『CoD』や『フォートナイト』を押さえ、『TGA2020』でBest Ongoing Game受賞ーー『No Man’s Sky』が果たした“大逆転劇”とは
なぜ『No Man's Sky』は復活することができたのか?
ゲームの歴史において異例とも言える本作について、2018年、久しぶりのインタビューに応じたSean氏は当時の事を振り返りながら次のように語っている。
「リリースを巡っては、狂ったようなノイズやドラマ、熱気があった。だけど一歩引いてコメントを読んでみるんだ。すると『この人は本当にこのゲームを愛したいと思っている。でもインベントリの存在が彼を乱してしまっているんだ』と分かる。そして思うんだ、『なんてことだ、僕はそれを直せるじゃないか』って」(筆者訳、参考:https://www.ign.com/articles/2018/08/18/sean-murray-on-the-present-past-and-future-of-no-mans-sky)
そして実際にユーザインタフェース周りを改善したことが最初の『Foundation Update』へと繋がっている。高い希望を持つユーザ目線でありながら、現実的でもある姿勢こそが、『No Man's Sky』の逆転劇を成功させた理由だと言えるだろう。ローンチを巡る混乱の中でも、冷静にユーザが求めている要素を抽出し、対応可能であれば開発を進め、完成したタイミングで公開する。これがHello Gamesには合っている進め方であり、これでもし、ローンチ以前と同様に、実現可能かも分からない段階でロードマップを提示していたとしたら、対応の遅れや未実装によって再びユーザの怒りを買っていたかもしれない。
また、結果としては『No Man's Sky』がローンチ時点で大ヒットしていたという事実も、Hello Gamesを後押しする要因となっただろう。少なくとも、世界中の多くのユーザのPCやゲーム機には本作が入っており、そこには18京個もの惑星で構成される宇宙が広がっているのである。彼らは、そのポテンシャルを信じていた。また、壮大な野心で生まれた本作と、少なくともそれを形にしたチームメンバーに対する誇りもあった。
2019年に実施されたインタビューでは、Hello GamesやSean氏をここまで動かした理由について、「ゲームをポジティブなものとして遺したかった」と語っている。また、それは本作を作り上げたチームに対しても同様だった。
「チームは十分に働いていなかったとか、怠け者だとか、そういう一般的な意見が辛かったし、胸が傷んだ。私たちはみんなに自分たちが成し遂げたことを誇りに持ってほしかったし、人々が好むものを作り上げたと感じてほしかった」(筆者訳、参考:https://www.theverge.com/2019/4/2/18280799/hello-games-sean-murray-no-mans-sky-interview-gdc-2019)
そして、本作の成功の要因にはHello Gamesが小規模なインディー・デベロッパーであるという事実も挙げられるかもしれない。大規模なプロジェクトの場合、チームの規模は数百人レベルへと膨れ上がる。また、制作資金も肥大化し、資本家やパブリッシャーとの依存関係も更に強力なものへと変わっていく。そうすると、冷静に状況を考えたり、プロジェクトメンバーと真摯に向き合うというシンプルなことでも、難易度は更に高くなっていく。また、そもそも前提として、度重なる無料の大型アップデートはビジネスを度外視した上での判断である。だからこそ、筆者個人としては「『No Man's Sky』ができたのだから、この作品だってできるはずだ」という考え方が浸透するのは、実はあまりポジティブなことではないと考えている。
もちろん、Hello Gamesや『No Man's Sky』から学べることは非常に多い。だからこそ、ユーザとしては、あくまで冷静な視点を持って、作品や企業を見守っていくことが重要なのではないだろうか。何よりも本作を支えていたのは、ローンチの混乱の中でも、決して見放すことなく、本作にある可能性を信じてフィードバックを送り続けていたプレイヤーの存在である。
また、現在、Hello Gamesの活動は『No Man's Sky』だけには留まらず、2020年には小規模ながら可愛らしいキャラクターが印象的なパズルアドベンチャー『The Last Campfire』をリリースしている。3月25日に発表を予定しているBAFTA Games Awardsでは、『No Man's Sky』が"Evolving Game"部門、『The Last Campfire』が"Best British Game"部門にノミネートされており、新旧のタイトルが揃って評価されるという極めて理想的な状態となっている(参考:https://www.bafta.org/games/awards/2021-nominations-winners)。また、なんと『No Man's Sky』に匹敵する大規模プロジェクトに取り組んでいることも明かしている(参考:https://www.polygon.com/interviews/2020/9/2/21418166/hello-games-no-mans-sky-last-campfire-apple-arcade-interview-next-game)。だが、その全貌が明らかになるのは当分先のことになるだろう。
■ノイ村
92年生まれ。普段は一般企業に務めつつ、主に海外のポップ/ダンスミュージックについてnoteやSNSで発信中。 シーン全体を俯瞰する視点などが評価され、2019年よりライターとしての活動を開始
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Twitter : @neu_mura