『風、薫る』小林虎之介の“切なすぎる”節目 “りん”見上愛との恋だけではない複雑な感情

NHK連続テレビ小説『風、薫る』第20週「家族のかたち」(8月10〜14日)では、りん(見上愛)をめぐる恋愛模様が一つの節目を迎えた。
りんに情熱的に思いを伝え続け、ついに正式にプロポーズした新聞記者の横沢(井上祐貴)。その姿に触発され、彼女に好意を寄せながらも自信のなさから二の足を踏んでいたシマケン(佐野晶哉)がようやく一歩を踏み出す。退路を断って小説の執筆に専念すると宣言したシマケンに、りんは「待ちます!」と返答した。横沢がいわゆる“当て馬”としての役割を全うしてくれたおかげで、2人は互いへの気持ちを再認識することができたのだ。
綺麗に収まったと思える一方で、どうしても気になってしまう人物がいる。小林虎之介演じる虎太郎だ。

りんと同じ栃木の村で生まれ育った虎太郎は、幼い頃から彼女に淡い恋心を抱いていた。しかし、虎太郎は元足軽の息子で、りんは元家老の娘。明治となって身分制度がなくなっても、長年染みついた意識まで簡単に消えるわけではない。虎太郎はどこかでりんを「自分には手の届かない人」と感じていたのではないだろうか。
そのため、なかなか思いを口にすることはできず、そうこうしているうちにりんは結婚。だが、すぐ離婚し、再び虎太郎にチャンスが巡ってきたと思いきや、りんは東京で看護婦の道を歩み始める。その後、虎太郎もお金を稼ぐために上京するも、すでにりんの隣にはシマケンがいた。いつもあと一歩のところでタイミングを逃してしまう、何とも切ない役回りなのだ。
それでも、虎太郎がりんの人生を支えてきた大切な存在であることに変わりはない。りんが婚家を飛び出してきた際には東京へ逃げる手助けをし、夫から娘を取り返しにいくときは護衛として付き添うなど、虎太郎は幾度となく窮地に立つりんを救うヒーローであり続けた。だからこそ、たとえ最終的にりんに選ばれないとしても、シマケンの背中を押す最後の一手は虎太郎に担ってほしかった、というのが正直な気持ちだ。

ただ、虎太郎には、りんとシマケンの恋を動かす“当て馬”にとどまらない役割が与えられているように思う。シマケンとの間には、恋愛だけでは片づけられない複雑な感情が横たわっているからだ。
元家老の家に生まれ、家族に愛されて育ったりんと、生後間もなく母親に捨てられ、家族を持たなかった直美(上坂樹里)という対照的な2人を主人公に据えたことをはじめ、本作は生まれ育った環境によって生じる“格差”を描いてきた。その構図は、男性陣に目を向けると、シマケンと虎太郎の間にも見えてくる。
実家が浜松の料理屋で、5人きょうだいの末っ子として育ったシマケン。経済的に余裕がある上に、家を背負う立場でもないため、定職に就かずフラフラしていても許されてきた。そうした環境にあったからこそ、本を読み、知識を蓄え、小説家になるという夢を抱く余裕もあったのだろう。一方、貧しい家の長男として育った虎太郎には、そんな余裕はなかった。十分な学を得ることもできず、夢を探すより先に、家族のために金を稼がなければならなかったのだ。東京に出てきたのも、一発逆転を夢見てのこと。生まれによって定められた境遇を自らの力で覆そうと、虎太郎は製薬会社に給仕として就職し、ついには社員にまで上り詰めた。

印象に残っているのは、シマケンと初めて対面したときのことだ。小説家志望だと名乗るシマケンに、「小説は読んだことがなくて……」と返した虎太郎は、「小説はまあ、読まなくたって生きていけますから」と笑顔を向けられる。すると、虎太郎は「私はりんと同じで、医療に関わる薬で世の中の役に立てるよう働いていきたいと思っております」と自らの志を語った。この発言は、単に恋敵であるシマケンにマウントを取ろうとしたものではないだろう。いかにも文学青年然とした風貌に、どこか飄々とした余裕のある振る舞い。自分にはないものを持つシマケンを前にして、虎太郎のコンプレックスが刺激されたようにも見えた。
シマケンとの出会いに奮起した虎太郎は、より一層仕事に打ち込んでいく。しかし皮肉なことに、虎太郎が頑張れば頑張るほど、りんとの心の距離は開いていった。それが如実に表れていたのが、看護婦のツヤ(東野絢香)が解雇され、りんが責任を感じて落ち込んでいたときのこと。直美から事情を聞いたシマケンは「それは気落ちしているだろうなあ」とりんの気持ちを慮り、励ますために紙で折った“トンビ”を贈った。一方、虎太郎は「うちの会社も辞める者はいるけど、それは仕方ない」とした上で、「成果が出ないのはその人に力が無いからだ。努力した者は努力しただけ上にあがれる」と言い切る。それは彼女の罪悪感を少しでも軽くしようとする虎太郎なりの優しさだ。決してりんの気持ちを突き放したかったわけではない。だが、結果的に傷ついたりんの心を癒したのは、ただ彼女の悲しみに寄り添ったシマケンのほうだった。




















