コロナ禍で大ヒット、Netflix『タイガーキング』に学ぶドキュメンタリーの新たな形

コロナ禍で大ヒット、Netflix『タイガーキング』に学ぶドキュメンタリーの新たな形

 新型コロナウイルスを象徴するコンテンツといえば、なんといっても『タイガーキング:ブリーダーは虎より強者⁈』でしょう。公開時期から空前のヒット、その後を求めるファンの声と後日談。全てにおいて新型コロナウイルスが関わっています。今日は、そんなNetflix独占ドキュメンタリー『タイガーキング』と時代を考察していきたいと思います。

『タイガーキング:ブリーダーは虎より強者⁈』とは

 『タイガーキング:ブリーダーは虎より強者⁈』は、3月20日にNetflixが配信したNetflixのリミテッドシリーズのドキュメンタリーです。「アメリカ合衆国内で飼育されている虎の数は、野生の虎の数を上回る」という衝撃のトリビアで幕を開け、トラの動物園を運営するジョー・エキゾチックや、若い女性を囲っては豊胸手術を受けさせているカルトリーダーのようなブリーダー、麻薬王、詐欺師といった一癖も二癖もある人たちが次から次へと登場します。しかも、ジョー・エキゾチックはライバル視している動物愛護運動家のキャロル・バスキンの暗殺を企て、22年の有罪判決を受けています。どこをどう切り取っても“ヤバ”く、想像の斜め上をいく展開が待ち受けているので、セリフをひとつ聞き逃したり、字幕をひとつ読み損ねただけでストーリーを追っていけなくなるほど。その異常さが、新型コロナウイルスのパンデミックによる自粛生活で、刺激に飢えていた人たちの心をつかみにつかんで、想像以上の大ヒットとなりました。

時代を色濃く反映した作品

 映画は時代を反映します。例えば、古いところで言うと、『影なき狙撃者』(62年)や『猿の惑星』(68年)といった1960年代に作られた作品は、核の時代やベトナム戦争、政治的暗殺や社会変革といった当時のアメリカの社会を反映しています。また、 1970年代のフェミニズム運動後、ハリウッド映画における女性の立場も変化しました。以前は男性に守られたり、サポートする役だったのが、男性と同等もしくは男性をリードする役として描かれるようになりました。カメラの画素数や劇中で見られるテクノロジーの数々、有色人種の比率やヒットの傾向にも、その時代の流れを感じることができます。

 『タイガーキング』も、まさに「今」を映し出した作品です。ただ本作の場合、内容というよりも作品がヒットした背景や、その後のエピソードが時代を反映していると言えるかもしれません。

 まず、本作は「一部完結」を意味するリミテッドシリーズで7話完結として配信されましたが、登場人たちのその後を知りたがる声が多かったため、4月12日に『タイガーキング』の後日談となる『Tiger King and I』がリリースされ、全8話構成となりました。ロックダウンでNetflixの利用率が上がっていたとは言え、ドキュメンタリーがここまでヒットし、求められることは滅多にありません。

 そして、この『Tiger King and I』はロックダウンの最中に急遽作られたため、リモートインタビュー形式で撮影されています。セレブリティのインタビューがリモートになることはよくあることですが、それは映画のプロモーションをしたいけれどスケジュールの都合で対面式のインタビューができないといったケースが多く、パンデミック中だからという理由は極めて珍しいと言えるでしょう。

 さらにジョー・エキゾチックが服役中の刑務所で、COVID-19の陽性反応となった受刑者が出たことで隔離されたというニュースが尾鰭をつけて周り、「『タイガーキング』のジョーがCOVID-19に罹患し病院に搬送された」というフェイクニュースが流れたことも、『タイガーキング』=新型コロナウイルスと考えられる要因となりました。

『Tiger King and I』の2つの効果

 さて、ファンの熱狂に押されて急遽作られた追加配信されたボーナスコンテンツ『Tiger King and I』ですが、大きく分けて2つの効果がありました。まずひとつは、スカイプインタビューを編集してそのまま1本の追加コンテンツにしたジャンルを開拓したこと。司会を務めた俳優/コメディアンのジョエル・マクヘイルの態度と、単調なカメラワーク(当たり前ですが)、番組のメインキャストではなくサポートキャストしか集められなかったという点はバッシングの対象となりましたが、それでもロックダウンの中で、ひとつのドキュメンタリーをサブスクリプションのストリーミングで流した、ということに意味があったと考えられます。

 もうひとつが、ボーナスコンテンツが配信されたことで、『タイガーキング』がドキュメンタリーというよりも娯楽によせた内容だったことが明らかになったことです。『Tiger King and I』では、ジョー・エキゾチックが運営していた動物園の従業員で、トラに腕を食いちぎられたサフ(劇中ではケルシーの名で紹介されていましたが、トランスジェンダーでありサフと呼ばれることを望んでいます)が、「ジョーの動物虐待や殺人計画は議論の余地がないとは言え、『タイガーキング』で描かれているような狂人一辺倒ではなく、感謝祭の日は毎年手料理を振る舞うなど、良い行いをしようとしていたことに言及されなかったことは不公平だ」と伝えています。また、ジョー・エキゾチックのドキュメンタリー番組を作ろうとしていたエリック・カークマンは、ジョーと過ごした時間の中で目撃した動物に対する非情さや虐待は、『タイガーキング』で描かれているよりも酷かったことを明かしています。

 このような後日談が配信されたことで、ジョーと言う人間性を掘り下げた記事や、『タイガーキング』が事実と異なると主張する記事が散見されるようになりました。それだけでなく、登場人物が画面に再び登場し、反論に近い声を上げたことで、ドキュメンタリーはあくまでも形を変えたエンターテイメントであることを印象付けられました。

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