空間演出ユニットhuez「3.5次元のライブ演出」
空間演出ユニットhuez「3.5次元のライブ演出」 tofubeats『RUN』release partyの仕掛けを解説(前編)
テクノロジーの進化に伴い、発展を遂げるライブ演出。この潮流のなかで、特異な存在感を高めているのが、「フレームの変更」をコンセプトに掲げる、空間演出ユニット・huez(ヒューズ)だ。その強みは、ライブ演出における “光” の専門家が一つのチーム内に集まっていることにあり、アーティストの物語に寄り添った演出を得意とする。本連載「3.5次元のライブ演出」では、同ユニット・としくに(ステージディレクター・演出家)に、最新事例を通して、先端技術のその先にある、ライブ体験のより本質的なキー概念について語ってもらう。
第二回は、恵比寿LIQUIDROOMで行われた「tofubeats『RUN』release party」を例に、huezのライブ演出において、ステージエンジニアがどのような役割を担っているか、同ユニット・YAVAO(VJ・LJ・ステージエンジニア)の「Planning Note」を元に追っていく。
ステージエンジニアと共同して演出する
huezで「ライブ演出」といったとき、基本的には、僕 (としくに) が演出家の役割を担っています。”基本的には” と前置きをするのは、ライブによっては、huezのなかで、それぞれの担っているポジションの目線からプランニングをしてもらった上で、演出をすることがあるからです。
今回の「tofubeats『RUN』release party」では、huezで普段、VJ・LJ・ステージエンジニアを担っている、YAVAOにプランナーとして立ってもらう、というつくり方をしました。今回の僕は、YAVAOが中心となってつくったプランの意図が、美しくかつ適切に伝わるように演出をしました。
「プランニング」とは、ライブのセットリストに対して、どんなテクニカル要素を加えたら面白くなるかを考えること。例えば演劇でいうと、脚本のなかに、ト書き(舞台の説明、人物の動きなどの指定)を追加していくイメージです。
huezにおけるYAVAOの特徴は、huezのなかにあるいろんな技術を理解して取り扱い、複合的なシステム図を描くことができるということにあります。
今回のtofubeatsのライブでは、照明・レーザー・映像・VJと、huezが演出全体を担いました。そういったこともあり、全てのシステムを掌握しているYAVAOがプランニングを担当しました。かつ、演出上での最大の特質は、ステージ上に14枚のTVモニターを設置したことです。
体験を共有するキーワードを設定する
YAVAOが、今回のライブのキーワードとして設定した、”ライブハウス全体を一つの乗り物として捉える” というのは、いわゆる “アトラクション” みたいな話ですね。YAVAOはもともとゲームに興味があって、そうした趣向が、プランナーの癖や作家性として出てくるのですが、”乗り物” という言い方は、YAVAO自身の文脈と遊園地のアトラクションを合わせたような発想で、面白いなと僕も思いました。
ライブ演出というと、ステージの上で何をおこなうか、ステージがどう見えているか、のみを考えがちなんですが、僕らスタッフは常に客席のいちばん後ろにいるんですよ。だからライブハウス全体が見えるんです。”乗り物” といったのは、その自分たちですら、空間全体が楽しめるような、プランおよび演出を組む、という態度表明なんだと思います。
例えば、客席のほうから、ステージ上の14枚のモニターに対してレーザーを打って、当たった場所に映像が投影されるというギミックが、それに当たります。レーザーって空間にすごく干渉していて、客席の後ろから投射すると、お客さんの真上に光の線がはっきりと走るんです。お客さんが、ふっと上を見上げると、レーザーの真っ白い線が一本走っていて、それを目で追うとディスプレイに当たって、そこから映像が出るという。お客さんがステージだけでなく、上下左右を見ちゃう、という演出を入れました。
アーティストの物語性とコンテクストを捉える
YAVAOの言葉に沿って言えば、ライブ演出においては、”セットリストの物語性を可視化する” ということと、もう一つ、”そもそものアーティストの物語性とコンテクストを捉える” ということが何よりも重要です。
huezとtofubeatsとの出会いは、tofubeatsがインターネットレーベル・Maltine Records (マルチネレコーズ) から、「水星」をリリースをした頃なので、2011年ぐらい。当時はまだまだ黎明期で、実験的な状態でしたが、tofubeatsも出演する、マルチネのクラブイベント(2012年の『歌舞伎町マルチネフューチャーパーク』、2013年の『山』、2014年の『東京』、2015年の『天』など)で、レーザーを入れたり、照明を入れたり、VJをやったり、光るお立ち台をつくったりしていた、というのが最初のきっかけです。
その後、tofubeatsがメジャーデビューし、リリースを重ねるなかで、2017年に1stワンマンライブ (tofubeats “FANTASY CLUB” solo live in tokyo) を代官山UNITでやることになったときに声をかけていただき、ビジュアル&ライティングとして、huezが全面的に演出をさせてもらいました。
tofubeatsは、そもそもトラックメイカーで、しかも自分で歌うこともするんですが、今回の27曲というセットリストを見ても、リード曲 (ボーカルがある部分)と、インスト曲 (ボーカルのないクラブシーンのような部分)とがしっかりと混ざり合っていて、方向的にはクラブミュージックという文化から出てきた、tofubeatsのコンテクストが感じられます。
そういったアーティスト本人の歴史や文脈、例えばネットレーベルから出てきた、DTMである、曲のジャンルでいうとEDMよりは、ハウスとかテクノから出てきているとか──そういったテイスト、すなわち物語性が、例えばデザイン、映像の色味、グラフィックなどを判断するときの指針となっていきます。
今回のライブでも、すごく古い曲ーー2009年にマルチネからリリースした曲をやる、というときに、マルチネのロゴを出したい、という話がtofubeats本人からも、huezからも出てきて、VJで一瞬だけマルチネロゴを出したんです。これはアーティスト本人のというか、”故郷の話” をわかりやすく出した例ですが、こういった文脈や物語性を演出に組み込むことを大切にしていますね。