“朝ドラ”の旅立ちシーンは女性の人生観を更新してきた 『風、薫る』『虎に翼』の共通点

朝ドラの旅立ちシーンにみる女性の人生観

 NHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『風、薫る』(NHK総合)の舞台が新潟に移り、新章が始まった。

 本作は明治時代を舞台にしたトレインドナース(看護婦)の一ノ瀬りん(見上愛)と大家直美(上坂樹里)の成長を描くバディドラマだ。

 看護養成所を卒業して無事、トレインドナースとして働くようになったりんだったが、患者の山本辰治(本田大輔)の願いを叶えるために、病院に無断で妻の元に彼を連れていった後、容態が急変して亡くなったことを自分の責任だと感じていた。

 その後、りんは看護ができなくなってしまい、病院を辞める。そして、女学校の舎監として働くために、家族と離れて新潟に一人で向かうことになる。

 りんがトレインドナースを辞めるという衝撃の展開を経てのスタートとなった新潟編だが、朝ドラでは、ヒロインが旅に出て舞台となる土地が変わることが、物語の大きな転換点として描かれることが多い。

 これまで朝ドラは、様々な女性の成長を描いてきたなか、その際に多く採用されてきたのが、故郷の田舎で暮らす少女が、進学や就職をきっかけに故郷を離れて新天地に旅立つ物語だ。

 この構造がもっともわかりやすく描かれていたのが、2001年度前期の朝ドラ『ちゅらさん』だろう。主人公のえりぃ(国仲涼子)は沖縄で暮らしていたが、高校卒業後は東京に向かい、一人暮らしをすることになったアパート・一風館の住人たちと家族のような親密な関係になる。その後、看護婦となったえりぃは、初恋の人・上村文也(小橋賢児)と再会して結婚する。そして最終的には、故郷の小浜島に戻って夫婦で診療所を開くことになる。

 故郷の田舎から旅立ち、東京や大阪といった都会で暮らすことになったヒロインが最終的に故郷に戻ってくる結末は、現代を舞台にした朝ドラの基本的な流れだ。近年では2021年度前期の『おかえりモネ』がそうだった。

 この物語構造は「行きて帰りし物語」という古今東西の英雄神話を忠実になぞっているといえる。その意味で朝ドラは現代の女性にとっての英雄神話のような存在かもしれない。

 とはいえ、故郷から都会に旅立ったヒロインが、仕事と恋愛を経験した末に母となって故郷に戻るという展開は、女性のロールモデルとしては類型的で、さすがに時代遅れになっている。そのため、結婚しても故郷に戻らない、そもそも母親になることだけが女性の幸せとは限らないといったかたちで、様々な女性の生き方を描くようになっているのだが、それでも故郷から都会に旅立つことで、ヒロインが新しい人生をスタートするという物語は、普遍的な展開だといえるだろう。

 実は『風、薫る』もヒロインの一人・りんの視点で見ると故郷の村から東京にやってくるという上京物語なのだが、これまでの朝ドラヒロインと異なるのは、結婚して母親になり子供を産むというのがスタート地点だということだ。横暴な夫の元から逃げるためにりんは娘を連れて上京し、住み込みで働いた後で、看護婦養成所という学校に通い、仕事や勉強を始めることになる。 

 母親になることも子どもを持つこともゴールとして描いていないという意味で、本作は画期的な朝ドラだと感じる。

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