『紅白』AI美空ひばり、輝夜月、池袋harevutai制作者が考える、2020年の“バーチャル・ビーイング論”

『紅白』AI美空ひばり、輝夜月、池袋harevutai制作者が考える、2020年の“バーチャル・ビーイング論”

 『NHK紅白歌合戦』の演出をはじめ、「エンタメ×テクノロジー」の分野で、二次元・三次元にまたがる企画、演出から制作まで幅広い領域を手掛けているクリエイティブカンパニー・stuによる連載がスタート。

 第一回目となる今回は、同社からヴァイス・プレジデント/3DCGプロデューサーの今村理人氏、アート&テックディレクターの渡辺大聖氏、CGディレクター/ビジュアルプログラマーの高尾航大氏を迎え、直前に迫った『第70回NHK紅白歌合戦』での演出や“AI美空ひばり”に使われたテクノロジー、人気バーチャルシンガー・輝夜月のVRライブや、池袋にオープンした”未来型劇場”harevutaiと、同社の手掛けた「ホログラムアーティスト」「VTuber」などの話を交えながら、エンタメ領域における「バーチャルビーイング(Virtual Being)」の話について議論を深めていった。(編集部)

「このチームは現実のライブとバーチャルのライブがシームレスに繋がっている」

ーーお話の前提として、今回のテーマとなる「ホログラムアーティスト」「VTuber」については、「バーチャルビーイング」領域と定義して進められればと思います。まず、stu社がこの領域のプロジェクトへ最初に着手したのは?

今村:最初は、弊社CEOの黒田(貴泰)が、初音ミクのコンテンツを手がけるところから始まりました。次は僕と黒田が4年前にX JAPANのhideさんをホログラムで「hide crystal project presents RADIOSITY -prologue-」として復活させ、そこから昨年に高尾が手がけた輝夜 月のVRライブがあり、今年は私の担当したAI美空ひばりと、渡辺が関わっている池袋のharevutaiがある、というような流れですね。

ーーhideさんのプロジェクトは発表当初、凄まじい反響がありましたね。

今村:この企画については、今村としてはCG制作の立場で途中から関わらせていただきました。当時はマイケル・ジャクソンのホログラムによる“復活”が話題になっていましたし、hideさん自身も「デジタルになって蘇る」と生前にお話しされていたこともあって。亡くなられた方を蘇らせるというのは、モラル的にどうなんだという部分もあるんですが、先ほどのご本人の発言もあり、ファンの方からも大きな批判がなかったため、実現に向けて大きく前に進みましたし、このような形で人に感動してもらうことができるんだ、という感覚を得ることができたのは、自分の中でも大きな収穫でした。

高尾:僕は輝夜 月さんの企画に携わる以前は彼女のことを知らなかったんですが、世代的にVR自体が身近にあるなかで、目の前に実現するバーチャルライブをどうすべきか、すごく迷っていました。

今村:せっかくの機会なので、僕から2人に聞きたいことがあります。僕らのように以前からずっとモーションキャプチャーを作っていたわけではなく、2人は過去の技術を使いつつも、まっさらな状態で新しいものを取り入れたからこそ、面白いものになったんじゃないかと思っていて。その辺はどうですか?

高尾:僕は元々、空間演出の仕事をしていたんですが、ライブというジャンルに挑戦することになったときに、いわゆるライブっぽいものではなく、ディズニーランドのような空間演出が好きなことを踏まえて、結果的に自分の好きなものを詰め込んできたことが大きいです。あとは、「こういうものがあったら面白いけど、実際のライブでは絶対にやらない」ということをかなり盛り込みました。実際に輝夜 月が飛んで行ったり、目の前で爆発したり。確かにまっさらなところから、今までの枠組みに囚われないやり方はできたのかなという気はしてます。

渡辺:そういえば、高尾くんは僕が1月に総合演出で参加したライブをサポートしてくれたんですが、そこで飛ばした「フライングハート」(ハートが降り注ぐ演出。実際のライブではハート型の紙が、VRライブではハートのオブジェクトが飛び交った)を輝夜 月のライブに取り入れていたのにも驚きました。あれはその時のライブを踏まえてのもの?

高尾:いえ、先方からのリクエストもありつつですが、VRの中で飛ばしたいという提案はこちらからしました。

渡辺:なるほど。現実のライブでやるとしたら、1発打つのに結構なお金がかかるんですが、VRなら予算を気にせず飛ばしまくれるから、いいなーと思い(笑)。

高尾:6万枚くらい飛ばしたので、現実のレートに換算すると6000万円分くらいですね(笑)。

渡辺:紅白歌合戦の演出でも使っている、リアルタイムのバーチャルセット『シンクシステム』にも言えることなんですが、実際の照明や電飾を使うとすごくコストがかかるところが、バーチャルの空間を使って実現できるというのは、体験の変化としてかなり大きいものだと思います。またクリエーター側から見ても、やれることが全然変わってくる、という二方向の文脈があるんじゃないかと考えるようになりました。

ーー技術的には可能だったかもしれないけれど、予算や設備など、現実的にできなかったことが、バーチャル技術の向上により一気に現実味を帯びてきたと。

渡辺:そのうえ、現実世界でもLEDがあれば映像を出力できて、リアルな演出として使うこともできるわけですし、カメラを通すことができれば、AR的な要素も付与できる。この文脈を深掘りしていくと、今までのライブ、エンターテイメントとは違う、もう一次元上のものが出来上がるんじゃないかという予感がしています。だからこそ、このチームは現実のライブとバーチャルのライブがシームレスに繋がっていると考えていて、お互い得るものがあり、共通するアセットがあって、それが繋がっていくと1つのプロダクトパッケージになってくるんだろうなと思っています。

ーーその考え方は、stuという社名の元にもなっている「アルファベット・VとRの間の文字であり、リアルとバーチャルを横断的にまたいでクリエイティブを形にする組織」という理念ともマッチしていますね。今村さんはAI美空ひばりプロジェクトにおいてVFXデザイナーとして関わっていますが、実際の動きはどのようなものだったんでしょうか。

今村:今回CG制作自体はアニメーション・カフェというプロダクションで行なっているのですが、stuとしては、全体のCG制作プロデュースという形で関わっています。今までの経験にもとづいてどういう風にCGとしてライブを演出するか、どういう形でモーションキャプチャーを使っていくか、などを考え実行する部分を担当している形です。

ーーそのあたりで、hideさん復活プロジェクトでの経験は活きたのでしょうか。

今村:そうですね。この2プロジェクトは同じ文脈の上にあると思いますし、そこまで大きな技術的変化はないような気がします。CGという文脈だと、10年以上前にハリウッドで『アバター』を作った頃から、デジタルヒューマンを作る技術はほぼほぼ確立されていますから。ただ、本来の要望は「リアルタイムで動かしたい」というものだったので、ここを実現するのは技術的に難しいところでした。もっとも、リアルタイムモーションキャプチャーの分野がかなり伸びてきたので、1~2年後にはそのあたりまで手が届きそうです。

ーーhideさんの時との違いとしては、投影のための新しい紗幕スクリーンを新たに採用したことが挙げられます。

今村:hideさんの時は、DMM VR THEATERの仕組みーーハーフミラーを使ったシステムを使っているんですが、あれは非常に輝度と反射率が高いのですが設置などが大掛かりになり今回のようなステージでは不向きなところがありました。また現在のCGキャラクターライブなどはDILADボードという透明な板に後ろと前から映像を当てているんですが、どうしても透けてしまうんです。それに比べて今回の新しい紗幕スクリーンは、絵がしっかり残るし、動いても不自然に見えないので、この舞台にぴったりだと思って導入しました。仕組みとして今後は、ここに『シンクシステム』を乗せて最終的にはもっとバージョンアップしたものになる予定です。

ーー渡辺さんはharevutaiなどを手がけていますが、今村さんや高尾さんがこのように築いてきたアセットをどのように活用していったのでしょうか。

渡辺:僕は学生時代からデジタルアートに関わる会社でプロダクトを開発したりライブ演出に関わらせてもらったりしていました。その当時、BUMP OF CHICKENや嵐、AKB48のツアーなど、大きなアーティストの案件が多かったので、自分のなかでのライブ演出のスタンダードが、そのあたりの規模のアーティストになっていったんですよ。

ーーかなり大規模なアーティストの演出がベースになっていたと。

渡辺:色々紆余曲折があって、自分の会社を22歳の時に作ったんですが、その会社でライブエンターテイメント×テクノロジーを使った演出のクロスオーバー部分を手掛けていこうと考えていたものの、「圧倒的に予算が出てこない」という壁にブチ当たったんです。

ーーと、言いますと?

渡辺:例えば、「ライブでプロジェクションマッピングをやりたいんです」と言われて、自分の予算感で2000万~3000万を普通に提案したら、目玉が飛び出るんじゃないかぐらいの反応をされて。「50万しかないんですけど……」みたいに泣きつかれることが多かったですし、クライアント側にもテクノロジーに理解のある人が少なすぎて、なぜここまでお金がかかるのかを説明しても理解してもらえなかったりして。当時は「昔から業界に居座っている人たちがこれまでのやり方で仕切っていて、若者の意見は通じないんだ」と悟らざるを得ませんでした。

ーー4~5年前の温度感がそうだった、というのはかなり理解できます。

渡辺:結局、この時に「この人たちに理解してもらうのは現状難しいから、しっかりした母体・組織を作り上げて、大きな規模感のものを予算のあるところと組んでやっていくことが重要だ」と思いました。

ーー内側から変えようとするよりも、むしろ少し遠回りして、早々に対等に渡り合う力を身に付けたと。

渡辺:そうです。stuでは自分が思い描くライブシステムの効率化や演出の仕方を会社としてどんどん売り込んでいくことができていますし、理解してくれるパートナー企業もどんどん増えてきた上に、音楽業界全体がテクノロジーを取り込んで行こうという風向きが強くなって来たので、タイミングとしては遠回りして結果的に良かったなと思えるようになりましたね。

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