『風、薫る』佐野晶哉が見上愛に「さよなら」 シマケンとの別れでりんが選んだ看護婦の道

NHK連続テレビ小説『風、薫る』第104話で、何度も目に留まるのは、りん(見上愛)の“手”だ。患者に触れ、その生活を支える看護婦の手。そしてシマケン(佐野晶哉)と一緒に生きていきたいと願って伸ばした手でもある。けれどシマケンは、その手が自分だけのものにはならないことを知っている。
りんが派出看護に訪れた宮川佳枝(相田翔子)は、リウマチによる手のこわばりで思うように食事ができず、気持ちを落としていた。りんはそんな佳枝の手を見て、少しでも食事がしやすくなるように工夫をする。病気そのものを治すことはできなくても、患者が昨日までできていたことを、今日もできるようにする。そのために考え、手を動かすのが、りんの看護だ。

一方で、りん自身も人生の選択を迫られている。実家の事情から浜松へ戻ることを決めたシマケンは、りんに一緒に来てほしいと告げていた。浜松に行きたくないわけではないが、しのぶ(木越明)が辞めたばかりの恵風看護婦会には多くの患者がいて、家族のこともある。東京を離れるとなれば、簡単に片づけられない問題ばかりだ。それでも悩んだ末に、りんは「シマケンさんと一緒に行きたいです」と告げる。実家へ戻るシマケンについていくことを、自分の意思で選んだのだ。
これまでのりんは、家族や患者のことを優先し、自分の望みを後回しにすることが少なくなかった。恵風看護婦会も家族も気がかりなまま、それでもシマケンと一緒にいたいという思いに、初めて素直になろうとしていた。

しかし、その思いにシマケンは「僕たちは一緒に生きていくべきではないと思う」と答える。りんはシマケンの手を握り、「一緒に生きていきたいです」と改めて伝える。けれど、シマケンが見つめていたのは、自分の手を握るりんの手だった。これまで何人もの患者に触れ、その命を支えてきた手でもある。
シマケンが知っているのは、りんが誰かのためとなれば放っておけない人間だということだ。実家の後始末に連れていけば、りんはきっと何とかしようとする。患者や家族のことと同じように、自分の問題まで背負おうとするだろう。だから巻き込みたくない。そして何より、シマケンにとってりんの手は、大勢の命を救うための手でもあった。りんが自分のためにその手を使おうとしてくれることがうれしくないはずはない。それでも、シマケンは「さよなら」と告げる。

忠蔵(若林時英)も直美(上坂樹里)も、そんなりんとシマケンのことを気にかけていた。とりわけ直美は、このまま何もせずに終わらせていいのかと、りんをシマケンのもとへ向かわせる。ところが、シマケンのもとへ急ぐ途中、りんの前に具合を悪くした女性が現れる。一刻も早く会いに行きたいはずなのに、苦しんでいる人を前にすると、りんの身体は自然と動いてしまう。足を止め、患者に触れ、必要な処置をする。その姿こそ、シマケンがずっと見てきたりんなのだろう。
ようやくりんがたどり着いた時には部屋はすでにきれいに片付けられ、シマケンの姿もなかった。あと少し早ければ会えたかもしれない。けれど、もし道端で苦しんでいた人を置いて走っていたら、それはシマケンが愛したりんではなかったはずだ。

その部屋を見たりんは、「この手は患者さんに使いたい」と、看護婦として生きていくことを決める。2人の恋を応援していた筆者としても別々の道を選んだ結末は切ないが、シマケンが最後に守ろうとしたものもまた、りんが看護婦として生きる人生だったのかもしれない。患者のために差し出してきたりんの“手”が、これからどんな人たちを支えていくのか。シマケンとの別れを経て、りんは再び自らの道を歩き始める。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK





















