『CoD』や『フォートナイト』を押さえ、『TGA2020』でBest Ongoing Game受賞ーー『No Man’s Sky』が果たした“大逆転劇”とは

『CoD』や『フォートナイト』を押さえ、『TGA2020』でBest Ongoing Game受賞ーー『No Man’s Sky』が果たした“大逆転劇”とは

 ゲーム開発は予測不能な事態の連続であり、当初の予定通りにプロジェクトが進行し、安定してローンチを迎えることは少なくない。結果として多くのタイトルは「かろうじて」無事にリリースすることができているわけだが、間に合わずに山積みの問題を残したままローンチを迎えることも、残念ながら決して珍しいことではないだろう。

ローンチ時にファンの期待に応えられないゲームは、評価を取り戻せるか?

 多くの場合、ローンチで大きなミスを犯したタイトルには、そのミスを挽回するための様々な改善活動が実施される。バグの修正やパフォーマンスの最適化といった基本的なものから、ゲームバランスや挙動の調整、場合によってはボリューム不足を補うために新規のコンテンツが追加されることもある。だが、前提としてそれらの多くは無償のアップデートで提供されるものであり、(少なくとも短期的な視点では)続ければ続けるほど損失は増えていく。結果的に、修正を重ねるものの、ユーザーの信頼を取り戻すまでに至らず、多くのタイトルが評価を取り戻すことなく散っていった。

 先日、再開発の中止がアナウンスされたBiowareの『Anthem』(2019年)はその筆頭と言えるだろう。ローンチ当初、多くのユーザの期待を裏切る結果となった同作(参考:『Anthem』失敗の原因は「BioWareマジック」を信じたから?)は、秘めていたはずのポテンシャルを引き出すべく2019年後半より『Anthem NEXT』や『Anthem 2.0』と呼ばれる大規模改修に取り組んでいたが、結局、多くのユーザーを振り向かせることはできなかった。

 現在、その動向が最も注目されているのは、PlayStation4 / Xbox One版のパフォーマンスに大きな問題を抱えたままローンチを強行し、現在進行系で改善に取り組んでいるCD PROJECT REDの『サイバーパンク2077』だろう。そんな同作について、今年の1月に「『ある作品』と同じスタイルの復活劇を目指している」という誤情報が、メディアを含め大量に拡散されるという珍事が起きた。

 それがHello Gamesが2016年8月にリリースした『No Man’s Sky』である。前述のような大企業と異なり、本作はプロジェクト発足当初は6人、リリース時点でも15名という極めて小規模なチームによって開発されたインディー・タイトルだ。だが、このHello Gamesが実現した逆転劇が、今では世界中のゲーマーや、あるいは大企業にとっても大きな希望となっているのである。

No Man’s Sky – Next Generation Trailer

インディー・デベロッパーとしては異例となる絶大な期待が生んだ悲劇

 『No Man’s Sky』は、2013年のVGX awards(The Game Awardsの前身となるアワード)で初めてトレーラーが発表され、インディー・デベロッパーとしては異例とも言えるほど大きな注目を集めた。自動生成によって生み出される18京個にも及ぶ膨大な惑星は、豊かな生態系がある海を持つ星から巨大生物が潜む砂の惑星まで幅広く存在し、宇宙船に乗って自由に宇宙を探訪しながらこれらの美しい星々を巡ることができる。この宇宙には巨大な貨物船や他の宇宙船も存在し、時には大規模な戦いに巻き込まれ、レーザーで応戦して立ち向かうこともあるようだ。多くの人々が夢見るであろう「宇宙を舞台としたオープンワールド探索ゲーム」が突如として目の前に現れたのである。翌年のE3では、巨大な恐竜が生息する惑星の存在や、複数人での探索が可能であるかのように思わせる「ゲームプレイトレーラー」が公開され、発売タイミングも2016年6月であることが明らかになり、その期待は更に大きなものとなっていく。

VGX 2013: No Man’s Sky

 その後、Hello Gamesの設立者であり、リード・ディレクターを務め、本作の発起人でもあるSean Murray氏は作品を広めるべく様々なメディアのインタビューに応じ、これから実現しようとしているアイデアについても積極的に語り始めた。そしてそれらの発言も「実際にゲームで実現できるもの」という前提として共有され、ユーザは『No Man’s Sky』にトレーラーで分かる内容以上の夢を抱くようになり、この頃にはもはや大企業が開発するようなAAA作品と同等の期待を背負うようになっていた。

 だが、実際に2016年を迎えると、一気に雲行きは怪しくなっていった。5月には2ヶ月のリリースの延期が発表され、マスターアップ完了後には作品がリークの被害に遭い、実際の作品が期待とは違う内容であることが発覚する。ユーザはリリース初日に配信されるアップデート、通称「Day1パッチ」に全ての願いを託したが、それも虚しく、ローンチを迎えた『No Man’s Sky』はお世辞にもユーザの期待に応えていたとはいえない仕上がりとなっていた。

 バグやクラッシュなどの不具合が頻発し、「宇宙での大規模な戦い」や「他のプレイヤーとの交流」といった事前に告知されていた要素の多くが実装されておらず、何より最大の目玉であるはずの自動生成による星々のバリエーションが極めて乏しく、トレーラーに映っていたような砂の惑星も存在しないし、それどころか川も流れていない(参考:https://www.vg247.com/2016/08/17/everything-missing-from-no-mans-sky-list/)。作品が約60ドルというフルプライスでの発売だったということもあり、期待を裏切られたユーザは激怒し、返金騒動が勃発。イギリスでは苦情を受けて広告規制局が「誇大広告」だったのではないかと調査に動く事態に発展した(後に「問題なし」と判定。参考:https://www.gamebusiness.jp/article/2016/12/05/12778.html)。Steamにおける当時のレビューは「ほぼ不評」という有様である。

 その後、数日に一度のペースで不具合を解決するためのパッチが配信されるようになるが、Sean Murray氏はリリースから間もなく「カスタマーサポートに集中する。それから改善や機能の追加に取り組む」というツイートを最後に、本作について沈黙を貫くようになり、「期待していた内容と、実際のゲームプレイが乖離している」という意見に対する回答はなかった。そして、『No Man’s Sky』は完全なる失敗作として扱われることになる。

選択肢としての「沈黙」と、常軌を逸したアップデートによる逆転劇

 だが、この「沈黙」は、決してユーザの声を無視するものではなく、トレーラーやインタビューで作品のハードルを高めてしまったことへの反省を踏まえての選択だった。沈黙から3ヶ月以上が経過した2016年11月27日、突如大型アップデートとなる『Foundation Update』が告知され、その翌日には配信を開始。アップデートの内容は基地建設やキャンプ、農業に大型貨物船といった新たなメカニクスや新たなゲームモードを導入する充実の内容となっていた。だが、それでもまだローンチ時の失敗を払拭するレベルではなく、ユーザの怒りは収まらなかった。

 しかし、Hello Gamesは諦めることなく開発を続け、2017年3月には宇宙船や地上走行用車両といった乗り物要素が大幅に強化された『Pathfinder Update』、リリースから一年を迎えた同年8月にはストーリーコンテンツの大幅拡充やマルチプレイ要素の拡充が行われた『Atlas Rises Update』が配信され、それらの要素は確かにユーザが望んでいたものであり、徐々にHello Gamesと『No Man’s Sky』はユーザからの信頼を取り戻すようになっていく。このアップデートは現在でも止まることなく続いており、2021年2月には通算16回目となる大型アップデート『Companions』が配信。各惑星に生息する生物をペットとして育成・同伴させることができるようになった。

 そして、これらの大型アップデートの結果、もはや『No Man’s Sky』はローンチ時点の原型を留めないほどに進化し、いつの間にか「トレーラーを見てユーザが実装されると思っていた」要素のほとんどが実際のゲームに反映されていたのである。それどころか、VR対応や追加ストーリーコンテンツ、大量のカスタム要素という、他のゲームでは「有料DLC」として配信されるような機能も無償で提供され続け、昨年Playstation 5 / Xbox Series X|Sが登場した際には、ローンチタイトルとして次世代機版を発表するに至っている(もちろんアップデートは無償だ)。今では惑星や生態系のバリエーションも大幅に進化し、クラフト要素も大量に拡充されており、ローンチ当時は「中身のないゲーム」と揶揄されていたのが、今ではまさに「一生かかっても遊び尽くせないゲーム」へと変貌を遂げている。2020年9月の大型アップデート『Origin Update』の際に公開されたトレーラーは、冒頭で紹介した2013年のトレーラーの内容に近い構成となっているが、もはやここには嘘は一つもない。それどころか、その映像より遥かに進化した世界が広がっているのだ。

No Man’s Sky Origins Launch Trailer

 Steamでの評価についても、ローンチ時点は「ほぼ不評」だったのが、最近のレビュー(2021年2月26日時点)では「非常に好評」へと変わり、ローンチ時点では作品への文句をぶつける場所となっていたredditの本作のコミュニティでは、2019年にHello Gamesへの感謝を告げるための看板を設置するクラウドファンディングが実施され、見事に達成している。その結果、2018年、そして2020年のThe Game Awardsでは名だたるタイトルを押さえて”Best Ongoing Game”を授賞したのを筆頭に、様々なアワードで表彰されるレベルのタイトルへと成長した。Hello Gamesはまさに、ゲームの歴史に残る“逆転劇”を実現したのだ。

 もちろん「当初の期待に完全に応えているかどうか?」という問いはユーザによって異なるだろうし、それは他のゲームにおいても同様だろう。だが、少なくとも『No Man’s Sky』はローンチで失敗したタイトルにおける希少な成功例であり、その評判も相まってしっかりと利益を生むことができている。だからこそ本作の成功は、冒頭で述べた通り、必ずしも理想的なローンチを迎えることができない、世界中のゲーマーや、あるいは大企業にとっても大きな希望となっているのである。

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