DNA診断による“マッチング”は運命の相手への最短距離なのか? Netflix『The One:導かれた糸』と現実社会の婚活から考える

DNA診断の“マッチング”は愛を生むか?

 愛とは、人類にとって普遍的でありながら、同時に最も不可解で曖昧なものではないだろうか。

 愛をテーマにした物語は、人類の歴史上数多く作られてきたが、テクノロジーの発達によって新しいアプローチが生まれた。3月12日からNetflixで配信開始されたオリジナルシリーズ『The One:導かれた糸』は、DNA診断によって確実に相性の良い相手とマッチングできる技術が開発された世界を描いている。

 遺伝子情報の研究は日進月歩で進歩しているが、愛もまた遺伝子で説明できるのだろうか。また、それが人々に信じられた時代に愛はどのようなものとなるのかを考えさせてくれるユニークな作品だ。

DNAマッチングが普及し始めた過渡期の社会で起こるトラブルとは

 世界中でたった1人の運命の相手をDNA解析によって探し出すサービス「The One」を提供する会社のCEO、レベッカ・ウェブは時代の寵児となっていた。彼女は誰もが運命の相手を簡単に探し出せるようになることで社会が良くなると主張する。すでに100万人以上がこのサービスを利用している。

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 しかし、既婚者がこのサービスを利用することで、離婚が社会全体で急増するなど社会問題ともなっている。DNA情報の商業利用を制限すべきだと主張する政治家も現れ、レベッカの事業も順風満帆とはいかない。そんな時、かつてルームメイトだった男性が遺体で発見されると、レベッカにも捜査の手が伸び、事業の裏にある秘密が隠されていることが明らかになっていく。

 本作の設定が秀逸なのは、「The One」のサービスが開始されてまだ数年で、DNAによって運命の相手を探すという行為がまだ社会に浸透しきっていない点だ。ある人は前向きにとらえ、別の人が懐疑的だったりする。例えば、その考えの違いは付き合っている者同士にも表れる。とある登場人物の女性は、パートナーに内緒で髪の毛をサンプルとして送り、彼にとっての理想の相手が誰なのかを知ってしまう。彼女は、自分が彼に最もふさわしい人物なのかどうか自信がなかったのだ。当のパートナーは彼女への愛に自信があり、そんなもので確認する必要はないという姿勢で、このような考え方の違いを生む設定として絶妙に機能している。

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 このカップルの例が示すのは、このサービスを利用することは、現在の相手を信頼しきれていない感情の現れということだ。互いに完璧な信頼関係があれば、そのようなサービスで相性を確かめる必要はないからだ。「Tne One」のテクノロジーは不必要にカップルの不安をあぶり出してしまっているとも言える。

 また、異性愛者だと思われていた人が同性とマッチングするケースもある。とある女性は運命の相手が女性であったことがわかると人生が一変していく。相手は別の国に住んでおり、遠距離恋愛となるのだが、これまでにないくらい心の充実を感じるという。

 しかし、理想の相手と診断された相手が真っ当な人間とは限らない。この女性の運命の相手は、実はすでに同性パートナーがおり、そのことを隠していたのだ。これは裏切り行為であるが、DNAマッチングは彼女こそが理想の相手だと告げる。現実の行為とテクノロジーのお告げ、どちらを信じるべきだろうかと視聴者は考えるだろう。

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 人の心は移ろいやすいものだ。それゆえ、テクノロジーによってこれが愛なのだと示されてしまうと、それが真実の愛なのだと思ってしまうかもしれない。DNA解析という複雑な技術の上に成り立っているサービスは、一般人からみればブラックボックスの領域だ。このようなサービスが社会に広がった時、人間にとって愛とは何なのかが問い直されるかもしれない。本作はまさにこれから人類が直面する愛の問題を先取りしている作品と言える。

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