『風、薫る』“環”瀧七海が見つけた自分の進む道 “シマケン”佐野晶哉の言葉が背中を押す

NHK連続テレビ小説『風、薫る』第119話では、環(瀧七海)が自分の将来について初めてはっきりと口にする。これまでりん(見上愛)の娘として、周囲から進む道を案じられてきた環。けれど本人が望んでいたのは、母と同じ看護婦でも、誰かの妻になることでもなく、「仕事として絵を描く」ことだった。
シマケン(佐野晶哉)の家へ行くという置き手紙を残し、家を出た環。心配するりんのもとには亀吉(三浦貴大)がやってくる。「ご無沙汰してます」とよそよそしく挨拶するりんからも、2人の間に今なお微妙な距離があることがよく分かる。環について何か聞いていないかと尋ねても、亀吉は知らないふり。「育ちが良すぎんだ」と、わざわざ書き置きを残して出ていった環に呆れたような反応を見せる。

亀吉の考えは相変わらず、「女は嫁ぐのが一番」だ。りんとは今も価値観が大きく違う。それでも、環のことを気にかけているのは確かだった。そんな亀吉がりんに伝えたのが、「環は日本一の看護婦の娘」という貞(根岸季衣)の言葉である。その上で、「看護婦なら患者と同じくれぇ環をみでやれ」と一言。
これは、りんにとって耳の痛い言葉だろう。患者が何を苦しんでいるのか、何を望んでいるのか。その人の声を聞き、時には言葉にならない思いまでくみ取ろうとしてきたりん。一方で、いちばん身近にいる環が何を好きで、何をして生きていきたいのかについては、まだ知らないことがあった。看護婦として多くの人を見てきたりんだからこそ、今度は母として娘を「見る」ことを問われているのだから。

一方の環は、久しぶりに会ったシマケンに、自分が描きためてきた雑記帳を見せていた。ページを開きながら話す環の顔は実に楽しそうだ。絵を描くことが好きなのだと、見ているこちらにもすぐ伝わってくる。そんな環に対して、シマケンが話したのは創作の苦しみであり、喜びだ。小説家を目指していた頃の自分を振り返るシマケンの言葉だからこそ、環にも届くものがあったのだろう。
環が「小説を書いたことを後悔してる?」と尋ねる場面も印象的だ。小説家とは別の道を歩むことになったシマケンは、「後悔はない」と答える。夢がそのまま職業にならなかったからといって、夢中になった時間まで無駄になるわけではない。むしろシマケンを見ていると、何かに本気で向き合った時間は、その後どんな道を選んでも残り続けるのだと思わされる。

筆者も、「好きなことを仕事にするなら、それ相応の覚悟が必要だ」という言葉を何度も耳にしてきた。もちろん間違いではない。けれど、覚悟が決まるまで「好き」と口にしてはいけないわけでもないだろう。まずはやってみたいと口にすること。それを誰かが笑わずに受け止めてくれること。環にとっては、シマケンがその相手だった。
そして環は、「仕事として絵を描きたい」と打ち明ける。笑われるのではないかという不安もあったようだが、シマケンが笑うはずもない。誰にも理解されないかもしれない夢を抱えることも、その夢に夢中になることも、彼自身が経験してきたからだ。

環がわざわざシマケンを訪ねた理由も、少し分かる気がする。答えを出してほしかったというより、まずは自分の「やりたい」を、そのまま受け止めてほしかったのではないだろうか。大人たちは環の将来を心配する。嫁ぐことを勧める人もいれば、看護婦の娘として期待する人もいる。そんな中でシマケンは、環自身が何を好きなのかを聞いてくれた。
そして、りんも環と向き合う。母親だからといって、娘のことをすべて知っているわけではない。むしろ知っていると思い込まないことから、親子の会話は始まるのかもしれない。患者の声に耳を傾けてきたりんが、今度は環の言葉を聞く番だ。環が描き始めた自分の未来を、りんはどんなふうに受け止めるのだろう。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK




















