『さよならノワール』は警察ドラマの価値観を変える一作に “被害者”に光を当てる意義

映画やドラマなどのエンターテインメントは、ときに私たちの物事の見方や考え方を変えることがある。たったひとつの作品が、登場人物のさりげない一言が、私たちの価値観に大きな影響を与えることがある。たちまち目の前の風景は違って見え、それまでとは心の状態も変わる。そのような作品との出会いは、これからを生きていく希望にだってなるだろう。
そんなドラマ作品が、新たに誕生した。主演に小池栄子、共演に北香那を迎えた、『さよならノワール』(フジテレビ系)だ。この作品に新しさを感じ、小さな(あるいはとても大きな)光を見出しているのは、私だけではないだろう。ここでは本作の持つ特別な魅力について、言葉を尽くしてみたい。

本作は、警察内の部署のひとつ、「犯罪被害者支援室」にフォーカスしたヒューマンドラマだ。舞台は日本有数の歓楽街である池袋で、この地の治安を守る池袋署に犯罪被害者支援室が新設。元暴力団対策係の刑事で現在はここの支援員である主人公・黒木夏海(小池栄子)の元に、大学所属の心理学者・白石絵梨子(北香那)が派遣職員として出向してくるところから、物語ははじまった。
この「犯罪被害者支援室」とは、読んで字の如く、何かしらの事件に遭った人々を支援するための部署。悲しみや見えない傷を負った被害者らに警察官が寄り添い、人々がその後の人生を歩んでいくための手助けをするのだ。本作のジャンルとしては“警察ドラマ”であり、“お仕事ドラマ”だともいえる。しかし、実際に作品に触れてみて際立っていると感じるのは、やはり“ヒューマンドラマ”の要素だろう。これは人と人とのつながりや、個人間の特別な関係性にこそ光を当てている作品なのだから。

とはいうものの、本作の主人公は警部補というポジションにあり、各エピソードでは何らかの事件や事故が描かれる。
第1話では一件の火災事故を発端としたドラマが展開し、夏海たちが支援するのはこの事故で自分たちの店と夫を失った女性・小西さくら(北乃きい)だった。続く第2話の被害者として登場したのは、キャバクラで働く佐藤茂子(今泉佑唯)。彼女は常連客から不動産投資詐欺の被害に遭った人物だ。そして第3話で描かれたのは、とあるクラブで起きた将棋倒し事故。下敷きになって命を落とした笹村圭(柾木玲弥)の母・綾子(神野三鈴)が、夏海たちと出会う被害者だった。

それぞれの事件や事故には、それを引き起こした、発端となる存在がいる。警察官の活躍にフォーカスした通常のドラマであれば、ここで一番の目的とされるのは真相解明であり、視聴者に対して最大の見せ場となるのは犯人との対峙だろう。そういった作品たちを思い浮かべてみれば、いくつもの「名作」が並ぶのではないだろうか。
しかし、事件の真相解明や警察と犯人の格闘にスポットを当てたとき、多くの場合、そこから被害者の存在がこぼれ落ちてしまう。いやもちろん、エピソード(=事件)の重要人物のひとりとして、注目はされるだろう。けれども犯人の存在感が大きくなっていくにつれ、どうしたって被害者の印象は薄くなってしまう。さまざまな「名作」をエンターテインメントとして楽しむいっぽうで、ときに被害者たちの声が犯人の存在にかき消されてしまうことに、モヤモヤしてしまうことも少なくなかった。同じような気持ちになったことのある方は、きっと多いことと思う。

それに対して『さよならノワール』が見つめているのは、被害者の存在であり、耳を傾けているのはこの者たちの声。これが本作の持つ“新しさ”であり、“光”を見出すことのできるポイントだ。





















