『Tシャツが乾くまで』最終盤の“謎”を徹底考察 “好きな人フィルター”が示すもの

蒼井優が主演を務める金曜ドラマ『Tシャツが乾くまで』(TBS系)が最終章へ突入している。これまでは、失踪癖のある瀬尾充(松山ケンイチ)と、バス事故で亡くなった園田樹生(中島歩)の妻・園田あずさ(夏帆)の2人のバス事故の真相に迫る内容だった。しかし、第8話で充の妻・瀬尾咲子(蒼井優)が失踪したことで立場が逆転。ラストには、咲子が子連れの謎の男・篤彦(井ノ原快彦)を訪ねるという、「充の知らない咲子」へ物語は大きくシフトチェンジした。そこで、これまで残された謎や疑問点について分析・考察してみたい。
第8話ではまず、充の1年にも及ぶ失踪の真実が明かされた。あずさがバスに同行した理由について、当初充は「あずさに付き添ってもらった」と説明していたが、実際はあずさ自ら駆けつけていたことが判明した。ただ、車内での会話を聞いていると、最初から充の失踪を止めようとしていたようにも感じられたが、どうだろうか。

充は、嫌っていた両親に20年ぶりに会いに行った理由や、サービスエリアで咲子との思い出のカレーパンを買った時のことを思い出し、「さっちゃんが重りになってくれてたんです。逃げないように。でもそれで気づいちゃったんです。潰れそうになってるんだって」と失踪の決め手をあずさに語っていた。しかし、スマホと財布を置いてバスを出ていくときのあのウキウキとした表情を見ると、そうした理由よりも、逃げることにエクスタシーを感じる「根っからの失踪好き」と思わせた。
一つ疑問なのが、結局その後に実家に行き、1年間も親と暮らしたという事実。かつて充が咲子に「俺たちみたいな人間は親が死んだらどんな気持ちになるんだろうね」と尋ねた際、咲子は「心から悲しむのは無理だから逃げればいい。親が死んでも悲しまない自分に向き合わない」と答えていた。充は、その言葉を実践して楽になり、咲子という重りがない生活を快適に感じたのだろう。毒親を持つという共通点で繋がっていた2人だけに、親に会いに行った充に対しての咲子の「好きな人フィルター」には亀裂が生じるのではないだろうか。しかし本当に実家に行ったのかも、未だに怪しい。

充の問題が一旦解決したかと思えば、今度は咲子の失踪返しにより、これまで「失踪する側」だった充は初めて「残される側」となった。第7話までの充の自己中心的な行いが壮大なフリとなり、第8話では一気に充を懲らしめるモードへと突入した。慌てふためく充は、近くの人から情報を得ようと喫茶「ひこうき」に、樹生、千鶴(臼田あさ美)、直人(高橋文哉)、宮内(リリー・フランキー)を呼び出し、自分の知らない咲子の姿を聞き出す。
充が咲子の母親に電話をしたときの咲子の印象は「娘はこの世で一番穏やかで、優しく、思慮深い女の子」、直人は「ポジティブで明るい」。充は「お母さんが死んでも寂しくないし、何なら死に目に会いたくないって霊柩車に親指を立てる人。全然穏やかじゃない、ファンキー」「心配されるからポジティブのふりするけど、基本的にはずっと失敗や喪失を恐れるタイプ」。樹生は「普通にいい人だと思いますけど、まぁうっすら感じる悪い瞬間もありますね、あの人たぶん爆弾抱えてますよ」。そして、咲子と一番付き合いの長い千鶴は「飽き性。新しい物好き? 切り替えが早いというか、後を引かない」。皆がまったく違う印象を語った。ただ、現実的に考えると、家族、友達、ご近所さん、お店の人、それぞれへの接し方が違うのは、むしろ自然なことだ。

しかし、気になるのは千鶴の発言。第1話の冒頭、咲子と千鶴の会話で充との夫婦関係についてのセリフがあった。千鶴が「長く一緒にいたら何か不満があるでしょ。昔の人と比べたり」と聞く中、咲子は「でも充がすごいんですよ、私みたいなのが1人の人とずっと暮らせるなんて」と答えていた。この会話からは、充と出会うまで、咲子は数多くの恋愛をしていたが、長続きしなかったことが想像できる。もしそれが充の失踪癖と同じく、他者の期待に応えすぎる性格の反動からくるものだとしたら、そうした気の合う部分が充と長続きした理由なのかもしれない。咲子にとっても充の存在は重りになっていたのだろうか。
みんなの知らない咲子像を浮かび上がらせたところで第8話のラストで登場した海の男・篤彦。突発的に何も持たず家を出た状態で、真っ先に思い浮かんだ頼れる人。あそこまで屈託のない笑顔を見せるのは、よっぽど心を許している人だ。




















