇を描く作品に注目

バズるために殺人する“迷惑系YouTuber”

増大するSNSトラブルにプラットフォームの責任は

 2本の映画を観ると、なぜこのような事態が野放しになっているのかと憤る人もいるだろう。増大するSNSでのトラブルにプラットフォーム事業者は、きちんと責任を果たせているのだろうか。FacebookやTwitter、YouTubeなど多くのSNSプラットフォームに対して、管理体制の強化を求める声が高まっているが、プラットフォームの規制強化は表現の自由を奪う恐れもあり、一筋縄ではいかない議論だ。

 米国議会では今年の3月、IT大手3社のCEOに対する公聴会が開かれ、そこではSNSが抱える多くの問題が指摘された。ワシントン議会選挙事件に至るまでの真偽不確かな情報への対処の遅れ、社会的責任よりも利益を優先しているのではないか、そして「プラットフォーム企業は脳や社会性が未発達な子どものSNS利用に見て見ぬふりをして、彼らの健康を犠牲にして広告収入を得ている」のではないかなど様々な指摘が相次いだ。
(参照: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN251200V20C21A3000000/)

 米国議会では、プラットフォーム事業者が個別の投稿に法的責任を負わないことを定めた通信品位法230条の改正についての議論も起きている。日本にも同様の免責を認めたプロバイダ責任制限法がある。

 日本では、プロバイダ責任制限法の改正案が国会に提出された。これまでの法でも、誹謗中傷などの相手を特定するための発信者情報の開示請求は行えたが、時間も手間もかかるので、被害を受けた人にとって利便性のある制度ではなかった。今回の改正案は、その手続きの簡略化を目指したものだ。

 こうした改正案が出てくる背景には、2本の映画が描くようなSNSでの犯罪行為やトラブルの増大が背景にある。コロナ禍で巣ごもりする人が増え、人々はますますオンラインで過ごす時間が多くなりオンライン上での児童への性的虐待が増えているとも言われている。(参照:https://www.afpbb.com/articles/-/3320817)プラットフォームの責任は、これまでとは異なるものになっていくのだろうか。

 しかし、事業者による、ユーザーの投稿の管理強化は事実上の検閲強化となり、自由な表現が損なわれる恐れもある。そして、こうした投稿への管理に大規模な人員と予算を割けるのは大手企業だけであり、強い規制を義務付ければ新規参入を阻むことにもなるだろう。GoogleのピチャイCEOは、230条改正について事業者が「過剰規制になるか、まったく投稿を管理できなくなるかのいずれか」になると改正に慎重な姿勢になるよう求めている。
(参照:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN251200V20C21A3000000)

 2本の映画は、我々のオンライン社会の闇を見事に暴き出しており、SNSの使い方や事業者の道義的な責任についても深く考えさせられる作品だ。日本でも起きているプラットフォーム事業者の責任を議論する上でも非常に参考になるだろう。

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

■公開情報
『SNS-少女たちの10日間-』
池袋シネマ・ロサ、キネカ大森にて絶賛上映中。他全国順次公開中。
(緊急事態宣言発令中につき上映日程の変更の可能性もあり)
※緊急事態宣言発令に伴う休館劇場【4/27~5/11】 ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺、シネ・リーブル梅田
(緊急事態宣言明けに改めて上映予定)

『スプリー』
大ヒット上映中
※上映劇場はHP等でご確認ください。

(C)2020 Spree Film Holdings, LLC. All Rights Reserved.(スプリー)
(C)2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.(SNS-少女たちの10日間-)

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