『風、薫る』はミュージカル&舞台俳優の宝庫? 中村倫也、内田慈、甲斐翔真らの活躍

また、本作では、内田慈もその魅力を存分に発揮している。彼女も中村倫也と同じく最近は映像での活躍が目立つが、実は19歳でデビューして以来、2000年から2010年ごろの演劇界を牽引した名だたる舞台に参加、舞台女優としてその地位を確立した存在だ。
内田が演じた柳川文は、清水卯三郎(坂東彌十郎)が経営する日本橋・瑞穂屋の店員として登場。実は伊豆出身の夕凪という元女郎で、直美が捜し求めた実の母だった。穏やかな笑顔の裏に波瀾万丈な人生の荒波を潜り抜けてきた覚悟のある女性で、質素なようで色気もあり、複雑な役柄だ。文が病で倒れてから直美が看護するようになり、2人で一緒にいる時間が増えると気づくこともある。

でも文は、直美がかつて捨てた娘だと気づいても自分が母親だと言わないし、自分の過去についても語らない。しかし、直美は母が残してくれたお守りと文が持っていた髪飾りの布の柄が同じであることに気づき、文が自分の本当の母親ではないかという思いを強くする。直美は自分の母に会えただけでなく、“看護”をすることができた。
自分について語らず、欲も捨ててドライに生きてきた文という女性が、人生の最期に育てることができなかった娘と再会して、穏やかな時間を親子2人で過ごせた。限られた時間かつ病気の苦しみもある中で、単純に幸せとは言えなくても、お互いに伝わる思いがあり、その繊細な心情に心を動かされた視聴者も多かったはず。
内田は9月8日に放送された『あさイチ』(NHK総合)に出演し、病気で娘の直美に看護される文を演じるため、体重を9キロも落としたことを明かした。このプロ意識を絶賛するコメントがSNSでも多く見られ、さまざまな役柄を変幻自在に演じ分け、リアルに深みのある役へと落とし込む表現力が高い評価を得ているのも納得だ。
直美とのつながりでいえば、ピリッと勝気で仕事熱心な看護婦として働く彼女の姿に惚れ込み、まっすぐなアプローチで癒し系の陸軍軍曹・小川吾郎を演じた甲斐翔真も忘れがたい。ここ数年ミュージカル出演が続き、『next to normal』(2022年・2024年)、『エリザベート』(2023年)、『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』(2023年)、『イザボー』(2024年)、『キンキーブーツ』『マタ・ハリ』(2025年)という具合。そして、2026年10月には『ミス・サイゴン』の公演も控えている。

ミュージカル界でまさに引っ張りだこの甲斐。本作では軍人としての所作に気を遣ったとコメントしていたが、姿勢・歩き方の美しさ、何気ない仕草も見惚れるような舞台で映える見せ方が身についていて、これまたプロ意識の強さを感じてしまう。
その吾郎の最期を看取ったのが、帝都医大附属病院に勤めていた多江(生田絵梨花)で、彼女は特志看護師として広島の陸軍病院に行く希望を出していたのだった。生田絵梨花と甲斐翔真が並ぶと、ミュージカルの始まりを期待しそうになってしまう。
ナース姿も清楚で可憐な生田絵梨花は乃木坂46のメンバーとしてアイドル活動をしていたころから卒業後の現在に至るまで『ロミオ&ジュリエット』、『レ・ミゼラブル』、『モーツァルト!』『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』、『MEAN GIRLS』、『GYPSY(ジプシー)』などのミュージカルに次々と出演。名実ともにミュージカル界を牽引する立場になっている。

ミュージカル界の貴公子、プリンスといえば古川雄大を思い浮かべる人も多いはず。もしくは、NHK朝ドラ『エール』での強烈なキャラクターの音楽教師役を思い出して「ミュージックティーチャー」と呼びたくなるドラマファンもいるかもしれない。
ミュージカルの出演は2007年の『ミュージカル テニスの王子様』から始まり、『ミュージカル エリザベート』『ミュージカル ロミオ&ジュリエット」『ミュージカル レディ・ベス』『ミュージカル 黒執事』、『ミュージカル 1789ーバスティーユの恋人たち』、『ミュージカル モーツァルト!』『ミュージカル マリー・アントワネット』、『LUPIN~カリオストロ伯爵夫人の秘密~』、『ミュージカル 昭和元禄落語心中』など。シリアスな役もコミカルな役も熱い役もクールな役も柔軟で幅広い演技力で華やかにこなしてしまう。
圧倒的な歌唱力と気品あるルックスで名だたる大作ミュージカルにおいて実力を発揮、本作で古川が演じる外科教授・今井益男は落ち着いた雰囲気でどんな状況にも冷静に対処する大人の男。真面目に医師として仕事をしていても一筋縄ではいかない感じ、どこかミステリアスで只者ではない大物感が漂っているのも良かった。
物語は、最後の最後まで波乱含み、気の抜けない展開になっている。でも、こうして振り返ると、映像の世界ではもちろん、さまざまな舞台で経験を積んだ個性豊かなキャストが『風、薫る』という作品を盛り上げ、りんと直美の成長に彩りを添え、その鮮やかな存在感で物語に深みと奥行きを出していたことも印象深いのだった。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK




















