なぜ『Apex Legends』は“多様性”を重視する? レジェンドたちの個性に込められた「Respawn Entertainmentの姿勢」

なぜ『Apex Legends』は“多様性”を重視する?

 現在、日本国内において『Apex Legends』は一つのムーブメントとなっているといっても過言ではない。連日、多くの芸能人を含む様々な配信者によるプレイ映像/動画が大量に公開。先日の『RAGE PARTY 2021 powered by SHARP』などの様々な大会が開催され、多くのファンや観客を魅了している。以前より活発だった二次創作文化についても巨大化が進み、プロ/アマを問わず、多様なクリエイターによる作品が毎日のようにSNSなどを賑わせている。

 2019年2月のサービス開始から2年を経て、本作は間違いなく最大のピークを迎えている。そして、この勢いは、遂に3月10日より配信開始されるNintendo Switch版の登場によって、さらに加速していくことだろう。

※この記事には性的マイノリティ・障害者に関する言及があります。

「エーペックスレジェンズ」が2周年を迎えます

 先日、『Apex Legends』の公式サイトに掲載された『「エーペックスレジェンズ」の2年間を振り返る』(https://www.ea.com/ja-jp/games/apex-legends/news/two-years-of-apex-legends)というテキストにおいて、2010年のスタジオ設立時から開発元であるRespawn Entertainmentに所属し、本作のゲーム・ディレクターを務めているChad Grenier氏は次のように語っている。

「Respawnにとって、「エーペックスレジェンズ」はゲームを越えた存在です。この作品は人々を結びつけ、プレイヤーを結束させ、楽しませ、1日30分だけでも現実から心を解き放ってくれます。アーティスト、脚本家、配信者、コンテンツ制作者が自分を表現できる場所なのです。さらに、人々の多様性が重要であるという姿勢も示しています」

 このテキストは、多くのユーザにとっても強い共感を抱くはずだ。一方、最後の「人々の多様性が重要であるという姿勢を示している」という点については、そこまで意識していないという人々も多いかもしれない。

 だが、実は本作はビデオゲーム全体の中でも特に「多様性」を意識した作品となっており、それこそがゲーム自体の魅力や奥深さをさらに深める要因にも繋がっている。その象徴が、本作の主役でありプレイヤーの分身として活躍するプレイアブルキャラクター、通称「レジェンド」の存在だ。

 本稿ではこのタイミングだからこそ、Respawn Entertainmentの『Apex Legends』に対する「多様性に対する姿勢」がどのような形となってゲームに表れているのかを整理していきたい。

幅広い人種や文化を取り入れ創り出された、レジェンド一人ひとりを際立たせる個性

 現在、『Apex Legends』には合計16名のレジェンドが存在する。

 オクタン、クリプト、コースティック、ジブラルタル、バンガロール、パスファイダー、ヒューズ、ブラッドハウンド、ホライゾン、ミラージュ、ライフライン、ランパート、レイス、レヴナント、ローバ、ワットソン。

 本作のプレイヤーであれば、これらの名前を見てすぐにその姿を脳裏に浮かべることが出来るだろう。それは、どのレジェンドも明確に差別化されており、それぞれが極めてユニークな個性を持っているからである。レジェンドを特徴付ける最大の要素は、それぞれが持つバリエーション豊かな固有の能力(アビリティ)だ。攻撃から防御、索敵やサポートまで幅広く用意されたアビリティは、ただでさえ予測しづらいバトルロイヤルの戦況をさらに目まぐるしく変貌させ、本作の面白さの根幹を成す要素となっている。

 だが、レジェンドを創り上げているのは決してアビリティだけではない。本人の見た目や振る舞い、衣装(スキン)や言動、性格など、直接ゲームプレイとは関係することのない部分もまた、キャラクターを構成する要素となる。特に重要なのは、キャラクターのバックグラウンドでもある人種や出身といったルーツだ。本作は現在から約700年後の地球から離れた惑星を舞台とした完全なるフィクションだが、あくまで地球自体は存在する。そのため、レジェンドにはそれぞれ、現実世界と重なるようなルーツが与えられている。

 まずは、戦場をアグレッシヴに駆け回るオクタンを例に挙げたい。彼の決め台詞であり左腕にタトゥーとしても刻まれている<Plus Ultra>、ラテン語で「もっと先へ」という意味を持ち、スペインの国の標語としても使われている言葉だ。一方で、彼の話し方にはメキシコの訛りがあるのではないかという指摘もあり、彼のスキンの一つである「エル・ディアブロ」の名前の由来はメキシコでポピュラーなテキーラ・ベースのカクテルである。それは、彼がスペイン人の父親とメキシコ人の母親の元に生まれたという設定に由来しており(参考:https://twitter.com/tommiecas/status/1286708362382438404)、だからこそ両方の国の要素がオクタンのキャラクターに表れているのである。

Meet Octane – Apex Legends Character Trailer

 ほかにも、ハッキングを得意とするクリプトは、本名が「パク・テジュン」であることや、時折韓国語を話すことから分かる通り、韓国系のルーツを持っており、21歳という若さで武器改造屋を営むランパートはインド系イギリス人だ(参考:https://www.ea.com/en-gb/games/apex-legends/news/season-6-patch-notes)。チームを頼もしく支えてくれるジブラルタルがレジェンド選択画面でマオリ族の民族舞踊であるハカを踊り、パトゥ(ウォークラブ)を模した近接武器を振るうのは、彼がポリネシア人としてのルーツを持つことに由来している(参考:https://www.youtube.com/watch?v=MHncMPXVmwE)。これらの要素はあくまで一部分にすぎず、(特に公表されていないものを含め)レジェンドのルーツはここでは書ききれないほど非常に広範囲に及んでおり、そこにある様々な文化がキャラクターを表現する要素として取り入れられている。だからこそ、16名という大人数となった今でも、レジェンド達は誰もが強い個性を放ち、唯一無二の魅力を持っているのである。

様々な性のあり方を持つレジェンドが、ただ自然に共存しているという描き方

 最新シーズンであるシーズン8から参戦した新たなレジェンド・ヒューズについても、作品初となるオーストラリア人としてのルーツを持つキャラクターとして描かれており、国民食であるバーベキューを彷彿とさせる火炎特化型の能力で戦場をさらに激しく盛り上げている。そんな豪快な彼だが、公式サイトの紹介文には次のような説明がある(参考:https://www.ea.com/ja-jp/games/apex-legends/about/characters/fuse)。

「Lady’s man, man’s man,(日本語 : 「性別を問わず圧倒的な人気を誇る男の中の男」)」

 このテキストに疑問を抱いたあるプレイヤーが、リード・デザイナーのAmanda Dorion氏にTwitter上で「これは彼が物凄く男らしいということなのか、それともクィアであることを指すのか」を訪ねたところ、笑顔の顔文字と共に非常にシンプルな回答が返ってきた。

「He's pansexual.(彼はパンセクシュアルだよ。)」(参考:https://twitter.com/AmandaDoiron11/status/1355269640683835392)
※パンセクシュアル : あらゆるジェンダー・アイデンティティーに惹かれること、あるいはジェンダーに関係なく人に魅力を感じること

ヒューズの紹介 – エーペックスレジェンズ キャラクタートレーラー

 『Apex Legends』における多様性は人種や国籍だけではなく、性自認や恋愛指向といったセクシュアリティも含まれている。それはルーツと同様にキャラクターの設定として与えられているものであり、こちらもレジェンドを構成する重要な要素だ。作品内にはシスジェンダー/ヘテロセクシュアルに限定されることなく、現実世界と同様に様々な性のあり方を持つレジェンドが存在しており、ヒューズ以外にはジブラルタル(性的指向:ゲイセクシュアル、参考:https://www.ea.com/ja-jp/games/apex-legends/about/characters/makoa-gibraltar)、ブラッドハウンド(性自認・性表現:ノンバイナリー、参考:https://twitter.com/PlayApex/status/1353065485181480960)、ローバ(性的指向:バイセクシュアル、参考:https://twitter.com/tommiecas/status/1260315372391002112)がクィアなレジェンドとして描かれている(ちなみに公式サイトのジブラルタルの紹介文には「男友達」と記載されているが、これは「恋人」の誤訳)。

 そして、本作における取り組みの重要な点は、公表の方法が示す通り、レジェンドたちがステレオタイプを強調したり、企業が“配慮”をアピールするための材料に使われることなく、自然に共存しているという点であろう。唯一、ジブラルタルについてはシーズン7中に公開されたコミックにおいて、元恋人であるニックと再会し、複雑な感情を抱く様子が描かれていたが、それもあくまでシンプルな恋愛ドラマとして描かれており、解説役を務めたオクタンも、ジブラルタルのセクシャリティを特別に取り上げることなく〈おぉ、元カレのニックじゃねぇか!〉と、あくまで「元恋人の登場」に驚くような描かれ方をしている。

 また、あくまで上述のレジェンドは開発者が公表したためにセクシュアリティが明らかになっているというだけであり、ほかのレジェンドについては特に言及していないため、セクシャリティが分からないというのも本作における特徴の一つである。それを象徴するのが当初は婚活サイトに登録する様子(参考:https://www.ea.com/ja-jp/games/apex-legends/about/characters/mirage/story)などから、ヘテロセクシュアルであると認識されていたミラージュだ。

 昨年8月より実施されたシーズン6のクエストコミックにて、ミラージュは親友であるパスファインダーがアッシュと交際を始めたことに嫉妬心を抱いており、そのことをランパートに突っ込まれた際、<俺のセクシャリティが曖昧だってことにして誤魔化すなよ。(Don’t you go using my already-standing-in-quicksand sexuality issues to confuse me.)>と返答する場面があった。どうやらミラージュは自身のセクシャリティを曖昧なものであると考えており、このことから、ミラージュのセクシャリティは「クエスチョニング、あるいは流動的なもの」としていることが示唆された。これは、長期的に運用されることで物語が変化していく、ゲームならではのセクシャリティの描き方であると言えるだろう。この発言についても、あくまでコミックの何気ない一つの場面として描かれており、あくまで自然に描こうとする姿勢が貫かれていることが分かる。

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