ARPの"お義父さん"、ユークス・内田明理に聞く「生身のタレントにはできないライブ体験」の裏側
キャラの自撮りに集約される技術の結晶
ーーARPを構成するシステム「ALiS ZERO」を作る上で、ここまで様々な試行錯誤があったと思いますが、一番大変だった点はなんでしょうか。
内田:技術パートそれぞれで意見は違うと思いますが、やはり遅延のギャップの埋め方と、バックアップ体制ですね。1つ目のレンダリングマシンが駄目になった時、わからないように切り替えたり。実は、1台目は倒れてましたなんてことがあとでわかったこともありました。
ーー演者さんの個性でキャラが成長していくという話がありましたが、技術面の向上によってキャラが変わっていった部分もあるのでしょうか。
内田:わかりやすい面で言えばダンスですね。最初のころは激しいダンスパートは一部モーションキャプチャのデータに差し替えていたりしましたが、今は激しいダンスもリアルタイムでできるようになりました。今は、アドリブでどんなダンスでも披露できるようになっています。
ーー技術の話ですと、ARPの4人がステージで自撮りをして、観客席と一緒に映り込むパフォーマンスをやっていましたね。ああいうのを観ると、本当に彼らがその場で観客と同じ空気を吸っているように感じられます。
内田:あれはこのプロジェクトを立ち上げた時からやりたかったことの1つで、発想の原点はマドンナとGorillazがグラミー賞で共演したステージです。普通のライブでは、アーティストの背中越しに会場を撮影した映像ってよくあるじゃないですか。二次元でそれを映像でやっているのはないなと思って。
ーーあの映像を作るのは何が大変なのでしょうか。
内田:かなり精度の高いセッティングが必要で、遅延のギャップを埋めないといけないし、何よりライティングですね。普通にCGキャラを現実空間に置くと、平面的で浮いた感じになってしまうので、場になじませるために光源の設定をしっかりやらないといけません。
ーー確かに、客席と同じ光を浴びているように見えないと嘘っぽくなってしまいますね。
内田:そうです。実際の物理ライトとキャラに当たるライトをリアルタイムに連動させるんですが、それを合わせるのが大変です。忘れられがちですけど、キャラに当たる光も実際の物理ライトと同じ方向から当たっているように見せるために、リアルタイムにレンダリングしてCGで作っているんです。これができないと、彼らがそこにいるようには見えないんです。
ーーそれを実現できる技術スタッフの方の能力も相当高いですね。
内田:本当にチャレンジングなことをやってくれています。みなさん驚いてくれますからやりがいもありますね。最近はARのスモークと本物のスモークを一緒に出してますが、絶対に差がわからないと思います。舞台監督さんも「そのスモーク、本物のほう?」とか確認するぐらいですから。