【今夜放送】『となりのトトロ』を配信時代に観返す意義 いつまでも色褪せない“映画体験”

『となりのトトロ』を配信時代に観返す意義

 また、そのなかで繰り広げられるのは、決して劇的なできごとではなく、“大切な人を失うかもしれない”という不安感――極めて内向きかつ一時的に解消したとしてもいつか必ず覚悟をもって直面しなければならないできごとである。母親の退院を心待ちにしている姉妹のもとに、病状悪化の電報が届き不安に駆られる。サツキは父に連絡を取り、精いっぱい不安感を押し込めようとするが、幼いメイは母親にとうもろこしを届けようと遠くの病院へと向かい迷子になる。どうしていいのかわからない不安のなかで、自分にできることをやろうと奔走する姿というのは、時代もキャラクターの年齢も問わず普遍のものであろう。

 それこそ劇場公開時には高畑勲監督の『火垂るの墓』と2本立てでの上映であったわけだが、同作もまた戦争という死への不安と限られた選択肢のなかでできることを模索する子どもの姿が描かれていた。劇場公開のリアルタイムを知らない世代にとっては、(当時の上映システムを抜きにして)なぜこの2本が同時上映だったのだろうかと素朴な疑問を抱いたこともあるが、よくよく考えてみれば、戦争に病に迷子。下敷きになっているものは違っていても、両作は同じテーマが描かれていたと改めて認識することができる。

 無論、この不安感は母の死の可能性であったり、メイの行方知れずであったりに限ったことではない。大雨のなかで父を迎えにバス停に向かった姉妹が、バスを降りてくる乗客のなかに父がいないのを確認したときに浮かべる表情と、次のバスが来るまでの様子。サツキの授業中にいきなりメイがやってくるくだりなど、映画のあらゆる部分にあらわれている。トトロはそれを見守るだけであり、時にファンタジックなかたちで助け舟を出してくれるとはいえ、姉妹の抱える不安感に対して決して介入しない。まさしく“となり”に佇むだけの存在であり、あくまでも子どもたちがこの物語とテーマに触れやすくする入口としてのみ機能するのである。

 いかんせん、こうもシンプルなストーリーとなると、そこに不必要な深読みをしてしまうのは情報過多社会に慣れきった現代人の悪い癖でもある。現に数年前からネット上では本作にまつわるいろいろな都市伝説がはびこっているわけだが、シンプルであるがゆえに解釈は一つとは限らないが、どんなに深読みをしたとて画面に映るものは誰が観ても同じである。そういった意味では、あらゆるところにさまざまな含みを持たせて深読みすることを促すようなつくりをしている『ちいかわ』と、対になるものといえるかもしれない。

 ちょうど現在公開されている『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』を引き合いに出せば、海の怪物たるセイレーンと、『となりのトトロ』では森の妖精たるトトロ。自然と人間との共生関係や外部からその土地にやってきた者たちとの調和の物語という点で共通したにおいを感じるとはいえ、物語の落ち着く先はだいぶ異なる。確実にいえることは、どちらの作品も観たままのとおり――トトロがかわいいだとかハチワレがかわいいだとか――純然に受け止めるだけで、充分過ぎるほどその映画としての持ち味を享受できる引力を備えているということだ。それもまた映画を体験するうえで有意なことといえよう。

■放送情報
『となりのトトロ』
日本テレビ系『金曜ロードショー』にて、8月21日(金)21:00〜22:54放送
※ノーカット放送
原作・脚本・監督:宮﨑駿
音楽:久石譲
声の出演:日髙のり子、坂本千夏、糸井重里、島本須美 ほか
©1988 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli

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