中村倫也が『風、薫る』終盤にもたらす緊張感 柳生がりんと直美にとって“壁”となる?

中村倫也がNHK連続テレビ小説『風、薫る』で演じている柳生は、内務省衛生局に勤める役人だ。初登場した第92話では、赤痢が蔓延する坂塚村の避病院で藁にくるまって横たわり、りん(見上愛)から死者と間違われるという、なんとも中村らしいユーモラスな登場を果たした。

当初は東京からやってきた謎の患者として描かれていた柳生だが、第94話でその正体が判明する。彼は内務省衛生局から赤痢流行の現地調査に派遣され、自身も感染していたのだ。回復すると、それまでの気だるげな姿から一転。スーツをまとい、坂塚村における防疫活動を高く評価し、その成果を上に報告すると直美(上坂樹里)に告げる。

柳生というキャラクターの面白さは、何を考えているのかを簡単には読ませないところにある。患者として横たわっていたときも、必要以上に騒ぎ立てることはなく、どこか一歩引いた場所から周囲を眺めていた。その後、彼が衛生局に提出した報告によって、恵風看護婦会は“お上のお墨付き”を得るような形となり、派出看護の依頼も増加。結果として、柳生の存在はりんと直美が進む道を大きく後押しすることになった。
そこからしばらく姿を見せなかった柳生が再登場したのが第113話。派出看護婦会が増える一方で、十分な知識を持たない者を派遣し、高額な料金を請求する悪質な業者も現れるようになり、危機感を抱いたりんと直美が衛生局を訪ねた。

当然、2人はすぐにでも取り締まってほしいと訴える。ところが柳生は、派出看護という新しい仕事が広がる中では、さまざまな質の組織が生まれることも避けられないと冷静に受け止める。患者の命を守るため、一刻も早く動いてほしいりんと直美。それに対して柳生は、問題の一部分だけを見るのではなく、社会全体の状況を見ながら判断しようとしている。
2人の主張を否定するわけではなく、静かに耳を傾けながら、最終的には実態を調査すると答える。それどころか、2人が帰ったあとには、すでに調査が始まっていたことが明らかになる。それをなぜ伝えなかったのかを問われても、柳生は答えない。この何とも言えない掴みどころのなさが、中村の佇まいによく似合っている。
そして第121話では、その調査が一つの結果を迎える。東京に約60の派出看護婦会、約900人の派出看護婦がいる現状を柳生が直美に説明し、近く看護婦に関する規則が作られることを明かした。
中でも印象に残ったのが、「国は職業を情熱では測れない」という柳生の言葉だ。りんと直美は、患者に寄り添う気持ちや看護への情熱を何より大切にしてきた。だが柳生が向き合っているのは、それをどのように社会の仕組みとして成立させるかという問題である。誰が看護婦を名乗ることができるのか。どの程度の知識や技術が必要なのか。看護婦という仕事が広がれば広がるほど、個々の善意だけでは守れないものも増えていく。
柳生はこれまで、りんと直美に手を差し伸べてきたが、必ずしも2人にとって都合のいい存在ではないということだ。第122話の終盤、印象的だったのは、新たに定められる規則を前にした柳生の姿。書面に並ぶ文言を静かに追うその表情からは、制度が整えられることへの手応えよりも、むしろその先に生まれる新たな問題を見据えているようにも感じられた。看護婦という仕事に一定の基準を設けることは、悪質な派出看護婦会を減らすうえで必要なことでもあるが、規則が厳格になればなるほど、これまでとは別の理由でその道を閉ざされる人も出てくる。

中村が巧みなのは、柳生を単純な味方にも敵にも見せないところにある。穏やかな口調や柔らかな表情を崩さない一方で、肝心なところでは感情を表に出さず、その本心までは簡単に掴ませない。りんと直美の考えに理解を示しているように見えても、柳生が判断の基準に置いているのは、あくまで国や社会全体にとって何が必要なのかということだ。りんと直美が守ろうとしてきた“目の前の患者を救う看護”と、柳生が整えようとしている“社会の中で成立する看護”が、ここにきて初めて大きくぶつかろうとしている。
現場で患者と接してきたりんと直美と、国という立場から看護を見つめる柳生。目指しているものは決して正反対ではない。それでも立つ場所が違えば、正しいと思う方法も変わってくる。これまで2人の歩みを陰ながら後押ししてきた柳生が、今度はどのような顔を見せるのか。中村の底の見えない芝居が、『風、薫る』終盤にさらなる緊張感をもたらしている。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK





















