「ありのままの生音質」を実現する磁性流体ドライバーって何? テクニクスの最新TWS『EAH-AZ100』の実力

テクニクス『EAH-AZ100』

 パナソニックが展開するHi-Fiオーディオブランド・テクニクスが完全ワイヤレスイヤホンのフラッグシップモデルとなる『EAH-AZ100』を1月23日に発売する。価格はオープンで市場想定価格が3万9600円前後の見込みだ。テクニクスは2020年4月発売の『EAH-AZ70W』で完全ワイヤレスイヤホンに参入。

 その後、ハイレゾ対応の『EAH-AZ60』(2021年10月)、クリア音質と心地よい装着感を追求した『EAH-AZ80』(2023年6月)を経て、満を持してのフラッグシップモデルの投入となる。

 テクニクスブランドは1965年発売のスピーカー『Technics 1』から始動。安定した回転に定評のあったダイレクトドライブプレーヤー『SL-1200』(1972年発売)はその後、40年近く生産され続け、DJ文化の創生に大きく貢献した名作だ。2010年にブランドとして一旦終息したが、2014年に再び高級オーディオブランドとして復活。その後、美音にこだわる大人たちを中心に根強い愛好家から高い支持を得ている。

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 新製品の『EAH-AZ100』を実際に試聴した印象は、とにかくニュートラルで心地よい美音だということ。これがテクニクスがこだわり続ける、ありのままの音、生音質なのだろう。完全ワイヤレスイヤホンの音質は年々向上しているが、そのなかにあっても突き抜けている感がある。『EAH-AZ100』の美音を支える要因はいくつもあるのだが、なかでもとくにいい仕事をしているのが、完全ワイヤレスイヤホンで業界初となる磁性流体ドライバーの搭載と、高音質を届ける『AZ100』専用イヤーピースだ。

磁性流体で振動板の遊びをゼロにすることで音の歪みを抑える

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 ドライバーに搭載した磁性流体は磁力を持つ液状の物質で、これをドライバー内のマグネットとボイスコイルの間に挟むことで振動板をしっかり固定し、振動板の揺れによる音の歪みなどを軽減している。上の図を見るとわかりやすいが、通常の一般的なドライバーでは、マグネットとボイスコイルの間に微細な隙間があるため、上下のストローク運動を正確に制御しきれず、その結果、音に歪みが生じている。『EAH-AZ100』では磁性流体でその隙間を完全に埋めることで振動板を固定。正確なストローク運動による音楽再生が可能となる。ただでさえ、ミニマムな本体のなかに液状の物質を組み込むとは、なかなか至難な技だったと推測するが、そこまでして美音にこだわるのがテクニクスというブランドたる所以。磁性流体の搭載は、2019年発売の有線インサイドホン『EAH-TZ700』ですでに実現しており、その技術にアルミニウム振動板や極薄エッジなどを加え、完全ワイヤレスイヤホンでの磁性流体ドライバーの搭載を実現させた。

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 「基本的な構造は変わりませんが、マグネットとボイスコイルの間に磁性流体を装填して、エッジと磁性流体の2点で振動板を支えているのがキモです。これによりボイスコイルの遊びがゼロになり、低歪みで音源に忠実な音が再生できます」とは磁性流体ドライバーの開発を担当したパナソニック エンターテインメント&コミュニケーションのハード設計部・田中悠さん。

 「一番大変だったのは高音質と小型化の両立。コンパクトなボデイのなかに音響機構やマイク、各種基板がレイアウトされており、これを全部なかに収めるためには、磁性流体ドライバーの小型設計が重要課題でした。テクニクスブランドの製品として、性能を落とすことなく小型化を実現しました」(田中さん)

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 人間工学に基づくコンチャフィット(耳の窪みにフィットする)形状に加え、さらにもうひとつ、とくにこだわっているのが『AZ100』専用イヤーピースだ。音質を追求するには剛性が必要だが、その分硬くなる。反対にやわらかくすると装着感は向上するが、一部の音が逃げてしまうなど音質に影響が出る。そんな矛盾する2つの要素を実現するために、『AZ100』のイヤーピースでは硬度を3種類に分けた3層構造にすることで、必要な音を逃さず生音質を鼓膜に届けつつ、長時間装着しても快適なフィット感を両立させている。イヤーピースの形状試作では、コンチャフィットの形状試作と合わせて400種類以上を製作し、延べ259人の装着試験を経て、装着感に関して評価の高かったものと、テクニクス基準の音質性能を維持できる形状を選定した。

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 「音質はドライバーだけではなく、機構にも大きく影響していて、そのひとつが装着性。実は装着性と音質には密接な関係があるのです。社内で何度も何度も装着テストをやってもらったので、しまいには音響担当の田中くんの耳がおかしくなってしまうのではないかと、若干心配でした」とは装着性を担当したパナソニック エンターテインメント&コミュニケーションの機構設計部・竹重亮汰さん。

 長年日本のものづくり現場を取材してきた筆者としては、音楽を愛するすべての人に感動を与えたいという、テクニクスの想いが若い開発エンジニアたちへ着実に受け継がれているのもうれしい。

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 あくなきまでの生音質へのこだわりに加えて、イマドキのライフスタイルにマッチした基本性能も充実。業界トップクラスのノイズキャンセリング機能に、AI搭載新チップ採用による通話品質の大幅な向上、空間オーディオに対応などがあるが、なかでも個人的に便利だと感じたのが、完全ワイヤレスイヤホンで業界初となる受話時のノイズ除去だ。

 新機能の「Voice Focus AI」の搭載で、送話時のノイズ除去に加え、通話中に自分に届く受話側のノイズまで除去してくれる。つまり、電話時に『EAH-AZ100』を使えば、自分が話す声も、相手の話す声もノイズレスなクリア音質で通話できるというわけ。この機能も実際に体感してみたが、周囲が騒がしい環境下にある相手からの電話音声が聴き取りづらく不便な思いを結構していた小生にとっては、まさに感激的な機能だ。受話側のノイズ除去はデフォルトでは「OFF」になっているので、スマホアプリで「手動でON」にすると有効になる。

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 通勤中やプライベートで音楽を楽しむだけでなく、リモートワークやオンライン会議などでの利用など、イヤホンを装着する時間が長くなったいまだからこそ、高品質なイヤホンを選ぶ価値がある。その点で、テクニクスの『EAH-AZ100』は最適解のひとつと断言できる。

◯製品概要
Technics『EAH-AZ100』
オープン価格(市場想定価格39,600円前後)
1月23日発売

テクニクスの完全ワイヤレスイヤホンのフラッグシップモデル。ドライバー/アルミニウム振動板10mmドライバー Bluetooth/Ver.Bluetooth5.3 対応コーデック/SBC、AAC、LDAC、LC3 防水性能/IPX4相当(イヤホン本体のみ) 質量/イヤホン:約5.9g(片耳)、充電ケース:約42g 充電時間/イヤホン:2時間、充電ケース2.5時間 最大再生時間/約28時間(充電ケース含む)、約10時間(イヤホン本体) カラー/シルバー、ブラック。https://jp.technics.com/products/tws/az100/

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