AIにとっての“自意識”や“感情”とは? 海外文献や実例から読み解く
『2001年:宇宙の旅』のHAL9000や『ブレードランナー』のレプリカント、『攻殻機動隊』の多脚戦車など、SF作品の中で人間のような外見、振る舞い、または感情を表明するロボットやアンドロイドが登場する際、頻繁にそれらの「意識」や「感情」が問われる。しかし、ロボット(※この特集では人間のような思考をするよう、高度な人工知能(AI)を搭載したものだという前提で話す)にとっての「意識」や「感情」とはいったいどのようなものだろうか? そして、現段階ではそれを実現する技術がどの程度進んでいるのだろう。 最終的にはスパイク・ジョンズ『her』やアレックス・ガーランド『エクス・マキナ』でのような、AIが人間の意識と深く連関し合い、恋愛関係が起こりうるのだろうか?
驚異的な勢いで進化しつづける技術を目の前に、私たちは少し立ち止まり、この世界に大きな変化をもたらすAIについて、冷静に見つめ直すときが来たのではないか。少なくとも、筆者はそう感じている。
AIの自意識はどこにあるか? 海外文献を読み解く
「ロボットの研究をすることは、「人間とは何か」という問題を考えることと切り離せない。僕は、『人間を理解する』ためにロボットを研究しているわけです。」世界的なロボット工学者の石黒浩はこのように語った。
ロボットと人間の違いについて考えるとき、多くの人は「感情」や「意識」の有無をあげるだろう。しかし、そもそも「感情」「意識」の定義はとても曖昧であり、今もさまざまな専門家の間で議論されつづけている。今回の記事では、感情のしくみと意識とは何かについて説明し、AIに意識や感情が生まれたらどうなるか、考察していきたい。
感情はどこで作られているのか?
名古屋大学で感情心理学を研究する大平英樹によると、感情は扁桃体と前頭前野の二箇所の脳の働きによって生成されるという。まずは扁桃体と前頭前野について、文献を辿りながら解説してみたい。
感情を作り出すメインとなる脳の神経細胞、扁桃体
扁桃体の起源はとても古く、爬虫類もほぼ同じものを持っている。大脳辺縁系の一部の神経細胞であり、ここが興奮すると、恐怖心などの感情が湧く。
扁桃体は何かを見たり聞いたりしたとき、それが何であるかを一瞬のうちに評価して命に関わるような大事な判断を行っているため、我々の持つ「好き」「嫌い」などの感情は、生き物が生きていくために不可欠な感情なのである。
感情をコントロールし、人間が人間らしく振る舞うための領域、前頭前野
一方、前頭前野は最も起源の新しい脳である大脳皮質の領域を指す。扁桃体が暴走する傾向にあるとしたら、ここが扁桃体の興奮を自動的に制御し、理性的で論理的な思考を可能にする。扁桃体に比べて、前頭前野は生き物の中でも人間が最も発達している部分であり、人間が「人間らしい感情」を振る舞うための大事な機能を果たす領域なのだ。
人間の感情のしくみを真似した「Pepper」
実際、感情のしくみを応用したロボットがすでにある。それはおなじみのソフトバンクの「Pepper」君だ。
携帯ショップや薬局、最近は居酒屋などでも見かけるPepperは、人間の感情のしくみを真似して「自らが感情を持ったロボット」として普及している。
Pepperには「感情マップアプリ」と呼ばれるフレームワークが実装されており、周りにいる人間の感情をセンサーで読み取ることで、それに対応して会話をしたり、動きで感情を表明したりする。
ソフトバンクの孫社長によると、人間の脳で生じる思考や感情などの心の動きは「見る」「聞く」「触れる」「知る」などの外部からの刺激があり、「内分泌型多層ニューラルネットワーク」で刺激に対する物質の内分泌が行われ、ホルモンの相互作用によって感情が起きるしくみになっている。孫社長は「ホルモンのバランスが人の感情のバランスに影響を与えている」のだと話し、Pepperについてはこのホルモンの働きを搭載されているAIでシミュレートしていると説明した。