コロナ禍で生み出された”リアル”と”デジタル”の新たな体験価値とは ネイキッド・村松亮太郎の「SNSに縛られないクリエイティビティ」
インターネットが普及し、そして誰もがスマホを持ち歩く時代。
デジタル社会の到来は、我々の日常を変える大きなきっかけにもなったといえる。
こうしたデジタル化の波は、エンタメやアート、音楽などのクリエイティブ領域においてもAIやXR技術のほか、ホログラム、プロジェクションマッピングなどデジタル技術の進化によって、多彩な表現を可能にした。
一流のクリエイターやアーティストが生み出す、「リアル」と「デジタル」が融合した斬新なクリエイティブ。誰も想像がつかないような創作表現に触れたとき、今まで味わったことのない驚きや感動を味わうことだろう。
そんな中、映像制作やインスタレーション、空間演出などクロスボーダーに様々なクリエイティブを生み出してきたのが「NAKED, INC.(以下ネイキッド)」だ。
同社の代表であり、クリエイターとしても活躍する村松亮太郎氏に、人々を魅力するクリエイションの原点や今後の展望について話を伺った。(古田島大介)
役者でもクリエイターでも「シーン」を作るのは変わらない
村松氏はもともと、映画やテレビを舞台に俳優として活動していた異色の経歴を持つ。
1997年にネイキッドを立ち上げて以来、初めは映像制作やショートフィルムなどを手がけていたが、時代の変遷とともにアートやエンタメ、カルチャー、音楽、伝統、教育などライフスタイルにおける様々な領域へクリエイティブを広げ、新たな体験や価値を創造してきた。
「よく『ネイキッドってどんな会社?』と言われるんですが、『シーン(scene)を創る会社』と答えるように最近はしています。要は景色(sight)ではない、人が介在することで成り立つ情景を作り出すことなんです。世界観やストーリー性を構築するという観点では、“役者”だろうと、“クリエイター”だろうと変わらない。映画には脚本があるからこそ価値が生まれます。同様に、リアルな空間や日常生活に物語性を持たせることで、『わくわく感』や『ときめき』といった心躍る感情を表現することができるんです」
文脈を少し変えるだけで「日常」が「非日常」へと変える
ネイキッドという会社が脚光を浴びたのは、2012年の東京駅丸の内駅舎で行われたプロジェクションマッピング『TOKYO HIKARI VISION』だ。
国内でプロジェクションマッピングを先駆的に行った空間演出として、3日間で30万人を越える人数が訪れ、クリエイティブカンパニーとして知れ渡るようになったのである。
その後も、新江ノ島水族館『ナイトアクアリウム』や東京タワー『TOKYO TOWER CITY LIGHT FANTASIA』など、次々とプロジェクションマッピングの作品を発表し、人気を博していく。
「映画から入って、音楽、テクノロジーと時代の流れに合わせて表現をしてきたわけですが、駅や水族館、夜景って普通に生活を送っていれば、あまり気に留めない存在だとも言える。もちろん、クリスマスシーズンにライトアップされた駅舎あるいは展望台からの夜景、カップルで寄り添いながら見る水族館……など魅力的な部分もあるけれども、もっと違う捉え方で演出してあげれば、新たな体験価値を生み出せるのではと思ったんです。既存の見方を変えるきっかけを与えるというか、それぞれの対象となる場所や空間にストーリー性を取り入れ、世界観を構築し、“日常”を“非日常”に変える。
非日常体験が味わえるこそ、人は魅了されて足を運ぶきっかけになるんです。例えば『TOKYO TOWER CITY LIGHT FANTASIA』にしても、都心に住んでいる人の多くが東京タワーの展望台まで上った経験がないということに対し、“夜景 × マッピング”という新たなクリエイティブを取り入れることで、これまでなかったドラマティックな感動を生み出した。ちょっとした文脈の違いで、印象をガラッと変えられるんですよ」
普遍的なものに新しい価値を見出した『NAKED FLOWERS』
ネイキッドが生み出す、革新的で創造性豊かなプロジェクションマッピングの企画・演出・制作の中でも『NAKED FLOWERS(前 FLOWERS BY NAKED)』は、全くのゼロから幻想的な空間を創造し、不朽の魅力を持つ“花”という存在を再定義した作品として知られる。
デジタルアートでも日本の伝統芸術でもない、“体感型イマーシブアート”として昇華させた背景について村松氏に伺うと、「普遍的でオーガニックなものに新しい命を吹き込み、クリエイティブな要素を持たせたかった」とし、次のように説明する。
「建物や空間をマッピングしてきて、次は何もないところから作る総合芸術のようなものを作ろうと考えたんですね。そこで、何をやろうかとアイディアを巡らせているうちに、“都会の中の秘密の花園(シークレットガーデン)”という構想が思いついた。アーバンライフを送る日常の中に、ふと秘密の楽園が現れればみんな行きたくなるじゃないですか(笑)。他方、『〇〇フラワーパーク』と名のつくスポットは全国にたくさんあれど、いまいちワクワクしないというか観光スポットから脱却しきれていない感じがした。『花が嫌い』という人はいないゆえ、いわば普遍的なものに新しい価値を生み出そうとしたのが『NAKED FLOWERS』でした」
デジタルやテクノロジーを駆使したヴァーチャルな花々のほか、造花・生花のオブジェやインスタレーション、プロジェクションマッピングなど、これまでのアート展示とは一線を画すほどの唯一無二な空間演出は、大きな話題を呼ぶこととなった。
「もともとネイキッドは映画を一から製作していた会社で、脚本はもちろんCG、サウンド、キャスティングなどすべて自分たちでこなしていました。つまり、大型スクリーンで表現するための知見や経験は備わっていて、『NAKED FLOWERS』では既出の映画を超えるような世界観を作り込めないか模索したんです。『ゴッドファーザー』のようないい映画って、作品自体が語ってくれるというか、作品そのものに価値や魅力がある。
『NAKED FLOWERS』も作品主義の観点から、花と触れ合うという人間の所作にどうやって大衆性を帯びたエンターテイメント感を出し、芸術としてクリエイションするかにこだわった。結果的には、日本の伝統文化であるいけばなの流派『いけばな草月流』を筆頭に、多くの企業やアーティスト、クリエイターらと作り上げましたが、これだけのコラボレーションを手がけることは、映画ではごく当たり前のことなんです。総合芸術としていかに完成度を高め、素人、玄人どちらでも受け入れられるような作品を意識しました」