若林時英、『風、薫る』で一番の“癒しキャラ”に モデルの実業家にも通ずる穏やかさ

NHK連続テレビ小説『風、薫る』でチュウこと丸山忠蔵を演じる若林時英の自然で穏やかな演技に癒されると話題だ。何しろ、直美(上坂樹里)にしてもりん(見上愛)にしても、恋愛が盛り上がるとチュウが店を引き継いだ団子屋に集い、待ち合わせをしているわけでもないのに引き寄せられるように団子を食べながら愛情を確認していたりする。
りんに会いたくて団子屋に通うシマケンこと島田健次郎(佐野晶哉)や、直美に惚れこみ堂々とプロポーズした陸軍軍曹の吾郎(甲斐翔真)に対して、余計なことは一切言わず、お節介なこともせず、淡々と自分の仕事をするのがチュウだ。

ときには「もう閉店の時間では?」と視聴者が団子屋・田之上屋の営業時間を気にするほど、待ち人が来ないシチュエーションでも静かに見守っている。
直美もりんも帝都医科大学附属病院の看護婦見習いだった頃に入院していたチュウと出会い、退院後には直美が住んでいた長屋でチュウが暮らすことになり、ご近所付き合いが続いている。 看護の仕事をするようになって間もない頃の患者であり、心の拠り所のようなホッとできる場所である団子屋にいつでもいるチュウ。直美が以前住んでいた馴染みのある長屋でも近所の人たちに頼られる存在だ。直美やりんにとって、いつの間にか心の支え的な存在になりつつあるようだ。
例えば、直美がりんの家族と一緒に住むことになり、チュウは新居への引っ越しも当たり前のように手伝っていた。そして「あの店、おやっさんから引き継いだんで。もう年で辞めたいけど、他に継ぐ人がいないって頼まれて。悪い話じゃないし、これからおれもこの東京で大好きな甘いもんで勝負に出てみようかと」と、快く引き受けていた。

ちなみに丸山忠蔵というキャラクターは、相馬愛蔵という明治生まれの実業家がモチーフとなっている。新宿の老舗カレー店「中村屋」の創業者であり、パンや和菓子の製造・販売事業を拡大して実業家として成功しただけでなく、禁酒運動や廃娼運動にも理解があり、文化人・芸術家への手厚い支援も行い、社会的弱者の味方として社会貢献活動にも邁進した人格者なのだ。
本作では入院したときに看護を担当したのは直美だったが、実際に相馬愛蔵が帝国大学医科大学附属第一医院(現在の東京大学医学部附属病院)に入院したときに看護を担当したのが、大関和(一ノ瀬りんのモチーフ)だったそうだ。1日に1回薬を塗るところを東京専門学校(現在の早稲田大学)への入学を遅らせたくない一心で大関和にお願いして、1日3回塗ってもらい無事に退院し、学校に行けた恩を忘れなかったという。
長野県安曇野市出身の相馬愛蔵は上京したての頃に疥癬(かいせん)になってしまったようで、この時代の疥癬治療は患部に硫黄を含有した軟膏を塗るしかなく、硫黄特有の強烈なにおいに躊躇しながらも、薬の効果はあったようで相馬愛蔵と大関和の交流はその後もずっと続いたということを知ると、心が温かくなる。
相馬愛蔵が東京帝国大学の赤門前で中村屋を譲り受けて新装開業したときも、大関和はパンを買いに駆けつけ、帝大病院でも中村屋のパンが販売できるよう交渉してくれたという。患者とトレインドナースという立場を超えて、恋愛だの友情だの、性別といった枠をはずして信頼し合える関係にあったというのも、登場人物それぞれの魅力につながり、今後のチュウの活躍に期待ができる。大関和がさらに年齢を重ね病気になったときに相馬愛蔵は変わらず見舞いに行き、経済的な支援も続けたという。
ドラマの中で、多部未華子演じる大山捨松や坂東彌十郎演じる清水卯三郎、片岡鶴太郎演じる勝海舟のように同じ名前で登場していないのは、それだけ自由度の高いキャラクターとしてアレンジされているからなのだろう。

直美と吾郎が結婚するときも、看護婦養成所の仲間を呼んで、牧師の吉江(原田泰造)にも直美の花嫁姿を見せて、その中心にいながらも控えめに、温かく見守るチュウは直美やりんにとって、かなり頼れる存在に成長しているように思える。
新商品の開発にも熱心で、オリジナルのメニューを考案したり、普通の団子屋からおしゃれで洋風な店に少しずつシフトチェンジして実業家として成功していくチュウも見てみたい気がする。チュウの存在がみんなを安心させて、いつの間にかチュウの店に集まってしまう。癒し系で商売上手なチュウの成功の物語も応援したいし、注目だ。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK




















